作戦詳細
昼過ぎになって屋敷にクロード氏が帰ってきた。屋敷内にある客室のような場所で俺はメイリスと共にソファに座り、彼の報告を聞くことに。
「報告そのものは謁見するという形で行った」
「王様が直接聞いたんですか?」
驚きつつ問い掛けるとクロード氏は重々しく頷いた。
「陛下も関心がある……つまり、それだけ重要な事件ということだ」
「魔物の特性などから?」
「そうだ。最初の報告では、凶悪な魔物であり一切攻撃が通用しなかったとのことだった。よって聖剣を持つメイリスや、騎士団長であるエイント氏が討伐隊に編成されたわけだ」
クロード氏はここで苦々しい表情を示す。
「しかし、結果は散々なものだ……アルフ君がいなければどうなっていたことか」
「……王様を始め、政治を執り行う人々の間でも深刻に受け止めているのはわかりました。それでどのような報告を?」
「まず聖剣を持つメイリスの力は通用したことと、魔物を討伐したことは報告した」
ここについては正解ではある……が、当のメイリスは納得いっていない顔をしている。聖剣は通用したけど、俺の力によるものが大きいから、かな?
「そして、討伐の道中でアルフ君と遭遇したことを伝えた……無論、君の父親がいる場所でな」
「謁見の際は無表情だったでしょうけれど、内心ではどう思っていたことか……」
「君が生存しているだけならまだしも、私達と顔を合わせたわけだからな。そして、もう一つ。君の能力については語らなかったが、君が襲われた際に得られた情報により、討伐隊は犠牲者なく作戦を終えた、と伝えた」
微妙な言い回しだが……それなら俺が貢献したというのは伝わっただろうな。
「とはいえ、公的な場所であるためか君の父親から言及はなかった……加え、謁見後にも干渉なしだ」
「動きはなしですか?」
「屋敷で保護しているとも伝えたため、行動を起こすとしたらこれからだが……さすがにこの屋敷へ攻撃を仕掛けるなどという真似は、しないだろう」
……そこまでやったらもう無茶苦茶だからな。
「念のため警戒はするが……ひとまず数日、何も動きがなければ次の対応を考えるとしよう」
「いずれ俺の身柄を引き取る旨を通達してくると思いますが……」
「だろうな。けれどそれさえなかった場合……」
そこから先は言わなかった。さすがに何かしら干渉はしてくるだろうからな。
「というわけで、一両日様子を見ることにしよう。アルフ君にはもう少々ここに滞在してもらいたい」
「その間、訓練でもしようか」
メイリスが言う……のだが、
「いや、メイリスは登校すればいいんじゃ?」
「まあまあ、相手の動きをまずは見ないといけないね」
そう語る彼女だが……表情からは何か別に思惑がある様子。
一体何が見えているのか……問い掛けようとしたのだが、クロード氏がまとめの声を発した。
「私は情報収集を行うことにする。これからどうするのか……カーヴェイル家の動きを注視することにしよう――」
クロード氏が報告を行った翌日にはカーヴェイル家が動く……そう思っていたし、俺達はそれを前提として作戦を組み立てようとしていた……のだが、事態は思わぬ方向へ進む。
翌日、翌々日になっても一向にカーヴェイル家から連絡は来なかった。まるでクロード氏の報告を無視するような反応であり……いないものとして扱っているのだろうか。
ただクロード氏としてはこの可能性も予期はしていたようで、三日後の夕食時、一緒に食べながら俺へ言及した。
「おそらく騒動へ対処するための準備をしているものと推測する」
「準備、ですか?」
「君のことを言わば魔物を利用し暗殺しようとした……けれどそれは失敗し、なおかつ私達の保護下に入ってしまった。一両日警戒していたがこちらへ干渉する様子はなかったので、おそらく私達の方から干渉するのを待っているのだろう」
「クロードさんから話題を持ちかけてきたら動くと」
「そうだ。加え次は確実に目的を果たすため、準備をしている」
なるほど……まだカーヴェイル家とシャルレード家の交流が少ないため、身柄を引き渡せと要求するのも違和感がある、ということなのかもしれない。あるいは俺を利用して接近するために準備をしているという可能性も考えられる。
「シャルレード家側がいつまで経っても話し掛けてこない場合はどうするでしょうか?」
「さすがに動くだろうが、こちらとしても保護している君をいつまでもここに置いておくわけにはいかない……君のことは私達が預かっていることは報告してあるのだが、理由もなく長期に滞在させればいずれカーヴェイル家以外の人間からも言及されるだろう」
ふむ、そうなったら面倒か……と、ここでクロード氏は俺へ笑みを浮かべた。
「そこで、だ。少々手を変えようと思う」
「手を……?」
「メイリスにも協力してもらうことになるな」
「ん、わかった」
予期していたのか彼女はあっさりと受け入れる。しかし俺はわからないため、
「何をすれば?」
「メイリスと共に学園へ登校してくれ」
……眉をひそめる。いや、それ以前に俺は学園を辞めさせられているのだが――
「学園に赴いて確認したのだが、アルフ君の退学届は受理されているがまだ手続き的な処理はされていない。つまり、まだ学園に籍がある」
「俺が通う資格はあると」
「そうだ……で、君が得た力を利用し学園で少しばかり目立ってきて欲しい。それと共に私はある噂を流す……彼は中々に優れた若者だ。騎士団候補生として鍛錬させるべきではと」
――俺は内心でドキリとした。なるほど、俺が目立つように活動すれば、カーヴェイル家側も反応するだろう、ということか。
さらに言えば、クロード氏の語った内容なら確実に兄は反応する……十歳のあの日、偉大な騎士になるとして俺への態度を変えたセオのことだ。もし今回の騒動に関わっているのであれば、何かしらアクションを起こすだろう。
「騎士団長であるエイントは君の実力もわかっているし、口裏を合わせることもできる。私だけでなく彼の口からも似たような言及がされれば、カーヴェイル家は確実に反応するだろう」
「……確かに何かしら反応はありそうですが、身柄の引き渡しを要求するだけでは?」
「そこで、もう一つ手を打つ。例えば、そうだな……今回の魔物討伐でメイリスと交流をした。よって彼を従者とするのはどうかと。こういう形なら、私がカーヴェイル家と交渉し、君をこの屋敷に置くのはどうかと提案できる」
おいおい……とことん煽るな。しかもそういう形であればカーヴェイル家としては面目丸つぶれということになる。
なぜか――自分の家の子息ではなく、他家に才能を見いだされているのだ。カーヴェイル家としては息子の才覚すら見極められないのかと、陰口をたたかれる羽目になる。実際は偶然手にした魔法道具のおかげなのだが、そこについては深く語らなければわからないことだ。
「私はいいよ」
そしてメイリスはあっさりとクロード氏の意見に同意した。
「明日、学園に登校すればいい?」
「そうだな、頼む。アルフ君、指輪の力を存分に振るって、是非とも目立ってきてくれ」
……指輪の記憶を利用しなくとも、すぐさま目立つだろうな。俺はメイリスを見ながらそう思ったが、当の彼女は小首を傾げるだけであった。




