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悲劇の英霊を継ぎし者  作者: 陽山純樹


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選ばれし者

 魔物を討伐後、騎士や兵士はこの場で野営を始めた。同時に開けた場所の地面や周辺の森を魔術師達が調べ始める。魔物がどう発生したのか――さらには再び魔物が出ないかを検証しているようだ。

 そうした中、俺は火を囲んで食事をすることになった。一緒に座るのは騎士メイリスに加えて彼女の父親と、この隊を指揮する男性騎士。青い髪と藍色の瞳を持つ御仁であり、俺はその顔立ちから誰であるのかを推測する。


 で、鍋を火に掛けスープを作っているのだが、調理しているのは騎士メイリス。ずいぶんと手慣れた様子であり、一度味見をして納得がいったのか、彼女はどこからか持ってきた取っ手のついたカップの中にスープを流し込み、俺へ差し出した。


「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」


 礼を述べた瞬間、騎士メイリスは苦笑する。


「セオドリックさんの双子の弟ってことは同い年でしょ? 敬語になる必要はないのに」

「いえ……まあ……」


 なんというか、同じ貴族ではあるのだが彼女と俺とでは住む世界が違いすぎるというか……そうした心情により、気後れしているのが実情である。

 しかも一緒に食事をするのが彼女の父親と騎士――この人物は騎士団長だ。俺にとっては全てが雲の上の話であるためとにかく緊張しっぱなしである。


 そんな俺の様子はこの場にいる人全員に伝わってきただろう……騎士メイリスの父親が笑いながら話を始めた。


「食事は当番制なのだが、学生という領分であることからメイリスが率先してやっているのだ。味は悪くないぞ」

「はあ……」

「常日頃料理をしているのですか?」


 と、騎士団長が騎士メイリスの父親へ問い掛けると、他ならぬ彼女が口を開いた。


「まあちょっと趣味で。気分転換でやる感じですね」

「そうか……とはいえ、野宿で行う料理と屋敷で本格的にやる料理とではまったく違うだろう」

「だから勉強になっています」

「勉強か、なるほど」


 笑いながら団長はスープを口に付ける。彼が「美味い」とコメントする間に、俺は騎士メイリスからパンを受け取る。


「さて、食べながら話をしよう」


 と、彼女の父親が口を開く。


「まずは自己紹介だな。メイリスのことは知っているようだから、私からか。名はクロード=シャルレード。勇者の末裔ということ萎縮してしまうかもしれないがもっとリラックスしていいぞ。何ならタメ口でも構わない」

「さすがに……それは……」


 パンとスープを持ったまま俺は返答。段々と考えが卑屈になってこの場でパンを口に入れるのも恐れ多いとか考えてしまっている。

 そんな心境の中、今度は騎士団長が話し始めた。


「私の名はエイント=ロズヴィア。知っているかもしれないがアスディア王国騎士団長をやらせてもらっている……ああ、私もタメ口で構わないんだが」

「無茶言うよね、二人とも」


 スープをかき混ぜつつ騎士メイリスが横やりを入れる。


「エイントさん、部下にも同じ事言っているみたいですがそんなの無理ですよ」

「そうかい? ま、この辺りは慣れてもらうとしてだ」


 騎士エイントは俺を真っ直ぐ見据える。


「君がここにいる経緯や魔物を一撃で倒したその能力について気にはなるが、私達の説明からだな。なぜこんな山奥で活動をしているか……元々、先ほどの魔物については以前から報告が上がっていた。見るからに凶悪な魔物であるため討伐すべきだという判断を下し、部隊編成を急いでいたのだが、ここで急報が入った」

「急報、ですか?」


 問い返した俺に騎士エイントは首肯し、


「そうだ。街道に同様の魔物が出現したと」


 ――俺を襲った魔物だ、と心の内で呟く間に彼が解説を続ける。


「それによって私達は王都を出た。ただ、その魔物についてはいずこかへ逃げ去った様子。よって当初の予定通り魔物が報告された場所へ赴き……つまりこの周辺に辿り着き、交戦したのだが」

「あの」


 俺は小さく手を上げる。


「どうしたんだい?」

「街道に出現した魔物なんですけど……」

「もしや、君が倒したのか?」


 先んじての問い掛けに俺は小さく頷く。するとクロード氏が「おお」と感嘆の声を漏らす。騎士エイントもまた驚いた様子だったが、騎士メイリスの反応は違った。


「ん、ちょっと待って。戦闘経験があるのなら、なぜ最初から魔法剣ではなくて普通の剣を使っていたの?」


 ……彼女はすぐに気付いた。そうだよな、違和感がある。破壊される恐れのある剣で戦う必要はないよな。

 そこを理解してもらうには、最初から説明しなければならないだろう……話すのは別に構わないが、最大の問題は納得するのかどうか。とある魔法道具のおかげですと言われてはいそうですかとあっさり受け入れるのか。


 あと、俺の身の上については……さすがに俺が馬車に乗ってどこへ行くのか、という詳細を語る必要はないし、適当に語ればいいか。


「えっと、それについて語りますけど、納得いくかどうかは――」

「話してくれ」


 騎士エイントが遮るように俺へ言う。そこで俺も踏ん切りがつき、ゆっくりと語り始めた。






 内容としては正直、ものの数分で語れることではあるので説明についてはあっさりと終わった。一応、俺の能力についてもきちんと語り、魔法の道具である指輪についても話した結果、騎士エイントが興味を示した。


「見せてもらうことはできるかい?」

「どうぞ」


 俺は指輪を外して差し出す。彼はそれを受け取るとじっと見つめ、


「……魔力は感じ取れる。しかし、それ以外は何の変哲もない指輪だな。不思議な力が込められているとは到底思えない」


 彼はそう述べた後、俺へ指輪を返した。


「ありがとう、これは私の推測だが、指輪はアルフ君を選んだのかもしれない」

「……選んだ?」

「話を聞く限り、指輪に込められた記憶は悲劇が関係している……最後の王子などは特にそうだ。悲劇の英雄に関する記憶を宿した指輪……どういう方法で、という疑問は残るのと同時に、これは単純に誰かがはめて使えるといった物ではないのだろう」

「何か条件がいると?」

「かもしれない。その条件自体は不明だが」


 ……正直、俺を選んでどうするのかという思いはある。この指輪の作成者がどういう目的で指輪を生み出したのかわからない。ただ、悲劇の英雄――英霊を継ぐ存在を求めていたとすれば、それはきっと世界を救うような強者ではないのか。

 だとしたら俺は到底力不足……沈黙している時、視線に気付いた。見れば騎士メイリスがじーっと俺のことを見ている。


「あの、何か……?」

「……ううん、何でもない」


 どうしたんだろうか? 疑問ではあったのだが騎士エイントが口を開いたため言及することはなかった。


「アルフ君、経緯はわかったけれど、一つだけ質問してもらっても?」

「え、あ、はい」

「家庭の事情で馬車に乗り旅を始めたのは良い。ただ、どういう形であれ魔物を倒した場合は、近くの町もしくは王都へ戻るはずだ。にも関わらず君はここにいる……それは、何かしら理由があるのかい?」


 う、ボカして語ったことにより疑問を持たれてしまったらしい。これ、どう説明しようか。

 俺が沈黙していると、騎士エイントは何かを察したようで……いや、察したというよりは複雑な事情があることを理解したのだろう。


「……ああ、話さなくてもいい。ただ、衣服からして冒険者として活動しているようだから、今回の魔物討伐に対し、手を貸してくれたりはするのかい?」


 ――思わぬ提案。いやまあ、俺の能力……というか指輪の力を見てこういう風に言ってくるのは当然か。

 俺が頷くと、騎士エイントは「ありがとう」と礼を述べ――交戦した魔物について、語り始めた。


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