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魔法の剣

『――よもや、ここまで抵抗するとは思わなかったぞ』


 周囲に広がるのは平原。そこには多数の騎士と兵士が横たわる姿があり、そうした中で俺の視点では異形が見えた。

 漆黒の仮面を被り、人間の身の丈を倍する存在。二本の足で立ってはいるし腕も二本なのだが、肉塊が混ざり合ったかのような色合いをしており、さらに言えば発する魔力によって周囲に生える雑草などが例外なく枯れていく……ただそこにいるだけで世界を滅ぼしうる存在。それは果たして魔物なのか、あるいは別の存在なのか。


『しかし、とうとうお前一人となった。見よ、この絶望的な惨状を。見よ、荒廃した世界を。やがて人類は終焉を迎える。この世界は私が支配し、そして我が配下が全てを染め上げる』


 異形の後方には、相対する存在を人間サイズにしたくらいの個体が多数いた。周囲の状況を見れば、覆すことなどできないあまりに絶望的な状況……だが、


「そうはさせない」


 自分の口が勝手に動いた……ただ一人残ってしまったが、最後まで抵抗するらしい。


『ほう? 何故そこまで戦う?』


 そして異形は問い掛けをした。


『そうまでして、何故抗おうとする?』

「世界を脅かす存在だからだ」

『お前と共に歩く者も、守る者もいないのだぞ?』


 異形は、どこか憐れむように問い掛ける。


『この国は滅んだ。たまたま、我が目覚めた場所に近かったため狙われた……そして、我は思うがままに国を蹂躙し続けた。最早民はいない。領土は荒廃し、国があったなどという証もない……つまり』


 異形はギシリ、と一つ音を上げた。


『お前が守るべき民など、もういない。お前の父親――国王共々滅した。もはや戦う理由など、あるまい?』


 ――王子、ということか。異形に問われたが、それでも王子の戦意は衰えない。


『世界を守るなどという責務か? 愚かな行為だな』

「……どうだろうな」


 王子はそう答え……その時だった。

 爆音が轟いた。異形が周囲に視線を向けると、後方にいた配下が残らず光に飲み込まれていく。


『何……!? これは……!?』

「策は成った。民を犠牲にして発動させた……お前達を滅ぼす魔法だ」


 魔法は地面から噴き上がっている。戦場に魔法陣か何かを仕込んでおいて、このタイミングで発動した。

 それと共に、地面に横たわる人間が地面に飲み込まれるように消えていく……彼らの体に残った魔力を吸い、魔法を発動させているのか。


「これで配下は滅した。あとは貴様だけだ」

『ほう、そうか』


 してやられた異形だが、それでも余裕の態度を見せる。


『配下を滅したとしても、時間を掛ければ再び生み出せる。所詮その程度の存在だ』

「だろうな。しかし今この時、貴様を倒せば全てが終わる」


 そう告げた矢先、王子は静かに魔力を高めた。


「――我が体に眠りし人の根源に宿る力よ。魔の敵を討ち果たすべく、解き放て!」


 言葉の直後だった。王子の右手に輝きが溢れ、それが一挙に形を成す。

 異形はそうした光景を見てどう思ったか……見た目は変わらないが、気配から察することができた。今異形は人間が瞠目するかのように驚愕し、


『馬鹿な……! その力は……!』

「お前を倒すためだけに磨き上げたこの力……終わりにさせてもらうぞ!」


 宣言した瞬間、光は長剣と化し――王子は、突撃を開始した――






「――おい!? 大丈夫か!?」


 呼び掛けにはっとなった。気付けば夜の森。多数の魔法の明かりによって照らされた空間。真正面に見覚えのある魔物と背後に多数の騎士。声は後方にいる誰かのものだろうと察した瞬間、魔物が戦斧を振りかぶり俺へ向け一閃した。

 俺の体を水平に撃ち抜くよう放たれたため、即座に折れた剣を盾にしながら回避に転じた。こちらの動きに合わせ戦斧は迫ってくるが……剣の根元はヒビが少ない。おそらく、一度なら受け流せるはず――


 追いすがる戦斧を俺は剣で受け……どうにか軌道を逸らすことに成功し、紙一重で回避できた。だがその代償に剣はとうとう根元から砕け散り、使い物にならなくなる。

 むしろ、半分残っているからといって攻撃していれば危なかったかもしれない……結果的に武器がなくなってしまったわけだが、先ほどの記憶――その力は既に宿っている。ならば、勝機はある!


「――我が体に眠りし人の根源に宿る力よ」


 一言一句、記憶で発した王子の言葉をなぞる。次の瞬間、右手に淡い光が生まれた。


「魔の敵を討ち果たすべく……解き放て!」


 声と共に、一気に光が膨れがあったかと思うと収束し、一本の長剣と化した。これはまさしく魔法剣――攻撃魔法の応用であり、自らの魔力で武器を生み出す術だ。

 魔法使いは遠距離から魔法を放つことが多いため、接近戦は苦手。よってこうした魔法を使うのは騎士や戦士……あの王子は剣術を習得していたのだろう。そして異形を倒すためにこの魔法を生み出した。


 その輝きは、王子が見せたものと比べれば淡い……当然だ。俺の魔力量では記憶通りの力は出せない。けれど――目の前の魔物を倒すには、十分過ぎる力だと確信する。

 真正面にいる魔物が吠える。俺は既に間合いを詰めており、魔物は一片の容赦もなく戦斧を振り下ろした。


 俺は魔法剣を掲げることで対抗する。そして刃と刃が触れた瞬間、刀身に魔力を注いだ。それによって――戦斧の刃が、一気に砕け散った。

 俺が持つ剣の力……それはどうやら目の前にいる魔物で抗えるものではないらしい。武器を失った魔物に対して俺は踏み込んだ。そしてヒュン、と一つ風切り音。同時、魔物の頭部が胴体から離れ、魔物は崩れ落ち……消滅し始める。


 倒せた、と思いながら視線を転じる。もう一体の魔物は――


「はっ!」


 騎士メイリスの声が聞こえた。聖剣がとうとう魔物の頭を射抜き、突きを決めた瞬間だった。

 彼女が剣を引き抜くと同時、魔物は声もなくゆっくりとした動きで倒れ伏す。ズウン、と音を立てた巨躯はやがて塵となっていき、戦闘が終了したことを認識させられた。


 ふう、と騎士メイリスが息を吐く姿が目に映る。そして俺の方は騎士達から注目を浴びており、彼女もまたこちらへ視線を向けた……その時、


「――無事か!?」


 男性の声だった。見れば俺達がいる森から援軍と思しき騎士達が現れた。それと共に周囲の人間は弾かれたように動き出す。

 そうした中、俺へいち早く近づいたのは騎士メイリスだった。


「……ありがとう、助かった」


 端的な物言い。俺は彼女が心の底から感謝しているのがわかった。これも、指輪に備わっていた記憶の力だろうか。

 同時に犠牲者――それが皆無であるため、安堵している気配も感じられる……で、俺の顔は見覚えがない様子。カーヴェイル家の人間であることはわからないようなので、適当に誤魔化して町へ戻るべきだろうか。


 ここで彼女へ近づく騎士が一人。年配の騎士のようだが、


「――父上」

「無事だったか、メイリス」


 彼女の父親らしい……と、ここで俺はまずいと感じた。学園内であった噂――セオと聖剣所持者である騎士メイリスとを引き合わせるためにカーヴェイル家が動いている。であれば、


「……む?」


 彼女の父親がこちらに気付く。金髪碧眼の彼女とは異なり、黒い髪に黒い瞳を持つ精悍な御仁であった。

 その人物が俺を射抜くと、すぐさま僅かに目を見開いた――あ、うん。知っているなこれ。


 だが当然、見知っているのは兄であるセオの方だろう。一瞬セオのフリをした方がいいのかと考えたが、そんなことやってもすぐにボロが出ることに気付き、


「君はカーヴェイル家の――」

「えっと、弟の方です……」


 正直に答えるしかないだろう、と観念し素性を口にしたのだった。


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