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騎士と魔物

 森の中を進んでいると日が暮れ始め、周囲は漆黒の闇に包まれた。

 俺は魔法の明かりを生み出し進む。気配は明瞭に感じ取れるため、動物や魔物を避けることができ、問題なく進むことができた。


 やがて、はっきりと声が聞こえ始めた。俺が魔物を倒して回っていた地点からそれなりに距離のある場所。金属音が聞こえるので明らかに戦っている。その相手は一体何なのか。

 歩む間に俺は魔物の気配を感じ取る――それが砦で倒したあの魔物と酷似していることに気付いた時、森の中を疾走した。


 闇の中をひたすら突き進む。明かりがあるとはいえ危険な行為だが、感覚が鋭敏化し、その結果生物の動きだけではなく草木や無機物が発する魔力すら感じ取ることができて、昼間のように全てを理解しながら駆けることができた。


 戦闘態勢に入ったため、指輪によって得た狩人の能力が真価を発揮したのかもしれない……やがて現場に到着。そこは森が円形に開けていた。落雷などで一部森が焼失したのか……そうした場所で騎士と兵士が魔物と戦っていた。

 敵は――俺が相対した獅子の頭と戦斧を持つ、あの魔物であった。


 直後、オオオオオオオオ! と雄叫びが上がる。


「来るぞ! 食い止めろ!」


 騎士が叫び、周囲にいた者達が武器を構える――魔物は同様の姿をした存在が合計で二体いた。その一方が騎士達へ向け突撃を開始し……直後、騎士の後方にいる魔術師達が魔法を一斉に放った。

 刹那、森の中に圧倒的な光が生まれた。火球、閃光、雷撃――森の中で炎はまずいんじゃないかと思いつつも、そんな配慮をする余裕がないのかもしれない、と俺は直感する。


 魔法は十数も放たれ、その全てが魔物に当たる……それで敵は動きを止めることには成功。魔法の効果が途切れその姿が見え……外傷は皆無であった。

 衝撃によって足は止めたのだが……咆哮が響き渡る。騎士達は一歩後方へ退きながら、剣や槍を構え牽制する。


「とにかく耐えろ!」


 最前線にいる騎士が叫ぶ……彼らは片方の魔物を食い止めている形。魔法攻撃が効かないことを踏まえれば、騎士や兵士の攻撃も通用しないため、時間稼ぎをしている様子。

 では誰が魔物を倒すのか――その答えはもう一体の魔物と対峙する人物。俺から見て騎士達が戦う奥側に、白銀に輝く剣を握る女性騎士がいた。


「聖剣……」


 物陰で俺は呟いた。聖剣を持つ騎士メイリス。彼女が、たった一人で片方の魔物を相手していた。


 グオオオオオオ!


 魔物が叫び、戦斧を振り上げ騎士メイリスへと振り下ろす。動きは常人であれば避けることなど極めて困難な速度――だが彼女は紙一重で斬撃を避けた。

 途端、戦斧が地面を砕き破壊する。その間に騎士メイリスは魔物へ肉薄――無謀とさえ言える動きだが、彼女の所作は流麗であり、一瞬の内に魔物の体躯へ聖剣を薙いでいた。


 ザン――光が魔物の体を通過する。魔物はダメージがあるのか咆哮を上げた。けれどすぐさま戦斧を構え直し今度は横一閃。しかしそれもまた騎士メイリスは軌道を見極めてかわした。


 ――凶悪な魔物に臆することのない胆力と、強固な相手に通用するだけの力。見れば彼女と戦う魔物の体にはいくつもの傷が生じていた。交戦してどれほどかわからないが、暴風とも呼べる魔物の攻撃をかいくぐり、ダメージを与え続けているらしい。

 俺は一撃で倒すことができたけれど、個体差があって防御力などが高いということだろうか……? 推測しつつ彼女は魔物を倒せるだろうと思った……そしてもう一体は他の騎士や魔術師が総出で食い止めている、と。


 魔物の能力から一定以上の威力がなければ技や魔法が通用しないらしい。だからこそ聖剣を持つ騎士メイリスのみが魔物に対抗できて、単独で戦えている。ただ早く魔物を倒さなければ、もう一方の魔物が騎士達を蹂躙するだろう。

 だからこそ騎士メイリスは聖剣の力を活用し魔物を仕留めようとしているが……無理に攻めて自分がやられればまずいことになる。戦う彼女の背中からは、冷静さを維持しようとする感情と同時に、焦りが見え隠れしていた。


 その時、魔物を食い止める一人の男性騎士が戦斧をどうにかして受け流す……が、衝撃を完全に殺せなかったらしくバランスを崩した。そして近くにいた騎士や兵士を巻き込む形で倒れ込み――魔物はその騎士へ向け戦斧を掲げた。

 数秒にも満たない内に、斧が騎士へ向け振り下ろされるだろう。声などで状況に気付いたのか騎士メイリスが振り向いた。まずい――そんな彼女の心境が、俺の目に映った。


 その瞬間、体が勝手に動いた。刀身に魔力を注ぎ森の中から飛び出すと、今まさに振り下ろそうとした魔物へ横から迫り、胴体へ向け一閃した。

 魔物は完全に虚を衝かれた形であり、俺の攻撃を避ける素振りすら見せず、食らった。途端、雄叫びが上がる。騎士に代わって魔物と対峙すると同時、後方から声が聞こえてきた。


「き、君は……!?」

「話は後に! 態勢を整えてください!」


 俺の言葉を受け、騎士達は動き出す。視線は魔物へ向けたまま気配で彼らの動向をつかみ、敵を見据える。

 改めて見ても、やはり俺に襲い掛かってきた魔物と同じだった。体つきから頭部の形状、そして武器についても全てが余すところなく同一。これは――

 考察する間に魔物が仕掛ける。横薙ぎが迫り、俺は剣を構え受け流そうと動く。


 刀身と両腕に込めた魔力により、斧の軌道を少しばかり曲げることができる……攻撃を受け流した瞬間、懐に飛び込んで反撃に転じる――そこまで頭の中で作戦を描いた時、俺は今までとは違う予感を抱いた。


 それは、この戦術が失敗する未来――なぜ、と心の中で呟いた瞬間、俺は察した。魔力が収束している剣。その刃に、いくつも細かいヒビが入っている。

 もしかすると、魔力を注いだタイミングで体が違和感を抱いたのかもしれない。体に記憶が染みつき、頭では理解できないことでも直感できるようになっている――そういうことなのかもしれない。


 刹那、俺は体を無理矢理逸らし戦斧を避けた。だが剣は――戦斧に当たると半ばから先端までが綺麗に両断された。

 攻撃は食らわなかったが、剣の長さが半分となる。そればかりか残った刀身には細かいヒビがあり、剣を当てても魔物を倒せる保証はない……魔物の攻撃に耐えられなかったのではない。魔力を注ぐことで武器を強化していたわけだが、俺が収束する力に剣そのものが耐えられなかったのだ。


「逃げろ!」


 そこで、後方から声が聞こえてきた。武器の惨状を見てのことだろうけど、ここで逃げればどうなるか……正直、他に食い止められる人物はいないのではないだろうか。

 魔物がうなり声を上げる。剣は折れたが斬撃を受け流したため警戒しているらしい。その間に俺は騎士メイリスのいる方向へ意識をやる。彼女もまだ戦っているが、魔物の力が減りつつあるので決着はそう遠くないだろう。


 時間稼ぎができればいいが、この剣でどこまでやれるか――魔物が動き出す。そこで俺は折れた剣を握り直し覚悟を決める。

 やるしかない……そう思った瞬間だった。突如、左手――指輪を嵌める指が熱くなったかと思うと、俺の視界が真っ白に染まり、意識が飛んだ。


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