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能力検証

 騎士達が去った後、俺は朝食をとってから町を出た。そして真っ直ぐ森の中へ入るべく街道を進む……遠目に町を通った騎士達の姿が見える。


「俺と方角は一緒か」


 そっちは避けた方がいいのだろうか、と考えつつも足は止まらなかった。むしろ気配を殺し戦いぶりを観察してみるのもいいのでは、などと思った。


「たださすがに、聖剣使いの彼女には見つかるか」


 俺は先ほど見た聖剣の継承者――メイリス=シャルレードのことを思い出す。圧倒的な気品を持ち、他者を惹きつけるオーラをまとっていた。魔王を倒した勇者というのは、ああいう存在なのだろうと確信させられるほどだ。

 そんな彼女が騎士達と共にどういった魔物を討伐しに向かうのか……ふと、俺は交戦した魔物を思い出す。あれも相当な脅威だったが――


「そういえばあの魔物、街道に出現したんだよな。捜索隊とかが調べているのかな?」


 倒してしまったけど、国側からすれば街道に出現後、忽然と姿を消していることになる……その辺りもいずれ調べよう、と胸中で呟きつつ、歩を進める。

 程なくして森へと辿り着いた。街道に沿うような形で広がる森の奥には山……連なる山脈が存在している。


 それを見た後、茂みをかき分け森へ入った。その瞬間、記憶から得た狩人の記憶により、森中にいる生物の気配を感知する。

 そういえば町中ではあまり意識していなかったのもあるが、気配というのを上手くつかむことはできなかった。ということは狩人特有の能力は森の中だけで発動する? あるいは能力を完璧に制御できれば森中と同じようにできるのか……考えつつ、剣を抜く。


 ガサガサと音を立てながら気配を探る。俺が放つ音によって周囲にいる動物の気配が遠ざかっていくのがわかる。うん、これなら森に被害を与えることなく魔物だけを倒すことができそうだ。

 しばらくは森の中をひたすら進むだけだったのだが……やがて、魔物の気配を感知。狩人の記憶――魔物と相対していたことが関係しているのか、魔物の気配は他の動物よりも遙かに克明に居場所を察知することができた。


 ここで少し駆け足となって森の中を進んでいく。普通なら歩きにくいはずなのだが、これも記憶の影響か、転ぶこともなく突き進むことができる。


 ――そうして遭遇した魔物は、虎や獅子を象ったかのような見た目をした四本足の魔物だった。赤と黒を混ぜ込んだ奇っ怪な色を持った個体は、俺を見るなりうなり声を上げ、真紅の瞳をこちらへ投げかけてくる。

 魔物は同時に魔力を発した。威嚇のつもりか。こちらを警戒し、俺から視線を離そうとしない。


 対する俺は、無言で剣を構える。凶悪な魔物であるのは間違いないと思うのだが……緊張も動揺もなく、スムーズに体を動かすことができている。なおかつ記憶の影響で魔力を自在に操作することもできる。


「戦闘は問題なさそうだな……」


 呟きながら魔物を注視。敵が動いたら即座に応じようというつもりだったのだが、そこで俺はあることに気付く。


「ん……この気配は……?」


 なんというか、魔物が発する気配は俺が倒したあの魔物と似ているような気が……ただそれは酷似というレベルではない。精々「臭いが似ている」くらいのものではあるのだが、


「まさかこういう魔物がたくさんいるのか……?」


 呟いている間に魔物が飛びかかってきた。その瞬間、俺の体は自然に動き魔物の攻撃をかわした。そしてその体へ一太刀入れて……あっさりと消滅する。

 魔物の外皮などは強固ではあるようだが、剣に魔力を付与すれば何の問題もなく斬ることができる……これは記憶を通して得た騎士の技術。自分自身で経験をしていないのに、問題なく力を発揮できている。


「戦いを通して、色々調べたいところだけど……」


 魔物を倒した直後、新たな気配を感じ取る。まだ距離はあるのだが、今の俺なら難なく近づけるだろう……よって進み始めた。






 検証をする際、一番気になったのは魔力――騎士や狩人の技術や魔法は受け継いでいるが、俺自身の魔力に変化はあるのか……指輪に込められていた力が身に宿り、それによって強くなったのではと最初思ったのだが、違っていた。

 両者の技術は俺の魔力を通して発揮されている。ただ俺が抱える魔力は少なかったはずで……これについては一定の結論を得た。魔力量は変わっていない。その少ない力を利用して、能力を発揮できている。


 次に、魔力の質。俺の魔力を使って騎士や狩人の技術を使うと、魔力の流れが変化している。魔力を引き出す時は自分の力だけど、使う瞬間に記憶の技術が発揮できるよう自動調整されている……これが指輪の力かな? とか思ったのだが試しに指輪を外してみても能力はちゃんと使えたので、新たな疑問が生まれた。

 まあ記憶を封じてあってその技術を使えるという時点で摩訶不思議な道具なんだけど……とりあえず得た記憶は体に染みついているので、今はそういうものだと納得することにしよう。


 検証の結果、記憶により技術は得たけれど、魔力の総量は変わっていないので彼らの力を全力で使うのは難しいという結論を得た。ただ魔力を節制しながら戦うという技術も保有しているため、少ない魔力でも上手く立ち回ることができている……うん、能力確認と課題も出た。

 魔力が少ない、という問題はすぐに解決できないけど、鍛錬次第では……そんな風に考えつつ俺は戦い続け……狩人の能力に基づく気配探知で、魔物が観測できなくなった時に立ち止まった。


「ん……?」


 山のある方角を見る。何か……声というか音が聞こえた気がした。


「幻聴かな……?」


 そう思った時、風が吹く。山から吹き下ろしてくる風であり、春を迎えたばかりの季節で冷たいものだったのだが、その風に乗って魔力を感じ取ることができた。

 まさか風に乗って流れる魔力を感知するとは……いや、風を読むみたいな能力だってあるんだから、こういうのもありか。


 ただ正直、現時点で騎士の技術も狩人の技術も使いこなせている気がしない……やはり俺の魔力量が少ないせいで全能力を発揮できずにいるようだ。

 打開策はひたすら修練し、魔力量を増やすことか……長い道のりだと考えながら、俺は漂ってきた魔力について考える。


「声と気配……朝見かけた騎士達のものか?」


 山から感じられたので、そうとしか考えられない……もしかして、現在進行形で騎士達が戦っているのだろうか? 仮にそうだとして……俺はどうすべきか?


「俺の出る幕なんてないのかもしれないけど……」


 先ほど倒した魔物のことを考える。俺が最初に交戦した戦斧を持つ凶悪な魔物。あれと似た臭いを持つ今日倒した魔物……正直、これが偶然とは思えない。そして戦斧を持つ魔物が兄や父の仕業によるものだとしたら、


「誰かが魔物を作り、それによって何かを起こそうとしている?」


 口に出してみると、嫌な予感がする……もしかして、国全体を巻き込むような事件になるかもしれない。

 しかし、だとすれば兄や父はどうして……無論、あくまでこれは俺の勝手な推測だ。確たる証拠があるわけではないけれど――


「……情報がとにかく欲しい。騎士達の所へ向かってみるか」


 決断し、俺は山へ足を向け歩き始めた。


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