予兆
薄暗い室内に、わずかにペンライトの光が漏れる。
張りつめた空気が流れる中、押し殺した男の声が響いた。
「アリスによると、システムへの潜入には成功したそうです。ただ、ターゲットの位置については未だ判明せず……」
報告を受けた男はだが、満足そうに一つうなずいた。
「この中の配置はさして変わっては無いだろう。ならば彼の居場所は、大方見当はつく」
その時、彼らが囲んでいた機械に赤いランプが灯った。
「侵入に気付かれたようです。いかがしますか? ドライ」
「内部の状況は、見られるか?」
その言葉に応じるように、小型ディスプレイに防犯カメラの傍受であろう画面が映し出される。
それを見つめる男……ドライの目が、わずかに細められた。
「何か……?」
「見ておきたまえ。これが惑連の最高機密にして、最大の汚点だ。私も含めてだが」
そこに映し出されたのは、銃器を構えた数名の戦闘員だった。
その中に混じって、惑連宇宙軍の軍服をまとってはいるが何かがかが違う『モノ』がいた。
肩口の所属を表す徽章は、硝子の目を持つ鋼鉄の鷲。
そして、彼ら自身の瞳も硝子色に鈍く光っている。
噂に聞く『特務』の姿に、室内の空気はわずかにざわめいた。
ふと、画面が切り替わる。
先ほどとは異なるブロックに、また別の『特務』の姿があった。
その顔を認め、ドライは短く口笛を吹く。
「……なるほど、そういう訳か……」
「ドライ、こいつは、確かルナで……」
「Dがこの事を知ったら、悔しがるだろうな。色々な意味で」
心底面白そうに、ドライは笑った。
「上出来だ。訪問に際し、こちらからご挨拶に行くのが礼儀だろうな。三名、来い」
「それだけでよろしいのですか? 待機……撹乱部隊から多少割いた方が……」
笑いながら、ドライはその言葉を遮った。
「無用だ。予定通り、地上で一騒動起こしてくれればそれでいい。……行くぞ」
明らかにドライは、状況を楽しんでいるようだ。
そして、四人が室外へと消える。
テラ惑連最悪の日が始まろうとしていた。