別れと再開
嘘と真実。曖昧な時間。
なぜエルはこんな伝え方を僕にしたんだろう。
或いはそうせざるを得なかった状況に置かれていたとしたら?
何者かがエルを監視していて、それをエルが自覚していたとしたら?
もしもそうだとするなら、パスワードだ。
それはそうだろう?なぜかって?逆に問おう。君は監視されているかも知れない状況で誰かへ助けを求めるメッセージを犯人に分かるように伝えるか?
少なくとも僕はそこまで馬鹿ではない。
さて、問題はここからだこのパスワード君には理解出来るか?先に言っておこう。僕には理解出来ると。何故?
これは僕とエルが過ごした時間だからだ。
嘘と真実。架空と真実
。
僕が過ごしていた日常とエルとの非科学的な出会い(フィクション)と。
曖昧な時間。それは「楽しかった時間」
経験があるんじゃないか?楽しい時間ほど曖昧ですぐに過ぎてしまう時間はないだろう?
ならばその時間に私を。エルを叫ぶとはなんだ?
これが答えなのであれば完全に詰みなのだ。
エルはここにはいないのだから。
そもそもな話、今までの推理も合っているのか分からない。
ただ、何となくそんな感じがしたのだ。
ならばこの私を叫ぶと言うのは?
考え込む。
あぁ。そういう事か。最初から全部お前は、エルは分かっていたのか。
そうだ。あの頃の僕は「誰かとの生活」を心から願っていた。
エルは「覚えてないんだ」と言った。そこにはあったのではあいか?
僕に会いたいという強い願いが。
そんな願いと願いは交差して。交わって。
非日常を生む。エルとの出会いを生んだ。
どんなに合っている確率が低い推測だろうか?
ただやってみるだけであればタダなのだ。
だから。叫ぶ。僕の思っていた事を。願いを。
こんな状況でも思わず顔が緩んでしまいそうになる楽しかったエルとの日々を振り返りながら。
「エルを。家族を返せ...!!」
ただ叫んだだけじゃない。これは僕の感情を。怒りを。願いを込めた「心の」叫びだ。それは小声だった。宇宙を貫く程の大声だった。
また、あの光が僕を包む。
ただ「あの時」の様な恐怖はなかった。
大丈夫だから。心配ないから。
そうエルが励ましてくれている気がしたからだ。
ただ、もしエルを拐った犯人が武器を持っていたとしたら?
僕を殺そうとしてきたら?
僕はそれに抗う力はない。
結局の所、僕は無力な「人間」なのだ。
でも、それでもいい。
自分が守りたいものを守る。
それだけの勇気があれば人間は強くなれる。
だから、今の僕は強い。
そう自分を励ましていた。
光が収まる頃にはあたりは一変して、まさにSFの世界と言うのが正しいような所に僕は立っていた。
僕の予想に反して、その空間には僕以外の生命体は居らず、時を止めたかのような静けさが辺りを包んでいた。
大丈夫、大丈夫。
僕は自分を勇気づけるようにそう自分に言い聞かせ歩み始めた。
しばらく歩いているとそこにはいかにもな扉があった。
扉に近付くと「プシュー」という音を立てながら僕を歓迎する。
僕は
「心の準備くらいさせてくれてもいいだろ...」とぽつりと独り言をこぼした。
なんとなく予想は出来ていたが、そこにはエルの姿があった。
エルを囲んでいるのは銃のようなものを持った「人に似た」生命体だ。
それらは僕を見るなり足元にエネルギーのような何かを放ってきた。
こんな所までSFなのかよ!!と僕はエルの方に走り出した。
生きていられる保証なんてどこにもない、むしろ生きていられない。
死の保証がされているに近い状況だろう。
だが、攻撃は僕には当たらない、僕が避けているから?
否だ。僕は一般人、そんな大それた能力なんて持ち合わせてはいない。
ならなぜ?
僕が避けているのではなく攻撃が僕を避けているのだ。
そんな不思議な幸運に恵まれ、僕は部屋の一番奥にいたエルに
「一緒に帰るぞ!!」
と手を伸ばす。
そしてエルが手を握ったその刹那、光が僕達を包み込む。
あまりの眩しさに目を閉じていると、次に目を開けた時には僕達は僕が光に包まれた場所に立っていた。
エルの方を見る。
エルの顔に不安は見えない。
僕は安心しつつエルに大丈夫だったか?と問う。
「...ん。」
と素っ気ないいつも通りの返事が帰ってきて、
僕は安堵のため息をこぼした。