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ノータイトル「 」  作者: にゃんこ鍋
3/5

想い

パスワードが間違っています。

パソコンの画面に表示されている不快極まりない文章。

だが僕はこの程度では怒らない。

そう、まるで仏のような心を...

所定の回数間違えましたしばらく時間を置いてからもう一度入力してください。

......パタン

僕は平静を装いパソコンを布団に投げ捨てた。

それと同時に「ガチャリ」とドアが開く音が聞こえた。

ドアの方向を見ると涙目のエルが何か伝えたげにこちらをじっと見ていた。

「どうした?」

と問う。

エルは泣きながらドアの前にしゃがみこむ。

掠れた声でエルは

「...お兄ちゃんお兄ちゃん」

と連呼している。

エルが落ち着くまで傍にいようかとエルの傍に寄る。

「...お兄ちゃん...。助けて...!!」

一瞬の出来事だった。

エルの身体が光に包まれたのだ。

まるで「あの時」のように。

あの時と違う事といえばエルが「現れた」のではなく「消えた」ということだ。

僕は状況が理解できずにそこへ立ち尽くす。

しばらくしてどうしようもない「怒り」が込み上げてくる。

LINEの通知が鳴る。

それは(まさ)しく僕の通っている高校のグループLINEだった。

「ねぇ、この前ハブった奴死んだらしいよ?」

「まじ?きゃはっ。だっさw」

「これからだったのにねwww」

「まじでメンタル豆腐w」

僕はそこでスマホの電源を落とした。

このLINEは僕の怒りをより強いものへと変えた。

「ふざけるな...」

口から自然に出たのだ。

なぜ、助けを求めるものが救われずにこんな奴らが世に蔓延(はびこ)る?

少なくともエルは助けを。救いを求めていた。

でも。それは救われることはないのか?

否だ。分かっているのだ。

勿論主犯は救いを求めさせる方なのだろう。

だがそれを知っていても、知っていなくとも、

関与しようとしなかった。

救ってやらなかった。やれなかった。

そんな非力な僕達も例外なく共犯で。

ならば、僕は何に怒っている?自分に問う。

答えは直ぐに分かった。

あぁ、そうか俺はきっとこんな悲惨な結末を望んでいるかのようなこの「世界」が「宇宙」が許せないんだ。恨めしいんだ。

だが、それは間違いなのだとも同時に理解した。

なぜか?冷静になったからだ。

ならば、僕は。

僕には何ができる?何が救える?

ふとエルと過ごした時間が頭を過ぎる。

あの時エルは「助けて」と言った。

他の誰でもない「僕」に助けを求めたんだ。

ならば、救いたいと思ったのだ。

何の情報もない。行く宛てなんてあるはずがない。それでも。

理屈でも。理論でも。ましてや誰の理解も要らない。

理解なんて出来るわけがない。

僕が取り戻したい物。救いたいものは。

「僕と過ごしたエル」なのだから。

時計を見る。

現在時刻は夜の7時。

僕は財布とスマホを持って外に飛び出した。

エル...エル...。

いつぶりだろう。ここまで人を必要と感じたのは。

いつからだろう。エルが日常の一部になっていたのは。

なぜなんだろう。もう、エル無しの生活が、静かな家が寂しいのは。

そんなことを考えながら僕は夜中の街を走り抜けた。

ただひたすらに走り探し回った。

気付くと僕は山まで走っていた。

足はガクガクでもう立つことすらままならない。

僕は限界に気付き、仰向けに倒れる。

一面の星空がそこにはあった。

願った。

「もしも神がいるのなら、僕に誰かをエルを...救える程の力を下さい......。」

酷く掠れ切った声でそう呟いた。

柄でもない。それでも何かをしていないと気がすまなかったのだ。

僕の意識はそこで途切れた。

起きたのは空が紅く紅く染まっていた頃だった。

そこで僕は自分の変化に気が付く。

大した変化ではないが、頭が凄くスッキリしているのだ。

仮にも寝て起きたのだから当然だと思うだろう、しかしそれは過去を鮮明に思い出せる程の「集中力」を僕に与えてくれていた。

ふと。エルと出会った頃のことを思い出す。

そうだ、あの時エルは言っていた。

「もし、私がいなくなることがあれば。

「その時」がきたんなら。嘘と真実が交差するような、そんな...曖昧な時間に。あなたが思う私を叫んでね。」

と。

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