聖夜の妄想日記
-12月24日 23:00
風呂にも入った。
歯も磨いた。
布団も敷いた。
ティッシュもおろしたてだ。
この日のために、たくさんの時間を要した。
これまで収集したエロ画像を用いて、動画を作った。
エロ動画もたくさん収集した。
それをユーチューブにアップロードする。
もちろん著作権の問題があるから、非公開だ。
あくまで自分で楽しむためのものである。
一応18禁動画と位置付けておく。
そして、50型のテレビで自分のユーチューブチャンネルを開く。
もちろん先ほどまでの動画は後で見るに保存してある。
さて、いよいよお楽しみの時間だ。
大画面TVの醍醐味、それはエロ動画を見ること、それに尽きる。
臨戦態勢に入ろうとした瞬間、電話が鳴る。
殺意を覚えながら、電話に出る。
「どうも、こんばんは、夜分にすみません」
「まったくだ」
電話を切る。
再び電話が鳴る。
知らない声であった。
相手をする気も起きない。
しかし、いくら待っても鳴りやまない。
仕方なしに電話を取る。
「はい、何でしょう? 23時ですよ? 非常識だと思いませんか?」
「いえー。 すみませんねー。 さっきの者ですけどー」
電話口からは女性の声がする。
声のトーンから若い元気っ子っぽい。
脳内で、顔を想像する。
おそらく可愛いだろう。
しかし、全く関係がない事だ。
「ご用件はなんでしょうか?」
「いえね。 私サンタでしてー」
切った。
また鳴る。出る。
「何で切るんですかー」
「酔っ払いに付き合う暇はないんですよ」
「…オナオナするからですか?」
「…関係ないでしょう」
「大ありですよ。 大あり」
「どう関係あるんですか?」
「はい。 サンタは良い子にプレゼントを渡します。 私、ことサンタっ娘は可愛そうな人にプレゼントを渡しているんです」
「…押し売りですか?」
「いえいえいえ。 善意、善意です」
「結構ですけど…」
「そんなこと言わないでください。 私はあなたのために来てるんですから」
「はあ? どこに」
「ここです」
窓が開く。
そういえば鍵を閉めていなかった。
そこには想像…以上に可愛らしい女の子いて、窓から部屋に上がろうとしていた。
ミニスカートの奥にチラリと白いものが見える。
「よいしょ…っと」
「110か… 久しぶりにかけるな…」
「ちょ、止めてください。 普通女の子が入ってきて、そっこー警察に電話しますか?」
「今のご時世。男女関係ありません。 私のテリトリーに入ってくる人は全て敵です」
「待って待って。 ほら、これ名刺です」
女は名刺を差し出して来た。
【独立行政法人グッドサンタカンパニー】
「行政正気か?」
「あー。 まあ、ちゃんとしたお仕事ですよ?」
「…はあ、法人番号もあるようですし、一応この名刺が本物なら、お仕事というのも、まあ分かります。で、目的とコストは?」
「はい。 もちろん無償です。 私たちは可愛そうな境遇の人の元にやってきて、それを慰めるんです」
「…はあ」
「死んじゃわないように」
「はあ」
「調査によって、あなたはめちゃくちゃ可哀想な人に選ばれましたので、慰めます」
「…結構です。 自分で慰めるんで」
「なぜですか… あの… その… 抱いても…いいんですよ?」
「デリヘルですか? 私プロとする気はないです」
「いえいえ、違いますよ。 プロじゃありません」
「あの、私、処女厨なんでプロでなくても、セミプロ、というか、そもそも経験者としたくないんです」
「なんですか、その拗らせ」
「…いったん全部信用するとして、私以外にもこういうことしてるんでしょ? あるいは今後するんでしょ? じゃあ、少なくともやがて処女じゃなくなる訳じゃないですか?」
「え…めんどくさ」
「ですよねー。 というか、私もアナタの相手が面倒なんですよ。 早く帰ってください」
「でも、今は処女ですよ?」
「処女でも、仕事で処女を捨てるような女性を抱きたいと思えません」
「お前、絶対エロ漫画とかエロ小説に出ないでくれ」
「二次元に入りたい願望は有りますけど、エロには入りたくないですね」
「ううー。 何でオタクって無駄に屁理屈が小賢しいんだ」
「あのー。 ホント、そろそろ呼んでいいですか?」
「待って、その、せめてさぁ… 何かしてよ… 私だってさ… 覚悟決めてきたんだし…」
「…」
面倒だが、このまま帰りそうにもないので、話を聞くことにした。
「分かりました。 じゃあ、お話でもしましょう」
「はい」
「じゃあ、どうぞ」
「はい?」
「私は初対面の人に無意味にあれこれ話す気はないので、どうぞ、あなたの身の上や覚悟の話とか、勝手にしてください」
「うーん」
「あ、ちょっと、待ってください」
台所に行き、手ごろな飲み物とコップをお盆に乗せて、少女に差し出した。
「どうぞ。 あ、足寒いでしょう。 炬燵に入ってください」
「あ、ありがとうございます」
「それで? どうしてこの仕事を?」
「それは… 私、特に取り柄もないし… 元気なことぐらいだし… それで、少しでも人の役に立ちたくて… この仕事を選びました」
「…うん。 不躾な質問をしてすみませんが… どなたか親しい人が亡くなりましたか?」
「え?」
少女は目を丸くしてこちらを見てくる。
どうやら当たりだったようだ。
「どうしてそれを?」
「予想です。 こんなね。 なりふり構わない方法に走る人は何らかの事情を抱えているものです」
「小賢しいですね」
「ええ… どんな人だったんですか?」
「…気になります?」
「差し支えない範囲で結構です。 というか、嫌なら、話題を変えます」
「いえ… 聞いてほしいです」
「…飲み物飲んでくださいね」
「…いただきます」
少女はつらつらと、亡くなった友人の話をした。
そこまで興味はないので、適度に頷きながら話しはほとんど覚えようとしなかった。
「それは… つらかったですね。 それで、人を幸せにする覚悟を決めた…と」
「はい。 少しでも多くの人を救いたいんです」
「素晴らしいと思いますよ。 頑張ってください」
「ありがとうございます」
「さて、もう、結構な時間ですね。 大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫です。 まだまだ元気です」
「…」
とりあえず、お代わりの飲み物を持ってくることにした。
少女はまだ、炬燵にいる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「暗いですし、送りましょうか? 家は近くですか?」
「いえ、すごく遠くです」
「じゃあ、なおさら早く帰った方が…」
「大丈夫です。 ホントに」
「…え…と、抱いたら帰ります?」
「抱きますか?」
「いえ」
「このED」
「一応まだ立ちますよ。 まあ、実際の女性に反応するか分かりませんけど」
「二次元派ですか? 二次元派はEDになりやすいそうですよ」
「じゃあ、エレクトリックディスファンクションでいいですよ」
「なんか、そういうとカッコいいですね」
「ですよね。 …で、いつ帰ります? 遠くでも、送りますよ」
「どんだけ、帰したいんですか?」
「いやー。 まあ、ささっと、自分で致して寝たい」
「明日用事あるんですか?」
「今日も明日も何も?」
「じゃあ、いいじゃないですかぁ…」
「…えー」
「だって…」
「?」
「だって」
「?」
「死ぬ気でしょう?」
「…」
「一人になったら」
「…いえ」
「ウソ、だって、貴方かわいそ過ぎるもん。 死んでもおかしくないよ。 だって、奥さん…今頃、不倫してるんでしょ。 他の人としてるんでしょ。 それに、保証人になったばかりに借金もしてるし…
お仕事も辞めざるを得なくなって、今無職だし… それで、なんで生きてられるの?」
「うーん。 別に大したことじゃないでしょ」
「え?」
「だって、私生きてますし」
「ええ」
「そりゃあね。 絶望的状況で絶望したら終わりですよ? けど、そんな状況でも、絶望さえしなければ大丈夫です。 あきらめなければ、大概いけますよ」
「そんな… 強がりじゃないですね… 全く動揺がないですもん」
「ええ、もちろん」
「すごいと言いますか… もはやワケが分からないですね」
「そうですか? 普通ですよ」
「あの… 抱いてくれませんか?」
「…」
「短い間でしたけど… 私、貴方のこと…」
「うーん。 いやー。 一人でしたいです」
「え?」
「え?」
「どうしてですか? 抱く流れでしょ」
少女にとっては、そんな流れだったらしい。
「そうですか。 うーん。 ゴムないんで、無理ですね」
「大丈夫、大丈夫。 妊娠しないから」
「ピルですか?」
「え、いや…」
「安全日は信用ならんですよ? 外出しも避妊効果ないですし」
「いやー。 そうじゃなくてですね…」
「はい?」
「私、実はサキュバスなんですよ」
「あ、そういうシチュエーション醒めるんで結構です」
「いえいえ、本当にそうなんです」
「そうですか… じゃあ、ちょっと待ってくださいね」
おもむろに紙を取り出し、近隣の略地図を作成した。
「なんですかそれ?」
「個人情報なので、よろしくはないのですが、近辺の活きのよさそうな男性の家を教えますね」
「ええー」
「はい、どうぞ」
「どうして、そんなに、そんななんですか」
「嫁の浮気を容認する様なやつですよ? まっとうなわけがない」
「けど、それは仕方なしでしょう」
「いやー。 どうでしょうね」
「…抱きなさい。 貴方は一度、本当のぬくもりを感じた方がいいわ」
「あー。 余計なお世話です」
「どうして、そんなに拒絶するんですか? ただ、抱くだけですよ」
「それに何の意味が? 避妊もして、恋愛感情もない。 そんな行為、あまりする気になれないですね。 意味がないと、そんなつまらないことは言いませんよ。 ただ、気乗りしないだけです」
「おーーー。 もーーーー。 めんどくさい。 抱かせろ!」
少女がつかみかかってくる。
女性に暴力を振るうのは気が引けるが、腕を取り、背後に回り、腕を極める。
「いたたたたたた」
「すみません。 けど、帰らないなら、もう少し痛めます」
「分かりました。 分かりました。 無理に抱かせようとしませんから」
腕を離す。
コップが空になっていたので、お代わりを注いでおこう。
「…すみません。 取り乱しました」
「まあ、落ち着いてください。 飲み物どうぞ」
「いただきます」
「あ?」
「何ですか?」
「性の6時間…終わっちゃいました」
「ああ。 ですね。 じゃあ、今頃ピロートーク中ですかね」
「…はは、でしょうね」
「で、サキュバスって、どういうことですか?」
「あ、認めて、話し進めてくれるんだ」
「まあ、はい。 サキュバスキャラはそこまで好きじゃないんですが、ファンタジー系には興味あるので」
「まあ、サキュバスと言っても、あれですよ? そんなあれじゃなくて、普通のちょっとエッチで、空飛べる女性ってぐらいです。 最近は精気を吸い取らなくても、普通に食事で栄養は賄えますし…」
「ふーん… ところで、処女サキュバスって設定的に無理ありませんか?」
「いやいや。 確かに私、性欲強めですけど… その、一人ではしますけど… 処女…ですよ」
「へー。 可愛いのに… 意外ですね」
「え? か、可愛いですか?」
「ええ、かなり可愛いと思いますよ」
「じゃ、じゃあ… 抱きます?」
「それはいいです」
「なんでだよ」
「可愛いから抱くって…インモラル過ぎませんか」
「…もしかして、私魅力ないですか?」
「魅力もありますよ」
「じゃあ…」
「抱きません」
「もおおおおおおおおお」
「というか、サキュバス10人に囲まれても、誰も抱きませんよ?」
「なんて、アイアンメイデン」
「抱くのは好きな人だけです」
「…頑なですね」
「あそこはふにゃふにゃですけどね」
「ED…」
「かもですね」
「はあー。 仕方ない… ベッドで寝ていい?」
「泊まるんですか? まあ、いいですけど」
「それはいいんだ」
「ええ、邪魔さえしなければいいですよ」
「…襲ってもいいですよ?」
「ははは… お休みなさい」
少女は布団をかぶって、そのまま寝付いた。
もはや抜く気も失せたので、こちらも寝ることにした。
コップと飲み物を台所に片付け、用を済ませてから、炬燵で寝ることにした。
「多分ね。 精神の方がEDなんですよね」
翌朝、目覚めると、少女の姿は無かった。
「よし、帰ったな」
余計な妄想のせいで、気がそがれた。
現実がイヤで、二次元に逃げているなら、現実の色仕掛けは効果的だと思うけど、二次元…というか、そのもっと先の先の存在に恋している人間にとって、下手な現実はそこまで魅力的ではない。
そんな現実と混在した奇妙な妄想をしたのは、きっと、私が求める存在は二次元と三次元と両方の性質を持ちながらも、どちらにも属さない存在なのであろうと、つくづく思うのであった。
それが認識できただけでも、非常にありがたいプレゼントだった。と、思うことにしよう。