とびらがひらかない
真夏の夕暮れ時に、僕は妹と友達4人でかくれんぼをはじめた。
「よーし。いまからかくれんぼするぞ。俺が鬼をやるから、お前らとっとと隠れろ!」
鬼の子を1人残して、僕たちはいっせいに駆け出した。
場所は粗大ごみがいくつも放棄されたいつもあそんでいる大きめの空き地。
隠れる場所はたくさんあった。
「お兄ちゃん、どこにかくれる?」
「一人で別の場所にかくれてろよ。なんでお前と一緒にいなくちゃいけないんだよ」
「いやだー。いっしょじゃないとこわい」
妹は今にも泣きだしそうだった。
やっぱり6歳の妹なんか連れてくるんじゃなかった。
僕はしぶしぶ妹と一緒に隠れることにした。
しばらく歩き回っていると、大きな冷蔵庫を見つけた。
その冷蔵庫は捨てられてからかなり時間がたっているのだろう。
ひどくボロボロの状態だった。
それでもその冷蔵庫は、僕たち二人が入ってもぜんぜんせまく感じないくらい大きかった。
「よし、ここに隠れるぞ」
「うん、わかった」
僕たちは冷蔵庫の扉を閉めて鬼から隠れた。
しばらくまっていると、外の声がかすかにきこえてきた。
「みーつけた。あとはあの兄弟だけだ。絶対見つけてやるぞ!」
鬼が近くにいる。ここは静かにしないとな。
「おにいちゃん」
「なんだよ。鬼が近くにいるんだよ。いまはしずかにしろよ」
「おにーちゃん。れいぞうこのなか、すごくあついよ」
「え?」
かくれんぼに夢中で気づかなかったけど、確かに暑いな。
「もう少し我慢しろ。あとすこしで鬼が降参してくれるとおもうし」
「うーん。わかった」
「おにーちゃん、もうむり、あついよ」
「た、たしかに。僕ももうだめだ。今すぐ出よう」
――ガチャガチャ
「あれ? なんで?」
「どうしたの?」
「と、とびらがあかない……」
どうしよう、どうしよう。
僕は焦った。
焦ったせいで大量に汗が出てきた。
「あついよ……」
「クソッ、おーい! 誰か! 早く出てきてくれ!」
僕は何度も何度も友達に助けてもらえるように叫び続けた。
「だ、れ、か……。たす、けてぇ」
何回僕は叫び続けたのだろうか?
10回、100回、もしかしてそれ以上……
そんなことはどうだっていい、はやく助けてもらわないと
僕は扉をどんどんたたき続けた。
すると、また誰かの喋り声が聞こえてきた。
「なあ、あの兄弟どこにいるんだ? どれだけ探しても全然出てこないぞ」
「もう帰っちゃったんじゃないかな?もう夜になっちゃったし」
「そうだね。それじゃあ僕たちももう帰ろっか」
みんなの足音がどんどん小さくなっていく
「いやだ。いやだ、いやだ、いやだ! みんな、いかないでくれ!!」
僕の叫び声は全く聞こえていないようだった。
「あ、もうダメだ……」
僕は目を閉じて眠ってしまった。
「おーい。どこにいるんだ? 返事をしてくれ」
「まったく、どこにいるんだ」
誰かの声が聞こえてきた。
きっと僕のことを迎えに来てくれたんだ。
やっとこの地獄からぬけだせる。
「おーい。みんな。僕はここ……」
僕が声を上げた瞬間、何かが僕の足をつかんだ。
「お、い、て、い、か、な、い、で。お、に、い、ぢゃ、ん」
そういえばこいつのことを忘れていた。
「あとちょっとだ。もうすこしがま……、ッウ!」
突然妹は僕の口をふさいで、僕を冷蔵庫の扉から遠ざけた。
それと同時に、誰かの懐中電灯の光が冷蔵庫のすきまからはいってきて妹の顔が一瞬みえた。
妹の顔は真っ赤に染まっていて、目からは大量の血があふれ出ていた。
「え、おまえ……」
「あ。おにいちゃんだ。あのね、わたしね、ずっーと目をひらいてるのに、目の前が真っ暗でなんにも見えないんだよ。なんでだろう? だけどよかった……」
「おにいちゃん、みーつけた」