01.変化
六歳の春。
この世界は元々ハーブが普通に使われている。
”品種改良・命名”でオレがかなり上書きしつつ増やしているけども、魔物肉や魚の臭み消し以外にもサラダだとかで需要が多い。
これはあれか、ハーブ酢だけじゃなくもっと広げて見るか?
牧草の隙間の雑草をむしりながら、万年料理のことで頭がいっぱいのオレはそんなことを考えながら背後の牛に舐められまくっていた。
エルは、せっせと蕎麦作業を敢行している。
蕎麦というものは、前世知識によると、蕎麦粉100%のものは少ない。
一番多く流通していた「蕎麦」の内容量は小麦粉20%、蕎麦粉80%。粉のつなぎに、長芋、山芋、布海苔などで食感とコシが作られる。
蕎麦粉とつなぎを混ぜて加水撹拌する「水回し」作業。そこからそぼろ状にした上で蕎麦玉を”生成”し、こね鉢という木製の鉢で繰り返し押しつぶして練る。
打ち粉(じゃがいもで出来たデンプンの粉)を振りかけ、薄く延ばして平らな長方形に。
麺棒で伸ばして、生地をカットしたものを茹でて完成する。
これで、次回からもう”生成・製麺”で出来るな。勿論、蕎麦粉の割合とかつなぎは色々いじくるけど。
「アスラーン!」
細く高い声に、オレは脳内であらゆる蕎麦に思いを馳せるところから、現在に戻った。
冬によくうちで料理教室に来て、話すようになったリシィの声だ。
水の加護を持つ、器用な少女である――オレと同い年だけど。
どうもリシィと話しているとロニや他の男子が、遠巻きにする。そして何やら鑑賞しはじめるんだよな。
多分リシィが可愛いからだろう、うちの姉さんと比べるとオレなんかはドキドキも何もしないが。
しかしそんなリシィからは「私よりアスランのほうが美少女だよ」と真顔で言われた去年の冬――何を言っているのか未だに謎だ。オレは「少女」ではない。
「アスラーン、おやつ休憩の時間だよー!」
小腹が空く3時はどんな世界でも、おやつ時間なのだ。
7歳以上の文字を教わる子供の先生役――近所のご老人方がローテーションで先生をしている――が何かしら、煎餅だとかを焼いてくれていたのは去年までのことだ。
もうここら一体では、オレが料理教室をしていることや、店にメニューなどを頼まれたりして「先生」呼ばわりされていることが常識で。
すなわち、おやつはオレの担当という空気が知らない間に出来上がっていた。
試作とか、感想もらえるから別にいいんだけど――いいんだけどね?
姉さんもオレが作ったやつが一番美味しいなんて褒めてくれるし。
そんなオレを褒める空気が気に入らないやつがいるのだ。
ネヴァンという、姉さんと同じ年で風の加護を少々使いこなせることを自慢してくるうざいやつだ。
男子のほどんどはネヴァンの言いなりで、こういうやつをガキ大将っていうんだろうな。
オレがネヴァンを無視するせいか、姉さんに一撃で負けたことがあるせいか、オレがおやつ担当になったのを妬んでいるのか、全部が理由なのか。
やたらに、えらっそうな態度でオレはやつが好きじゃない。
「今日はなに食べるの?」
「昨日の草餅、美味しかったー」
食って……偉大だよな!
コミュ障のオレが、こんなにナチュラルに人にかまってもらえるとか。
明日は蕎麦まんじゅうにしよう、エルのためにも蕎麦の布教しないとな。
ただし、今日はもう炊き込みご飯を用意してしまっているんだよな……。
家だと竈の火入れもオレだけでやってるけど、火の加護を持つ姉さんに”空間収納”から土鍋ごと渡してしまっている。
おやつといえど、甘いものを少しよりは肉体労働の多いこの時代、腹持ちがいいものも大人気。
なのでオレも甘いものに拘らず、いろんなものを作ってるんだけど。
オレを囲むロニとリシィを中心に、わいわいと台所のある小屋に向かって歩いていると、オレ友達いっぱいいるみたいじゃん……という実感。
やっぱオレって料理を探求してよかったんだなぁと珍しく自画自賛していたらソレは起きた。
土鍋はもうセッティングされていて、おやつ時間――厳密には小腹を満たせるなら何でもいい時間――には、他の子たちは薪拾いや机の片付けなどをしてくれる。
※主人公アスランは見た目は美少女です。
※本人は自覚ゼロです。
※ほぼ性別を間違えられています。
※段々周囲の胃袋を掴んでいます。




