10.前進
父さんに限れば、靴が無いだけなのは奇跡だ。
母さんが一週間迷子にならないくらいのミラクルである。
魔物の羽毛で編んだ長いひざ掛けは、時に体に巻いても防寒対策になるので、父さんはぐるぐるまきのまま味噌汁を飲ませることにした。
「もー、アスランったらあまやかして!寒いならあたしの加護で暖めてあげるのに」
「姉さん……真冬に家の壁を壊したくないから、よそう?」
「そうね、確かに。ヤるなら春だわ」
「……姉さん、雑煮を作ったから出来れば二種類とも味見してみて」
春までに、姉さんがこの件を忘れてるだろう。うん。
多分、忘れるというより上書きで次の事件を起こしているんだとしても。
「新しい茶色のスープね~」
「醤油っていうの、それで味つけたやつだから」
「主君、餅は一人何個切ればいい?」
「え……んー……味が2つだから小さめで二個?その後にそのまま食べたいから固くならないように”収納”しといて」
冬に餅ときたら、海苔と醤油の磯辺焼きを始めとして沢山味が楽しめるよな。
醤油という一大勢力の参入で、みたらし味を始めとする味覚が広がるし。
ああ、なんてことだ……!あんこを未だ開発していないとは。
せっかくの醤油だよ、これで小麦粉を改良していけばうどんや蕎麦が……。
あ。
『蕎麦は未だ開発していないが、やっととりかかるのか、主君』
『気づいてたら言えよ!!十割蕎麦じゃない限り小麦粉が居るからって思って、うっかり蕎麦そのものを”種子生成”してなかったじゃんか』
『……フランスでも蕎麦の歴史は古い。ガレットは蕎麦粉だ、忘れるとはなんということだ』
『エルが気づいていたんなら、自分から勝手に開発したっていいんだろ!』
そんなにこだわりがあるなら、どんどん作ればいいのに。
しかしフランスと蕎麦粉か、意外な組み合わせだけど確かにガレットって、フランスの郷土料理だったな。
時々元フランス守護霊アピールしてくるけど、エルの場合元フランス人というカテゴリーじゃないような気がする。いいとこ、元フランス人の霊だろ。
オレがエルと”念話”でもめている間に、家族は暖炉を囲んで雑煮を食べていた。
蕎麦はとりあえず来年の抱負の一つとして、オレもできたての醤油の雑煮をすする。
硬い餅を焼いたやつではないので、放っておくと溶ける。
柚子の香りつけがいい感じだ、舞茸は食感でも旨味でも美味しい。表面に”岩石鶏”の脂がほんのり乗っていて、醤油の味がまろやかになる。
味噌味も、香ばしいネギと餅が絡んでいて醤油より濃厚なコクがあった。
しいたけも悪くないけど、ここはしめじのが良かったかも。
味噌が麦味噌も混ぜたことで、素朴な味が出てるし。これは鶏系の肉より、牛や豚系の肉でとことんこってりでも良かったかも?
反省は次回に生かすとして。
つきたての餅を磯辺焼きにするところから、みたらし味、わさび醤油、菜の花と大根おろしのポン酢、ナッツとゴマの変わり種や生姜と黒糖、砂糖醤油など、お腹いっぱいまで試して。
春は草餅なんかもありだなぁと、寒い冬はあったかい気持ちで過ぎた。
お雑煮は、同じ県内でも醤油、味噌、白だしと違っていました(自分調べ




