06.前進
念願の醤油作りは、結局冬になってしまった。
冬の4ヶ月間は大きな店以外は、家で内職をするのが主流なのはこの田舎村だけじゃない。
細工の手間がかかる織物や、酒や味噌作り、刺繍、染め物。”空間収納”機能のある人間が3人もいる我が家には必要ないが、保存食で凌ぐ村もあるが。
うちは毎日、ご近所さんたちが預けといたアレだしてーという感じで複数が遊びに来て、お茶を振る舞ってると両親の苦手な織物を手伝って貰うウィンウィンな関係だ。
人間冷蔵庫な我らが便利に使われているように見えるが、冬だと母さんの迷子も防げるし、父さんのお人好しも阻めるのはかなりありがたい。
暖炉に当たりながら、淹れたての緑茶を味わえる平和。冬は嫌いじゃない。作業するミスパル森林では育てている野菜などによって温度調節も、当然シフトしてある。
この国は元々、非発酵茶である緑茶が主流だ。
当然、オレは”品種改良・生成命名”済みなので、煎茶、深蒸し茶、釜炒り茶、玉露、ほうじ茶、玄米茶、抹茶としているが、やはり村人にはお茶といえば煎茶だ。
半発酵の烏龍茶、発酵茶の紅茶、後発酵茶のプーアール茶などは家庭によりけりというところだな。
コーヒー豆も焙煎して流通させた。砂糖のお陰で人気が出てきたが、作り手は未だかなり少ない現状だ。
「あと二分かな……」
魔法で”給水”として出す水は、柔らかい軟水の味がする。だが、人によって同じ”給水”でも硬水の味がするのに気づいたオレは思いついたのだ。
要はイメージと工夫で自在に変わるのだと。
なので、緑茶には味がよく出て馴染む軟水。紅茶の時は硬水――いわゆるミネラルウォーター――と変えている。
風魔法の複合によっては炭酸水も作れるので、ジンジャーシロップやレモンシロップもある今は、炭酸も飲み放題。
「アスランってご飯だけじゃなく、お茶も上手なのよね。いつも時間見てるの?」
「蒸らす時間で、苦味が出過ぎたりするからね、姉さんも煎茶でいいの?」
「アスランのお茶ならなーんでも好き!コップ出すね」
可愛すぎか、うちの姉。
時間を計り終えた時計はチェーンがついたまま、服の上に。一見はアクセサリーのようだが、立派な懐中時計だ。
この世界、時間というものをどうしているのかと転生して最初に疑問があった。
前世では、水時計や線香で計る香時計や、砂時計などがあったけど、こっちは魔物が時計のベースになっていた。
魔物を倒すと、体内に必ず魔物の結晶がある。組合などの討伐依頼には、その結晶の提示が必要となる――買取は依頼によりけりらしいけど。
そんな結晶の中に稀にあるのが”体内時計”。まんま過ぎるが、魔物のランクが高いほどに”体内時計”の時間表示の精密さが高い。
驚くなかれ、そんな時計はいわゆるデジタルだ。オレのは、エルが森林の中の作業エリアを広げる際に倒した”紅魔毒大熊”という熊系の魔物のものらしい。
家族はスルーしているが、売れば大金になるような時計はオレの料理には必須なので、木彫りのペンダント状にしてで外側はシンプルに偽装。
時計そのものは商人だけじゃなくても、一家に一個はある。
うちは父さんがすぐに人に上げてしまうから、個人で装着することになっているけども。
オレのは一見ただの木彫りでも、”防水・耐圧・耐熱・軽量化”と、あらゆる付与がてんこ盛りの優れものだ。
その時計をドロップさせた当人のエルは今、醤油作業の佳境。
大豆は蒸して小麦を炒り混ぜて、麹菌を撒いて醤油麹。その醤油麹に食塩水を入れて、諸味を作って”発酵熟成”をしてからの”圧搾”
”火入れ・濾過”で濃口醤油の完成だ。諸味に甘酒を加えて”圧搾”したのが淡口醤油である。
醤油ー!!やっとたどり着けた……。
感想など一言でも頂けると、大変はげみになります。
ちょっと暑さに気持ちがくじけております。




