05.前進
”空間収納”には、石焼にしたさつまいもとか、きのこ数種のホイル焼き、さつまいもと栗にたっぷり黒ごまを入れた粽を、祭日のお出かけ用のご飯は作ってあるけども。
「うちのアスランは、あんな焦げた肉作らないもん!」
「姉さん……蜂蜜を塗ってるからあの手の肉は焦げやすいんだよ」
「でも、アスランが作る時にはあんな黒いすすの塊みたいなのは付いてないでしょ」
確かに我が家の舌は肥えてきたけども。
お店の人も、子供にやりこめられるとプライド傷つくと思うけど……?
「ススが付くのは、網の下に肉の油が垂れて炭に落ちるからだよ。扇げば煙の匂いも付かないし……」
ああー、人前はコミュ能力低くて説明に困る。
そしていざというときに、エルは森林で作業してるし――4歳くらいまでは祭日を一緒に過ごしてたくせに、今や精霊祭の日はソロプレイヤーだもんな。
「お嬢ちゃん、詳しいな。これ一本やるから、ちょっと教えてくれないか?」
「え」
お嬢ちゃんじゃないんだけど。
でも、甘いものの使い方が少しでも浸透するなら、説明したほうがいいのかな……。
「しょうがないから、アスラン教えてあげなさい!」
レヴィ姉さま、あまり上から煽らないで!
オレたちただの子供だからね。
そして姉さんは何度教えても、家では素材を炭化させる天才なのだが……?
オッサンから肉を受け取って、一口噛む。まごうことなく、硬い。
「おじさん、コレ……”火熊”の肉だよね。筋肉の筋が多いところは串に向いてるけど、下味の前に叩いて組織壊さないと、筋っぽいよ」
蜂蜜の味が外側から来る。それにこの肉のパサツキは。
「肉の塩ふりは、焼く直前が良いよ。水気が旨味と一緒に流れちゃってる。蜂蜜も後から塗るより、前の晩から肉と漬け込んで揉んだ方がくさみも消えるし、柔らかくなる」
肉の屋台を裏側から覗くと、網はかなり油で汚れていた。
うーん、やっぱりなあ、と振り返ってオレはミルクティー色の髪の姉が「網きったなーい」と叫ぶのを封印した。
失礼だから、子供がアレコレ言ってるのを聞いてくれるだけでも優しいのに、これ以上直球はね?
「おじさん、ちょっと網の掃除していい?」
「ああ……でも、汚れるぞ?」
”空間収納”からオレがお酢の瓶を引っ張り出すと、おじさん以外からもどよめきがあがる。
あー、そうだ、レアなスキルだったぁ……最近忘れすぎてるけども!
「一回網を掃除したら、お肉を焼く前に網にお酢を敷くと、肉の脂と分裂して網から剥がれやすくなるよ。蜂蜜は揉み込んで下味につけてるなら、オレだったら焼いた後にあら目の黒コショウとハニーマスタードをかける。甘くて柔らかくなった肉が締まるから」
「……それ、お嬢ちゃんの調理法だろう?ここで教えてくれていいのかい?」
「うん、串焼きくらいなら別に……あ、もし乾燥気味のひき肉とかあったら、獣油を足して卵の黄身と塩コショウして丸く『つくね』にして焼くとか」
人気のない獣油だけど、品質としては捨てるの勿体ないラードなんだよな。
小麦粉とかが手に入ったらハンバーグとかで是非とも使いたいものだ。
夢は広がるもんだ……醤油が完成したらテリヤキ味や、和風おろしにポン酢に……。
「ねえ、アスラン。あたしたち囲まれちゃってるわよ」
「……え?」
ちょっと妄想してたら、並列していた露天や、通りすがりの人達がオレたちを見下ろしていた。
皆さん勉強熱心ですね……メモとって……。あれ、こういうのを悪目立ちっていうんじゃなのか?
オレが出した林檎酢も、いつの間にか囲んでいる人たちが味見をして回っている。何故に。
「お嬢ちゃん、肉と交換にまた料理の方法を教えてくれないか!?」
「うちにも頼むよ、それに”空間収納”にああいうお酢があったら売ってくれない?」
「このお酢のガラス瓶に、林檎の絵があるのは真似してもいいかい!?」
なんだ、これは。モテ期か?
家族でのんびりと過ごすはずだった精霊祭が……。
そんでもって、瓶のデザインは”念写”の能力でイメージを焼き付けたものだけど……鍛冶職人とかの人たちなら他で再現できるのかな?
どうやってやったのかを聞かれないなら、全然構わないけど。
著作権のない世界だし、特許取れたとしたら目立つイコール平凡からの離脱。オレから日常を奪うのはやめてくれ。
「えっと、順番に言ってもらえますか?あと……オレ、お嬢ちゃんジャナイ……」
林檎酢や他のお酢は、水で割って飲むと体や美容にいいこと。
味噌漬け肉が保存や旨味も出ること。
獣油の使い方と、つくね串の使い方までを講義する羽目になったオレは、この精霊祭の出会いによって年上の『お友達』が大勢出来たのだった。
ちなみに、父さんは母さんと離れてまた姉さんに怒られていた……祭りで火の弓矢が飛んだので大騒ぎだ。
逃亡した母は、エルによって無事に保護させた。
アスランが思った以上にへたれて、書きにくいのが難点。




