02.前進
安定の父。
味噌作りには、寒い時期がいいと分かっている中、絶賛夏の3ヶ月目だ。
しかし、冬キャベツや白菜を過去に作った時に、ほどよく土を凍らせて旨味を閉じ込める”凍土”の魔法を確立している。
酒の生成小屋やらでどんどん場所が取られてしまうので、また肌感覚で初冬ほどの小屋を作った。
材料は大豆・米麹・塩。味噌の辛口と甘口はその割合の違いで生まれる。
麹が多いほど甘口だから、豆ごとに試作するべきだ。
麹の”生成”なども手慣れてきたので、試作ならではのチャレンジをしよう。
2ヶ月から4ヶ月ほどの熟成期間も、底に昆布を敷いて風味と旨味が出来ないものか。
お試しにしてはがっつりと材料をいじるオレは、安定して創作バカである。
米味噌、麦味噌、ひよこ豆味噌、緑豆味噌、あずき味噌、黒豆味噌、白いんげん豆味噌。
加工ブレンドとしては、何パターンの合わせ味噌に、梅味噌、シソ味噌、ニンニク味噌、生姜味噌、ネギ味噌、唐辛子味噌、七味味噌、ゆず味噌と揃えて見た。”時間加速”は言わずもがなだ。
緑豆味噌は色味がやや黒いが、辛いのも甘いのも味は悪くない。
エルに味見の感想を聞くだけ無駄だ、帰ったら家族にリサーチをいれよう。
そして味噌が出来たのだから、どうせなら豆板醤と、コチュジャンも作ってしまおう。
豆板醤は米麹ができてる時点で思いつくべきだったな……。
唐辛子を右手で粉末化させながら、”空間収納”から大豆と塩を取り出す。てんさい糖と甘麹はコチュジャン用だ。
この調子なら、待望の醤油にも取りかかれそうだな。口の中は既に肉じゃがなどの和食の気分だ。
『主君、リバルが倒れた』
『はあ!?父さん、何したんだ』
エルヴェシウスからのテレパシーに驚いて、味噌桶に躓くところだった。
夏場は家族に弁当をもたせない。
”空間収納”のない父はいたんでも食べる可能性があるし、母は張り切ってたくさんご飯を作った際にそれを”空間収納”に仕舞い込んで、迷子になったからだ。
『恐らく熱中症だろう』
『帽子や水筒もたせたけど、駄目だったか……』
テレパシーをしながら、父の畑の方角を”千里眼”で遠視するが、姿がない。
『その帽子も、簡易水筒もないが?』
『また誰かにあげたな!!ああもう、経口補水液代わりにスポーツドリンク作ってみる!エルは木陰に父さん置いて、脇や手足を冷やしといて』
お人好しが発動したというか、追い剥ぎにプレゼントするのが父さんクオリティなのだ。
姉がどれだけ締め上げようとも、直る病気ではない。
ええと、ミネラルの多いきび砂糖に、塩は細かいものを溶かして、クエン酸が強いレモンは風味つけ程度に控えて、回復機能も多くて体内に取り込みやすい蜂蜜を。
ついでにレモンの蜂蜜漬けも作ってしまえ。
『主君、家に連れてきたが、冷やす加減がわからないからとりあえず氷を押し込んでおいた』
『ばっか!汗かいて湿ったラーマ着たまま直接氷の塊押し付けたら、張り付くだろーが!布にまいて当てろよな!』
『なるほど』
家に移動してたのか。
そしてボンクラ元守護霊、今は自分も生身の体の癖に何故にそんな適当なんだ。
長く肉体がなかったせいか……いや、そういうエルを分かってるくせに漠然と冷やせって言ったオレが悪いな。
氷枕とかを作れればいいが、プラスチックや樹脂に関しての知識はない。
”瞬間移動”で移動する間際に、味噌を放り出すわけにはいかないと思って”分身”体を残しておいた。
作業を丸投げしたが、ジャムのときもあるし、大丈夫だろう。
「父さん、大丈夫!?」
「おお、アスラン。いつもごめんよ」
てへっと笑っている父さんの余裕に、ほっとする。
不安で揺れていた気持ちが少し和らいだ。
雪狼の毛に麻で織ったベッドカバーの上で寝かされている父さんは、無事に氷も剥がされていた。
「出かける前に、命に関わるから帽子と水分はあげちゃ駄目だって言ったのに」
「大丈夫だ、父さんが困ったときは都合よくエルが通りかかるからな」
通りかかってるんじゃなくて、一応駆けつけてるんだよ。
慌てて瓶に入れてきた手作りドリンクだけど、家なら飲ませやすい。
コップに注いで飲ませると、オレのやることに「これは何だ」の疑問がゼロの筆頭だけあって素直に飲んでくれた。
エルにもレモンの蜂蜜漬けを食べさせる。味音痴には期待してないけど、倒れられたら労働力として困るからな!
「明日にも、これもたせるけどこまめに飲んでよ、日差しだって怖いんだからな」
「気をつけるよ!父さんは過去から学ぶ男だ」
「学んでたらこんなことになってないからね!気持ち悪いなとか、ふらっとするなって思う前に飲むこと!」
革袋水筒のこの時代、中にはガラス水筒の人もいるけど耐久性がない。
ガラスの上からアルミで覆ってみるか?でも外が熱いと外気の温度で余計に熱が伝わりそう……。
ガラス面のアルミに保冷を付与して、外側に熱遮断の付与をする?
薄くするアルミに、そんなに付与をつけられるものか……?
どうせなら前世で、もっと医療本とか科学の本とか丸暗記しておけば良かった。
分身を違う次元に飛ばすとかは可能なのか??
「そうか、閃いた……!重ねればいいのか……!」
エルのお陰で安定出来ているとはいえ、また死んで転生できるとは限らないしな。
そんなリスキーより、今ある知識を工夫すればいいんだ。
保冷の付与のアルミと、熱遮断のアルミで二重でコーティングすればいい。前世のフライパンだとかも何重構造だった。
軽量化自体は難しくないんだ、一回付与すれば家族全員分の水筒が作れるぞ!
努力の方向性はいつでも間違えている主人公。




