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R*R  作者: 光太朗
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 町に近づくにつれ、力無く路上に座り込む人の数が増えていった。風の力で高速移動をしながら、アリス=リリィは広がる光景に眉をゆがめる。なるべく見ないようにして、先を急いだ。

 デルフの町は田舎だったが、それでも住民は着るものを着ていたし、食料に困る様子もなく、表情も明るかった。しかし、この町はどうだろう。だれもが生気の消え失せた土気色の顔をし、ぼろぼろの布きれを身に纏い、髪の毛さえ抜け落ちている。 

「完全に腐ってるわね、セイラン」

 町のなかは、ほとんどが廃墟と化していた。道を歩いている者はいないに等しい。座り込んでうつろな目をする者、ぶつぶつと何かをつぶやいている者……デリキアスでも見ることのなかった、異様な光景だった。

 もともとは花が咲き乱れていたであろう街道脇の花壇も、手入れがされなくなって随分たつのか、いまは枯れた花や雑草が埋め尽くしている。

 低くなってなお照りつける太陽に、アリスは布を取り出す。幾分ましになるかも知れないと、頭の上に無造作に乗せた。長距離を移動したため、喉がかさかさになっていたが、この様子では満足な飲み物など期待できそうにない。

 街道の向こうから、真っ白の法衣を着た男性が、水差しを手に歩いてきた。アリスは慌てて身を隠し、様子をうかがう。胸に輝くのは、宝玉をあしらったクロスの紋章。

「……セント・シード。うっさんくさい連中」

 吐き捨てるようにつぶやく。男は、道ばたに座り込む人々に、水を分け与えているようだった。薄い緑色の水だ。薬湯か何かだろう。

 アリスは身を翻し、セント・シードの本部があるであろうセイランの中心部に向かった。

「一応、活動はしてるみたいね」

 セント・シード本部を囲むように、四角いテントがいくつか建てられていた。テントを建てる作業をしている、法衣姿の人間の姿も見える。テントのなかには、白い布が敷き詰められており、セイランの住民であろう人々が横になっていた。

 慈善事業のようなものはどうしても好きになれない。唾を吐き捨てて、アリスは本部を見上げた。

 即席で建てたにしては、立派な建物だ。石造りの、どっしりとした白い建物。侵入者の存在は想定していないのか、町の入り口同様、見張りらしい姿はない。ただし窓はほとんどなく、入り口も正面と裏口の二カ所にしかないようだ。

 アリスは少しの間考えて、堂々と正面にまわることにした。

「止まれ!」

 予想どおり、建物の内部からわらわらと白い法衣の男たちが飛び出してきた。手には、先のとがった鉄製の長い武器を構えている。あっという間に囲まれてしまった。アリスは驚いた表情を見せて、きゃあ、と叫んでおく。裏口からこっそり侵入をたくらんでいたら、殺されていたかも知れない。アリスの背を汗が伝う。

「セント・シードに、何用だ。名前と所属を述べよ」

 高圧的な声が降る。アリスは怯えるように男を見上げた。

「アリス、アリスといいます……デルフから来ました。父が、モンシロの中毒になってしまい、セント・シードの方ならなんとかしてくださるのでは、と……」

 甲高い声を震わせて答える。男が一人前に出て、いきなりアリスの服をはがした。

「きゃっ!」

 これにはさすがに演技ではない悲鳴を上げる。下着姿にされ、大勢の男たちに目にさらされた。

 服や、ブーツ、身体の文様に注目される。すぐに、身体検査をしているのだとわかった。疑われているのだろう。

 下着姿の美少女には無関心ってわけね──心のなかで毒づきながら、アリスはじりじりとときを待つ。やがて、服を返され、小さな部屋に通された。

「失礼しました。セント・シードに侵入し、薬の強奪などを企てる輩が多いものですから。どうぞ、ここでお着替えください。セイランのシード様がすぐにお会いになります」

 返事をする間もなく、ぎぎ、と重い扉が閉じられる。急に冷えた身体に、思い出したように一つくしゃみをする。窓から暮れかけた空を見上げ、アリスは嘆息すると、素早く服を着て詠唱を始めた。




 太陽が隠れても、デリキアスに夜は訪れなかった。眩しい人工的な光が町を照らし、品のない情景を作り出している。日が暮れてから急に増えた人々も、目に光のない壊れたような連中ばかりだ。

 ティナの手をつかみ、リライヴはずかずかと街道を歩いていた。時折かけられる呼び込みの声には完全に無視を決め込んでいる。賭場、娼館……もちろん興味がないわけではなかったが、いますべきことではない。町の入り口で聞いた領主の屋敷はデリキアスの東側の居住地だ。そこに着くまでは、さすがに遊ぶわけにもいかない。 

「レイズさんは、どうしたんですか」

 下の方から、遠慮がちな問いが聞こえた。リライヴは振り返らずに、

「気にすんな」

 至極ぶっきらぼうに答える。

 最も信頼できる相棒は、いまは信念に基づいて行動しているはずだ。ならば、自分もそれに応えなければならない。

「ちゃんと領主んとこに連れて行く。黙ってついてこい」

「はい」

 いよいよだ。ティナは握る手に力を込めた。






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