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R*R  作者: 光太朗
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 差し込んでくる太陽の光に、ティナは驚いて目を覚ました。

 いつの間に眠ってしまったのだろう。小さな部屋に、見覚えのあるベッド。ソファで、空色の髪の青年が寝ていた。確か、レイズという名前の。

「朝……?」

 ぐるりと首を回して、光の差し込む窓を見る。用意されていたカーテンは閉められてはおらず、何にも邪魔されることなく太陽の光が届いていた。

「大変……そうか、わたし、大事なことをいわなかったんだ。どうしよう……」

 きゅっと、薄い毛布をつかむ。肩が震えた。泣いている場合ではない。自分のすべきことは決まっているのだから。

 ふっと、光が遮られた。見上げると、優しい瞳が自分を見ていた。

「だいじょうぶですか?」

 ティナの胸のなかに、安堵が広がった。なんてあたたかい目なのだろう。

「だいじょうぶです。あの、それより……わたし、出来るだけ早くデリキアスに行きたいです。寝てしまったのはわたしだけど……すぐに、出発できますか。デリキアスまでは、どれぐらいかかりますか」

 レイズの服の裾を掴み、一生懸命伝えた。レイズはそっとティナの頭を撫でる。

「だいじょうぶ。馬車を使えば、一日もかかりません。安心してください」

「一日……じゃあ、次の朝までには……」

「ええ、行けますよ」

 ティナはふっと微笑んだ。指を三本立て、それから一本、二本と、指折り数える。だいじょうぶ、あと一本残っている。間に合うはずだ。ティナはほっとして、声に出して息を吐き出した。

「何をそんなに急ぐんだ?」

 形式だけのノックがしたかと思うと、リライヴが部屋に入ってきた。無造作にミルクのドリンクを二人に手渡す。どうやら、外で買ってきたものらしい。

 ありがとうございます、とつぶやいて、ティナはドリンクに口をつけた。優しい、温かい風味が、口の中に広がる。昨日何も口にしていない自分を気遣ってくれたのだろうと、少し嬉しくなる。

「明日の朝までには、絶対に、行かなくちゃならないんです」

 リライヴは小さく眉を上げてみせた。

「……ふーん」

「ごめんなさい、詳しいことは……いえません」

 リライヴはそれには返事を返さず、黙ってソファに座った。腕を組み、ティナを見据える。

 レイズが、さりげなくリライヴとティナの間に入った。

「だめですよ、リライヴ。あなたのいい方は、まるで責めているように聞こえます。ティナさんが怯えてしまうでしょう。ね」

「そ、そんなこと……」

 同意を求められ、ティナは慌ててしまう。それから、思わず笑みをこぼした。あたたかい人たちだ。この人たちなら、自分をデリキアスに連れて行ってくれると、改めて確信する。

 ティナは立ち上がり、ベッドに置いてあった青いリボンを手に取ると、自分で器用に長い髪をうしろにまとめた。気合いを入れるように、大きく深呼吸する。

 そして、決意を込めた目で、いった。

「お願いします、連れて行ってください」



「連れて行ってください、はいいけどよ……」

 リライヴは両手をポケットに突っ込み、ぶつぶつとぼやきながら、街道を歩いていた。デリキアス行きの馬車が出る時間まで、買い出しに出ることにしたのだ。日が暮れる頃には着くとはいえ、最低限の保存食ぐらいは必要となる。

「……胡散臭いよなぁ。デリキアスに着いたとたん俺らが捕まるってオチじゃねえだろな」

 有り得ない話ではないので、疲れ切ったように顔を歪める。予定外の大きな収入があったことは喜ばしいが、割に合わないのでは何の意味もない。

 買い出しを終えたものの、まだ充分に時間があるので、リライヴは少し遠回りをすることにした。やる気のない顔をして、ぶらぶら歩く。

 そのうちに、ひどく静かな道に出た。

「……しけてやがる」

 パブの看板が並んでいる。どうやら飲屋街らしい。しかし、大きな町などとは比べものにならないような、小さな店がいくつかあるのみだ。

「朝だから閉まってんのか……」

 何の気なしに、店を眺める。女を売るような気の利いた店はなさそうだ。

 そのまま、しばらく歩みを進め、もう使われていないような古びた石造りの建物に、ふらりと入った。そうして、息を殺した。

 かすかな気配が後に続く。素早く身を乗り出すと、扉を閉め、あとから家屋に入ってきた小柄な人物の両腕をひねり上げた。

「きゃ――っ」

 小さな悲鳴。光がほとんど届かない暗闇のなかに、その人物を確認し、リライヴは息をついた。

「よう、昨日ぶりだな。ずっと尾行してたのはあんたか。何の用だ?」

 ぎり、と手に力を込め、のぞき込むように女を見る。魔術師の少女、アリス=リリィは唇を噛み、それでも気丈にリライヴを睨んだ。

「別に。たいした用じゃ――っつ……!」

「おとなしくいえよ。俺はいまあんまりいい気分じゃねえんだ。狙いがあの娘なら、もう一人はここにはいないんだろ? 助けを望んでも無駄だ」

「あ、あの子につきまとっているヤツが単独行動をするのを、放っておくわけにもいかないでしょう……!」

 両手の自由を奪われた状態で、強気な態度を崩さない。その目の光を見て、リライヴの胸を小さな興味がくすぐった。

「なるほどね……」

 両手を掴んだまま、身体を前に寄せる。遠ざかろうともがいて、アリスの背中がひんやりと冷たい石の壁に触れた。

「……なにするつもり」

 睨み上げる。上目遣いにしかならず、リライヴは唇の端を上げた。

「何を期待してるんだ?」

「――っ! ア、アタシは別に……!」

「……別に?」

 片手で両腕を拘束し、もう一方の手で頬に施されている文様に触れる。アリスは小さく震えた。リライヴはそのまま文様をなぞるようにして、ゆっくりと手を移動させた。文様は、全身に施されている。そのまま、首筋に触れ、鎖骨に触れた。

「……! やめ……!」

「うるせえよ」

 そのまま口を塞ぐ。ひどく長い時間唇が塞がれて、アリスは小さくうめいた。

 リライヴの手が、アリスの服のなかに容易に進入する。アリスの身体が強ばった。

「……で? あの娘は、一体なんなんだ? よってたかって追い回す理由は」

「はっ……なんでそんなこと、アンタにいわなく、ちゃ、……っ」

「教えろよ」

「――っ!」

 執拗に繰り返される指の動きに、アリスは必死で声を殺した。思ったよりも強情なその態度に、リライヴはもう一度、今度は幾分優しく口づけ、そのまま身体に舌を這わせる。

「……お、教えるわ……! 教える、から……!」

 リライヴは、紅潮したアリスの頬を撫でた。

「お利口だ」 






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