よろしくお願いします。
「もしもし。あのー教育係に連絡取れって書いてあってそれで」
「そういうことね。おっけー。えっと、さっきあった少年で合ってる?」
「はい。もしかしてさっきの女の子?!」
「女の子って……まぁいいか。そうだよ。今から上行くから、部屋の中で待ってて。そうだな、15分ぐらいかな」
「分かりました。待ってます」
「あいよー」プチッ
そこで電話は切れた。
さっきの子が教育係って……っ! 関節キスもしたし片道だけど。これってもしかして運命なの!? 結構可愛い子だったなぁフォーッ!!
いや待て待て。無闇にテンションを上げるのはやめておこう。既にパートナーがいるかもしれないし、そもそも僕の早とちりなのは自明。というかまだ子供だし。カルムダウン。チルアウト。はい。
それから15分ほどは某タブレットそっくりの端末にニュースアプリがあったので、それで色々とニュースをチェックしていたが、この世界の基本的なシステムすらまだ分かっていないので、知らない単語や表現がほとんど理解出来なかった。言語は初手からネイティブレベルなのに、知らないことは知らないのか。知識の習得は今後の課題の1つとなろう。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「入るよ」
「はーい」
扉は遠慮なく開かれ、スムーズに部屋の中へと入る。
「ここ座っていい?」
部屋に入るなりそう言って彼女が指さしたのは、僕が今座っているベッドだ。
そ、そんな。まだお互いのこともほとんど知らないのにこんな急展開ダメだよ〜。
……コホン。
「ど、どうぞ」
「よっと、まずは……どうしようか」
「どうましましょうかね」
「あーそういう話し方やめてくんない? 普通に友達か同級生みたいな感じで話してくれたらいいから」
「いやでも、先輩っていうかなんというか一応」
「私そういうの苦手なんだよ。年長者だから敬うとか、敬われるとか。それに私たちは立場的に同じ一介の管理人なんだ。私の方がここに来たのが少し早いってだけで、遠慮しなくていいんだよ」
これには強く共感した。僕も敬語というのは苦手だ。敬語とは言ってもその本体は語尾だけなのだが、敬語というある種の壁が生まれることによって会話のキャッチボールで強く投げ返せなかったり、深く捕らえることができないかもしれない。つまるところ、親密になりにくいと思っている。これが当てはまる人というのはもしかしたら限定されるかもしれないが。
「じゃ遠慮なく話させてもらいま、ね」
「なんだそれ。ぎこちないな」
「やっぱり急に変えるとなるとね。でも早い段階でそう言ってくれてよかったよ」
「そう? なら私も。そう言えばまだお互いの名前も知らなかったな。私はミヤだ。君は?」
「僕は島津圭介。よろしくね」
「島津? 凄いな、私と同じ苗字じゃないか」
「同じ、ってことはミヤも日本人なの!?」
「日本人というか、うーん、日本出身というべきなのかな。もう死んでるし」
「そっか……でも凄いね!こんな場所で同じ名前の人に出会うなんて」
そう言われてみれば僕はもう日本人とはいえないのかな。向こうではもう死んでるんだし、そう思うとなんか悲しいなぁ。僕は一体何者なんだろうか……
「もしかしたら、私と同じ一族かも。なんて」
「まさかね」
ん? そういえばミヤは一体何歳なんだ? 見た感じ12か13だけど、親戚にもそんな子は居なかったような。聞いてみよう。
「ミヤって今何歳なの?」
「何歳っていうか……ここにきてから320年ぐらい? 多分そんぐらいかな」
「え、なにそれ。そういう設定?」
「いやいやマジで。でもこの体は12歳に死んだ時のままだけどね」
「えっと……つまり寿命がとんでもなく長いってこと?」
「長いというか、私たち管理人に寿命っていう概念はないんだよね」
「え、それって不老不死ってことじゃ……」
「単純にはそういうことだね」
不老不死ってマジか。これってどうなんだ? いいのか、わるいのか。幸運か、不運か。
でもまあ、ある文明の行く末っていうのを観察できるというのは魅力的。僕がまだ地球上で生きていたとしても、残りの寿命はせいぜい60年か70年ぐらいだ。それでも想像がつかないぐらい先のことなので、死ぬことに関しては考えなくてもいいのかもしれない。
「正確には死なない訳じゃなくて、脳を潰されたりとか、胴体が真っ二つになったりしたら流石に死ぬよ」
「あ、そこは生物らしいんだ。ちなみに1番長い人は何年ぐらいなの?」
「私の知る限りでは1万年と、えっと264年だったかな」
「へぇ〜そんなに」
「さあ、気になることも多いかもしれないけど、次のステップに進もうか。どうせこの先長いんだ。何も慌てることはないさ」
確かに。事故にでもあわないかぎり死なないんじゃあ寿命という概念もないわけだ。急ぐ必要がまるで無い。
それが分かると、自分の心からあらゆるストレスや不安が抜けていくのを感じた。
辛いことがあったときに、宇宙の大きさを想像すると自分の目の前の出来事なんてどうでもよくなる、なんて表現があるだろう。今はその大きさの側にいる気分だ。このとてつもなく長い命の前では、多少の材料では精神的になんのダメージも感じないだろうと、そう思えた。
迷っている。