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陽炎輝夜 ~真夏のかぐや姫~  作者: 月親
序章 新月の迷い人
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01.どんとこいな訪問者

 歯磨き、洗顔、着替えと朝の三大支度を終え、俺はさっき美月が言っていた郵便物を取りに行くことにした。

 で、発見。


「まだいたのか……」


 時間的に、てっきりもう飽きて他の場所に移動したものと思っていた。

 アパート特有の玄関ドア兼郵便受けから投げ込まれた郵便物の前に、体育座りでいた美月。彼女は俺を一度振り返って、それから床に散らばった株式会社なんたらかんたら等、一つずつ差出人を読み上げた。

 一通り読み上げた美月が、再び俺を振り返る。何故か大層、不服そうな顔で。


「木原泉様宛ばっかり。私のは無いみたい」

「あったら怖いわ!」

「幽霊にだけ見える『週刊 霊界通信』だとかで、天国までのアクセス情報が書いてあったり、そういうの期待していたのに」

「そんなものが来た日には、問答無用で追い出すからそのつもりで」


 迂闊に読んで寿命が百日縮んでしまうとかそういうの、俺は絶対にごめんだ。先程までの上機嫌は、もしかしなくともそれを期待してたわけか。

さて、『週刊 霊界通信』は無いらしいから安心して郵便物を確かめるとしよう。散らばったそれらを掻き集め、拾い上げてから玄関マットに腰を下ろす。


「泉さん、何故体育座りですか?」

「お前もな」


 ハガキ三枚に封筒二通。『週刊 霊界通信』ではない小冊子一冊。見事なまでにダイレクトメールしかないでやんの。


「つまらん」

「つまる郵便物って何でしょう?」

「勿論、ラブレター」

「もらえるアテは?」

「勿論、無い」

「……ごめんなさい」

「そこで謝られた方が痛いんだけど」

「あ」

「あったのか?」

「……ごめんなさい」

「だから謝るなって、冗談なんだから。で?」

「外、誰か来たようです」


 美月がこっそりとドア越しに外の様子を窺う。ちなみにこの場合のドア越しは、少し開けてではなく、頭を通過させてのドア越しだ。なのでこちらから見ると、まるでギロチンで切り落とされたように見え――やべぇ、まるでじゃなくてすげー見えてきた。


「美月、戻れ。怖い」

「はーい。見つかったら大変ですもんね」


 見つからなくても俺のセンチな心が大変です。

 戻ってきた美月は、俺の隣に腰を下ろした。やはり体育座りで。

 何気に体育座りって楽だな、俺も気に入った。これからはテレビやビデオ鑑賞もこれでいこう。


「何人? どんな感じの人だった?」


 たちの悪そうな客は無視に限る。いつもは覗き穴を見るまで鬼が出るか蛇が出るかなので、今回ばかりは美月がありがたいかもしれない。


「一人みたいです。ニコニコしてました」


 一人でニコニコ? あ、怪しい……。


「新聞、宗教の勧誘はお断りだ」

「でも女の子はどんとこい」

「イエス」

「どんとこいの方ですよ」

「ああ、それなら一人でニコニコしてても、猫耳生えてても、ロボットでもいい」

「幽霊連れ帰っちゃうくらいですしね」

「俺的には「なんちゃって」発言のつもりだったんだけどな……」


 そうこうしている間に、ドアチャイムが鳴る。美月の「なんちゃってだったんですか?」と言いたそうな目を見なかったことにして、俺は覗き穴から外の様子を窺った。


あおいちゃんだ」


 土産袋を提げている。そういえば昨日で五泊六日の家族旅行から戻ってきたんだっけ。


「葵ちゃんて?」

清水葵しみずあおい十四――あ、今日で十五歳。アパート横の赤い屋根の家の子で、来年高校受験を控えているから俺が勉強を見てあげてる。控え目で素直で、丁度どこかの誰かさんと正反対にあたる素敵少女だ」

「誰かさんとは、もしや美月さんですか」

「イカにもタコにもその通り」

「む。あ、さては光源氏計画で未来の恋人に対する惚気ですね」

「ぐ、鋭い……確かにその予定だった。しかし俺の母校である県外の高校を受けるらしいので、俺の儚い夢がついえて先月独り涙したのだ」


 それでも葵ちゃんの素敵度数に変わりはない。今日も今日とて両手を広げて大歓迎だ。

――と、待てよ。


「美月、ドア開ける前に隠れてくれないか」

「修羅場るから?」

「あのな……」

「あ、幽霊だから?」

「先にそっちを思い当たるだろ、普通」

「そのことならたぶん大丈夫ですよ。私のこと見えたの泉さんだけだったから」

「俺だけ?」


 そういえば俺は昔からある意味感が良かったっけ。食玩のシールを集めりゃ同じキャラばっかり当たるし、テストでヤマを張ればそこだけ出ないし。


「ようするに美月は「俺の金返せ」な雑魚キャラシールだったのか」

「何の話でしょう?」

「気にするな、俺が納得しただけだ。とにかく見えないなら今はそれでいいや」


 うむ。細かいところはその都度、舌先三寸で切り抜けよう。決定。

ではさっそく、非肉体派の俺でさえ壊せそうな頼りないチェーンと、遊び半分でヘアピンを差し込んだらあっさり開きそうな鍵に、しばしの休暇を与えるとしよう。

チェーン、鍵、OK!(指差し確認) いざ!

 無駄に気合いを入れたところで、ガチャッとありがちな音を立てつつ……オープン ザ ドア。


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