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陽炎輝夜 ~真夏のかぐや姫~  作者: 月親
第二章 半月の刻待ち人
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10.楽しい時間

「泉、雨嫌い?」


 ぼんやりと窓の外を眺めていると、くいっと袖を引っ張られた。そのことで、葵ちゃんの家庭教師をしていたことを思い出す。


「ごめん、ぼうっとしてた」

「ぼうっとというより睨んでた。雨嫌い?」

「ん? あー、洗濯の敵だし小学校の遠足の度に降ってくれやがったし。まあ、あんまいい思い出はないかな」


 いきなりの核心に迫る質問に、俺は内心焦りながらも適当な理由で誤魔化した。隣に座る美月も、さすがにさっきの今でおもんぱかってか口出ししてこない。


「あっと、どこか聞きたいとこでもあった?」


 葵ちゃんのやっている問題集の進み具合を見て、自分が結構な時間意識を飛ばしていたことを知る。


「ううん。泉先生、私ちょっと休憩。麦茶飲んでいい?」

「え? ああ……」

「じゃ、貰うねー」


 葵ちゃんが席を立ち、俺と美月がこの場に残される。


「寧ろ泉さんが休憩ですね」

「……わかってる」


 俺が答えると美月が「おや?」という顔をして、それから「うんうん」と頷いた。


「何だかんだで葵さんの好意には素直です」

「そりゃやっぱ理想の異性に優しくされて嬉しくないわけがない。見たか今のさり気ない気の使い方、まさしく女性の鏡だろう!」

「それはいいんですけど、なんで泉さんが自慢気?」

「なんとなく」

「……ま、よかったです。泉さんが単純で。それでいいんです。だって葵さんはちゃんと泉さんといて楽しそうですから」


 美月が葵ちゃんを見やって、それから俺に微笑む。


「……お前は?」

「はい?」

「美月は俺といて、楽しいか?」


 頬杖をつき美月を横目で見ると、美月はきょとんとして、そして次に悪戯っ子のような顔になって、くすくすと笑い出した。


「泉さん()楽しいです」


 あまりに確信犯的な冗談に俺は突っ込む気にもなれず、「はいはい」と目を閉じて流した。


「あ、泉さんといても楽しいですよ。これ以上ないってくらい」


 声だけになった美月がフォローしてくる。


「でも……同時にこれ以上ないってくらい……切ないです」

「え……?」


 美月の聞き慣れない切羽詰った声に思わず目を開ける。けれどそこにはもういつもの顔に戻った美月がいて、さっきのようにくすくすと笑っていた。


「ね、泉さん。葵さんの一番好きなとこってどこですか?」


 そしてまた俺で遊んでやろう的な発言をする。が、そう何度もいいようにされる俺ではない。


「それを語るには百分の一時間必要なのだ」

「そ、そんなにも!」

「うむ。如何にも」

「美月さん、百分の一時間て三十六秒のことだよ」

「あ、駄目だって葵ちゃん、ネタバレ禁止」


 戻ってきた葵ちゃんに参戦され、俺は慌てて両手でバッテンを作った。隣で美月が「ならちゃっちゃと言っちゃって下さい」みたいな目をしているのを無視し、「じゃ、勉強再開しようか」と姿勢を正す。

 しかし、


「葵さん、泉さんの一番好きなとこってどこですか?」


 美月にとんでもない逆襲に出られ、俺は有り得ない行儀よい姿勢のまま固まった。


「そうだなあ……」


 いきなりな質問にさほど驚いた様子もなく、葵ちゃんがぽすんと自分の席に座る。


「きっと、美月さんと一緒だよ」


 そしていつかどこかできいたような返事を美月にした。とくれば……


「やっぱり気が合いますね。って、どうしました泉さん? 遠い目をして」


 案の定な展開に、はあっと大きくため息をつく。


「俺の思考力じゃ、まだまだまっだまだ世界に羽ばたけないと痛感しただけさ」


 そして俺も、いつかどこかで言ったような返事を美月にした。


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