00.幽霊な同居人
俺――木原泉は独り暮らしをしている。
「おい、美月。この爽やかな朝に何故お前がいる」
それについて、幽霊の同居人は含まない。
「陽が昇ったからって、そもそも迷子の私が何処に行くって言うんですか」
「くっ、常識が正論に負かされる……っ」
俺はタオルケットを身体から除け、寝ていた煎餅布団から這い出た。
Tシャツハーフパンツ姿の二十二歳健康男児の四肢に、まったく恥じらいを見せない自称花の十八歳。昨夜、出会った時は清楚可憐に見えたのだから、非日常を演出する夜の公園の怖さよ。
実際、見た目は明るいところで見てもそうだ。左肩で束ねられた長い黒髪、黒い瞳が映える色白で、白いシンプルなワンピースという格好。「見た目に騙されてはいけない」、誰が言ったかその言葉、きっとこいつを表すためにある。
「で、未練ぽいものは思い出せたのか?」
立ち上がって洗面所に向かう。その俺の後を、美月が付いてくる。その際に足音は一切しない。見た目は足があるだけましだが。
「未練どころか、名前以外はサッパリですね。やっぱり未練で現世に残っちゃったんだと思います?」
「俺に聞くな……」
歯ブラシに歯磨き粉を付けながら、溜息交じりに美月に返す。
死んだことに気づかないで幽霊になるケースもあるらしいが、美月は自分で「幽霊なんです」と言っていた。となると、未練で昇天し損ねたという線が有力だろう。美月を見ていると、単にぼーっとしていてという可能性も無きにしも非ずだが。
「気がついたらあの公園にいたんだろ? だったらそこに関連するものじゃないのか?」
「うーん、なるほどなるほど」
大袈裟に頷いてみせる美月。にも拘らず、かなり胡散臭い考えるポーズをしているあたり、他力本願万歳な雰囲気がひしひしと伝わってくる。ついでに、厄介事に巻き込まれそうだという予感もビリビリ来てる。
美月は半ば強引に半ば強引に、俺に付いて(憑いてか?)きた。が、最終的に家に上げてしまったのは、他でもない俺自身。過ぎてしまったことは、仕方がない。割り切るしかない。
「鍵は『公園』。公園なぁ……誰かとの思い出の場所だとか?」
「定番ですねー。だとしたら誰でしょうね?」
「だから俺に聞くなよ……」
「謎は深まるばかりですねー」
緑茶を啜りながら言うのが似合いそうな、のほほんとした口調で遠い目をする美月。
おい、「待て次号」じゃないんだから、そこで完結してどうする。
「あ、そういえば」
そうそう、探偵物ではありがちなその台詞から新展開になるよな。
「さっき、郵便屋さんが来てましたよ」
新展開ならぬ新連載を始めてどうする。
「さっそく見に行きましょう。そうしましょう」
そんな俺の気も知らず、スキップでもしそうな上機嫌で美月が玄関の方へと歩いて行く。
何故にこいつはこんな朝っぱらから元気なのか。あ、寝てないから眠くないのか。
俺は奇妙な同居人の背中を見送りながら、手にした歯ブラシを口の中へ突っ込んだ。