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毒を以って毒で制す。  作者: 雷丸
1/1

なぜラスボスはあんなに状態異常耐性が強いんだ?

普通の世界で暮らしていた主人公、五十嵐 紅羽はすでに異世界転移を終えた状態からのお話となります。(いずれどういう経緯かの第0話も投稿します)どんなキャラかというと、毒が好きで、Sが強めで、肉体労働は他の者に任せるタイプの一人称僕タイプです。あと毒の研究が進んでるせいか、いつの間にか世間からは殺し屋扱いされてます。なので、客がじゃんじゃんやってきます。なんですかこれ。


 ーーーここは、いわゆる異世界。


 魔法や不思議な力。そしてエルフや神様といった、様々な種族が存在する世界だ。


 一見ファンタジーな世界のようにも聞こえるが、そんな世界にもやや悍しい職業が存在している。


 「……ここね。毒殺し専門のアジトは」


 ーーー深い帽子に手が少し隠れる長袖の服。そしてサングラスをつけた如何にも怪しいと言える存在の女が、目的地にたどり着いた。


 アジトと言っても壮大なものではなく、毒殺し専門屋は何処にでもありそうなビルの二階に賃貸として殺し屋を生業とし、経営しているそうだ。


 「少々変わり者と聞いているけど……、腕は確かだとも聞くわ。よし……」


 人を殺める者に依頼をするという重大な事に一度呼吸を整え、男は二階へと階段を登る。


 「……この名前の所にその人が……」


 扉の前の看板には『Poison』と書いており、一見ブラックな仕事を受け付けなさそうではあるが……。


 「カモフラージュなのかしら。流石ね……」


 ーーーすると、扉の向こう側から何やら声が聞こえる。


 「はぁ……はぁ……」


 「……ん?」


 ……声というよりは吐息に近く、何事だろうと少し耳を寄せる。


 ーーーすると、こんな声が聞こえ始めた。


 「はぁ……、はぁ……!!お、お願いします先生ぃ……!!もっと、もっと先生の液を下さい……!!」


 …………先生の液?え?なんでこんな息乱してるの?なんでこんなやらしい声してるの?


 「ふっ、そうか。なら、僕の特製液体をお前にやろう。存分に飲ませてやるから、口を出せ」


 「は、はぃぃ……!」


 「しっかり棒の部分を握っておけ。溢れて無駄にしても知らないぞ?」


 棒って何!?特製の液体って何!?この声的に男と女だよね!?何してんの、昼間から何やってんの!?


 「分かりました……しっかりと両手で握っておきますね……!」


 「これは半液体状だからな。出るのには少々時間が掛かるが……。そろそろ出るな。

構えておけよ」


 「は、はいぃ……!」


 ちょ、これ、あかんやつ!!この作品r-18で投稿してないから!全年齢対象だからぁぁ!!!!


 「そろそろだ……。出るぞっ!」


 「ふぁぁぁぁぁぁんんん!!!」


 ーーーーガチャッッ!!!




 「何してるのこんな昼間から仕事場でぇぇぇーーー!!??」




 「ーーーーはぁ、はぁ……!!先生特製の毒液、最高に美味しいです……!!」


 「そうか。それはいいサンプルが取れた。次はこっちのヘビ毒の試飲を頼む」


 「はいぃっ!!」


 「……毒液?試飲?」


 ーーーどうやら勘違いをしてしまい、毒液を女性に飲ませているだけだったようだ。たったそれだけ……。


 「って、何飲ませてんのぉぉぉぉぉぉぉ!!??」




 「いやはや、客が来ている事に気付かず研究に勤しんでしまった。不遜な態度をすまないな」


 「は、はは……。そんな、別にいいんですが……」


 依頼者は先程危険度MAXな液体を運動後のスポドリの如くゴクゴクと飲んでいた彼女に目を向ける。


 「粗茶ですが!どうぞ!」


 「ど、どうも」


 スタスタスタ……。


 しかし彼女は何の異変もなく、笑顔で客にお茶を出している。


 「……すいません、つかぬ事をお伺いしますが」


 「何かあったか?」


 「何かあったというか、事後というか……。あの方は助手さん、ですか?」


 「エミのことか?まあ、助手のようなものだな」


 「そ、そうですか」


 この殺し屋も助手も、先程のことはさも当然かの様に客に接する。


 「………(チラッ」


 きっとあのフラスコに入っていた紫色の液体はぶどうジュースとかだったのだろう。毒液、と言ってるように聞こえたが、空耳だ。そうでなければ劇薬をがぶ飲みなど有り得ない、と己に言い聞かせ、本題に入る。


 「……私の名はマイル。貴方の話は聞いています。この世界に二つとない特殊専門分野、毒を司る殺し屋……その名は五十嵐紅羽、と」


 「僕は殺し屋じゃないぞ?」


 「……は?」


 「いや、言い方に語弊があるな。僕は何も殺す事を生業として生きているわけじゃない。

単に毒の開発に没頭しているだけだ」


 なるほど、たしかにこの人は変わり者だ。

というか、かなりの変わり者だ。

彼ほどの知名度がありながら、その理由が己の研究のためだと……。


 「で、では何故殺し屋と言われているのですか?」


 「僕が毒消し草の効果を無視した毒ダメージを与えられる研究が成功してからだな。それから注文が殺到して」


 「ちょ、ちょっと待ってください!!

毒消し草の効果を無視!?そんなの、出来るんですか!?」


 序盤にも言った通り、この世界には魔法というものがある。勿論、アイテムもそれらに見合った物が存在している。その中には毒状態を解除できる、毒消し草というものがあるのだが……。


 「……はあ。まだそんな思考を持つ者がいるのか?」


 「……そんな思考?」


 「まあいい。で、用件を言え」


 この二人の妙な雰囲気に押されかけていたが、ようやく本題に腰を入れられるようになった。


 「は、はい。……実は、私の住んでいる村がゴブリン達に支配されているんです」


 「そんなのは地方治安隊にでも連絡しておけ」


 「出来ないんですよ!あいつらはゴブリンの中でも上位の肉体を持っていて、地方の治安隊じゃ歯にたたないんです!我々じゃ手に負えませんって……、これ以上我々じゃ防御を貼るお金はありません!ですから……」


 地方治安隊とは、この世界に適所存在する交番のようなものだ。だが、ゴブリン達は治安隊よりも強い力を誇っていて、どうにもならないとのこと。


 「僕への依頼も金は発生するが?」


 「中心都市に行って軍隊を派遣するよりは、何倍もマシです!」


 「……なら、そのゴブリンどもを何とかすればいいんだな?」


 「は、はい!お願いします!」


 「……承った。なら、行くか」


 「…………え?今から?」



 村の場所やゴブリンの現れる時間帯など、詳細をマイルに教えてもらいながら、目的の村に辿り着いた紅羽とエミ。まだゴブリン達は村に来ていないようだ。


 「おお、貴方様がこの村を救ってくださるのですか……!!」


 「頼みます……!!」


 「どうか、この村に安泰を……!」


 村を一周し、まるで神のような扱いを受けた紅羽。少々精神的に疲れ、溜息と共に作戦を開始する。


 「ふー……。エミ」


 ダダダダダダ…………!!!!


 「はいいっ!エミを呼びましたか!?」


 「確かに呼んだがそこまで顔を寄せろとは言っていないぞ」


 例えるならポ◯キー1本分も入るかどうか怪しい距離感である。


 「それで先生。ここが目的の村ですか?」


 「そうだ。奴らは基本洞窟に住んでいるらしい。なら……」


 そう言いながら大きめなカバンに入っている小さな何かを取り出した。


 「これを、奴らの洞窟に置いてこい。それだけでいい」


 紅羽から渡されたものをまじまじと見つめ、何をしたいか閃いたエミは少年の如く目を輝かせる。


 「わっかりましたぁ!エミ、全速力で行って参りますぅぅぅ…………」


 ……そして、チーターより早い足でいつのまにか森の中へと姿を消していってしまった。


 「えっと……殺し屋さん?」


 「なんだ、マイル」


 「助手さん、大丈夫なんですか……?」


 「あいつなら一週間飲まず食わずでもあのテンションでいられるほど強すぎる体の持ち主だ。心配なんて1ミリも要らない」


 「そ、そうですか……」


 ……なんなんだこの二人はと、困惑の値がそろそろ限界突破をしかけているマイルであった。


 「……来ました!奴らです!!」


 少しゴブリン達とは距離感のあるものの、踏み歩く衝動がかなり伝わってくる。

 強靭な体を持っている、というのも頷けるほどに。


 「がっはっはっ!!ひれ伏せひれ伏せぃ!!この村は既に、この俺様ギャロル様のモノよぉ!!」


 村の皆は頭を地面につけ、完全にギャロルを中心にゴブリン達の言いなりとなってしまっている。


 「くそっ……ゴブリン達め……」


 村の皆は当然従順なわけが無く、ゴブリン達に聞こえないように悪口を零す。

 

 「様を二回付けるのはセンスなさ過ぎるな」


 ーーーのだが、村にやってきた助け舟がいきなり沈没船になる勢いで悪口を普通の音量で発した。


 「ーーー………」


 隣でひれ伏していたマイルの表情は既に人生を諦めた白い顔をしており、もはや突っ込む気力も失せてしまう。


 「……あぁん!?誰か今、このギャロル様をバカにしたかぁ!!??」

 

 もろちんゴブリンの耳にはその声がバッチリ入ってしまった。


 「……んん?お前、見たことない面してるなぁ……。お前か?この俺様をバカにしたのは」


 ズシズシとギャロルは紅羽の前へと近寄る。


 「バカになどしていない。事実を述べたまでだ」


 「もっとタチが悪いわ!!……おぉ?お前が持っているのは……!」


 「……あ!!それは!!」


 ギャロル含めたゴブリンや村の皆、そしてマイルも紅羽が左手に持つ『何か』に目が移った。


 「ほっほーう?こりゃいい酒じゃねぇか!」


 「そ、それは我が村が唯一誇る高級なお酒!何故貴方が!?」


 「ん?先程村を見回った時に見つけたからな。頂戴した」


 いやただの泥棒じゃねえかというツッコミが間違いなく村人の皆が合致した瞬間であった。


 「この村はこんなのも隠してたのか。はっは!おい陰湿野郎!さっきの悪口は水に流してやる。それをよこしな」


 「ああ、いいぞ。お前にやるつもりでもらったからな」


 「あげてないですよ!」


 「ひゃっはぁ!今日のところはこいつで勘弁してやるよお前ら!あばよ!!」


 マイルのツッコミも虚しく、その上級な酒を手にしたゴブリン達はそれを手にし、満足げに巣へと帰っていった。


 「ーーーーっ、どうしてくれるんですか!?ゴブリンを怒らせた挙句、村の宝物を勝手に渡すなど……!!!」


 「マイル。アレはハブ酒だろう?」


 「……え、あ、まあ。はい」


 「なら僕の作戦通りにいく。間違いなくな」


 「……お言葉ですが、ハブは毒を出しますがハブ酒には毒は入ってませんよ?」


 「もちろん知っている。だがな……。この世には、少し紐を解くだけで簡単に爪を出す物なんて幾らでもあるのさ」


 「は、はぁ……」



 ーーーーしばらくして。




 「先生っ!エミ、ただいま帰還しました!」


 「あ、エミさん。お帰りなさい……」


 「マイルさんもただいまです!」


 エミが帰ってきた。既に深夜になっていたので、村の皆は一抹の不安はありながらも、マイルと紅羽以外は眠りについた。


 「ゴブリン共には見つかってないだろうな?」


 「はい!バレずにしっかりアレを設置しました!」


 「そうか、よくやった」


 ……すると、急にエミがモジモジし始める。


 「どうした、エミ」


 「せ、先生ぃ……、あの、そのぉ……」


 少々頬を赤らめ、視線をワザとらしく外すエミの不審な行動に紅羽は早急と察した。


 「……ううん?そんな態度じゃ何したいのか分からないなぁ……。ほら、もっと醜くブタの様に僕に懇願するがいい」


 「ご、ご褒美を下さいぃ!」


 「そうかそうか!いいだろう、今宵はなんと1リットル分もあるからなぁ……。ほぅら、口をだせ」


 「せ、先生の毒液、ありがたく頂戴しましゅう……」



 そろそろこの二人の扱いを理解し始めたマイル。その口から放たれた一言とは。



  「私もう寝てもいいかな!?」



 ーーー翌朝。

 村の大事なお酒を堂々と渡した紅羽は村の端で寝ていた。しっかり毒が効いたかどうかの確認のために一夜をそこで過ごした様だ。


 「……ん……。ったく、村の奴らめ。僕を除け者扱いするなんて……」


 「ふぁぁ、おはようございます。先生」


 「ああ、おはよう。くそ、変な体勢で寝たからか身体中の関節が軋んでるな……」


 「だ、大丈夫ですか!?肩揉みましょうか!?足つぼマッサージしますか!?それとも私のおっぱ」


 「それは遠慮しておく」


 「ま、まだ全部言ってませんよぉ!」


 村の皆は彼が助け舟であることは承知していても、あのような奇行に走った輩とは距離を取りたかったのか紅羽とエミは野宿となっていた。


 「……おはようございます」


 「ん、これはこれは。僕が除け者扱いされてる事を把握しながらも自分の家でぐっすり就寝するという愚行に走ったクソビ◯チではないか」


 「せめて名前で!!これでも罪悪感はあるんですよ!?」


 「ほーう……」


 少しいじってやろうとS発言を考案し始めた瞬間に、別の村人がこちらに全力で走ってきた。


 「はぁはぁ……!殺し屋さん!!あんた、どうなってんだ!?」


 「何かあったか?」


 「ゴブリン共がまた来たぞ!それも『酒が不味かったから昨晩の陰湿野郎をだせ』ってめちゃくちゃ怒ってる!!」


 「そうかそうか、不味かったか」


 「な、なにを他人事みたいに……!!」


 ズシ…ズシ、ズシ!!


 その村人の後ろには見覚えのある巨体が棍棒を持ちながら立っていた。


 「ここにいたかぁ……。お前ぇぇ!!」


 それも、かなりのご立腹な様子で。


 「ひ、ひぃぃぃ!!」


 先程連絡に来た村人は颯爽と逃げ出し、残るはマイルとエミと紅羽、そしてゴブリンの長ギャロルと部下ゴブリン達となった。


 「どうした?酒が口に合わなかったとのクレームらしいが」


 「クレームなんてもんじゃねぇよぉ……。この俺様にあんな不味いモノ飲ませやがって!!」


 「やれやれ、飲んだのは自分だろうに……」


 「……もう話は聞かねえ。今ここで、お前をぶっ殺してやる!!!」


 ーーーその後の紅羽の発言など有無を言わさず勢いで棍棒を振り下ろす。


 「殺し屋さん!!!」


 マイルが危機を察し紅羽に手を伸ばすも、その手は届かずーーーー………。


 ………だが。


 ーーードサッ。


 「……え?」


 ギャロルの棍棒は手から離れ、ギャロル本人はそのまま紅羽の横へと倒れていった。


 「「「か、頭!!」」」


 「ど、どうなってやがる……何故体がピクリとも動かねぇ!?」


 「ーーー8時、か。ジャストだな」


 今起きた出来事をまるで全て理解していたかの様な表情をしている紅羽。エミも分かっていたからか紅羽の盾にはなろうとしていなかった。


 「て、てめぇ何をしやがった!?」


 「説明を御所望か?いいだろう」


 紅羽はカバンから何かを取り出した。

 ……それは。


 「ハ、ハブだと?」


 「そうだ。しかしこれはただのハブではない。僕が手塩をかけて育てた、通常の数十倍濃度の高い毒を生み出すハブだ」


 試しにとハブを刺激したところ、そのハブが出した毒液に当たった地面は溶けていった。


 「昨晩、お前に酒を渡す前にこの特製ハブと入れ替えたのさ。仮死状態にしてな」


 「な、何ぃ……!?」


 「マイルからお前らの巣窟の場所を聞き、その距離と歩行スピードを計算した。丁度その巣に着いた時間帯にハブが目覚めるように、仮死薬を厳選し飲ませた」


 「だ、だがあの酒に入ってたハブはずっと動かなかったぞ!」


 「動かなかったんじゃない。目覚めても動かさないように予め麻痺させておいたんだよ」


 「……ど、どういうことだ……」


 「だから、麻痺させた状態で仮死薬を飲ませたんだ。そこから目覚めても、体は動かせない。それこそ、毒を吐く行為以外はな」


 「……殺し屋さん」


 マイルが疑問に思ったことがあり、紅羽に声をかける。


 「どうした?」


 「ハブの毒を飲ませたかったのなら、麻痺させておくだけでよかったのでは?」


 「それではダメだ」


 「どうして?」


 「昨晩、もしも僕の目の前でこいつが飲んでも、違和感を感じさせないように酒である必要があった。中身までは変えられなかったんだ。……だが、このままでは毒がアルコールに中和されてしまう。ゴブリンの道中にハブが毒を出してしまっては、結局水の泡となる」


 そこで、と一言挟みエミに相槌をうつ。

 エミは「?」としていたが数秒後に察しそそくさに昨晩の例のモノを取り出した。


 「アルコールを中和し、ただの水と化す僕が作った道具。アルコール・インポッシブルだ。これ以降は、A・Iと略す」


 ネーミングセンスのカケラも無えとその場にいる者が満場一致……いや、エミ以外はそう思った。


 「A・Iの成分は気体化できる。これを昨晩お前らの巣に置き、お前らが巣に着き宴を始めたその頃にはハブ酒の中のアルコールはサッパリ消えるって寸法だ。それに加え、丁度ハブが仮死薬の効果が切れ猛毒を吐き出すおまけ付きでな」


 「……だが、ただの毒が入った水となれば味は異変を起こすはずだ!あれは確かに不味かったが、ハブ酒の味はしたかと言われたらしたんだぞ!?」


 「あー、それはすまないな。こちらには毒大好きっ娘がいるんでね」


 「えへへ、どうも!好きな食べ物は毒です!」


 「……は?」


 「まあ、エミの話はどうでもいい。要はエミに毒入りの水をたくさん飲ませ、一番ハブ酒に近い味がした毒をハブに仕込んだってだけの話だ。だが、完璧な再現は難しいからな。不味くなってしまったのは申し訳ない」


 「……なっ……んなぁ……!?」


 なんなんだこいつらはと、ゴブリン達はもはやまともな言葉が出ない。

 いや、もちろんゴブリン達に毒を飲ませたルートに驚きもあるが、一番は……。


 「何故この俺に毒なんてモンが効いてるんだ!?」


 ゴブリンの長ともなれば、巨体かつ剛力であることは当然、あらゆる状態異常に対する『耐性』というのも多少は付いている。絶対効かない、程まではいかなくとも全く体が動かない状態にまでなるはずがないのだ。


 「ああ、耐性の話か?それはな……」


 そもそもの根本たる原因を語ろうと紅羽は息を溜め、周りの皆も次に出る言葉に耳を寄せる。


 「企業秘密だ」


 「は?」


 「ま、それよりもお前らの今の状況を振り返った方がいいんじゃないのか?」

 

 「何を言って……」


 そう言いながらなんとか目を後ろの方へと向けるギャロル。そこには部下のゴブリン達が居たはずだが、いつの間にか全員が縄で捕縛されていた。


 「お、お前ら!?」


 「エミは戦闘能力もずば抜けているからな。お前が相手なら手こずるが、雑魚共なら他愛もないことだ」


 「「「す、すいません頭!!」」」


 動けなくなったボス。捕まった手下。

 そして周辺には自分達の事をよく思っていない人間達。


 ……段々とこのとんでもない状況を察し始めたギャロルは恐る恐る紅羽の顔を伺う。


 「ーーーさてお前ら。痛ぶられるのは好きか?」


 ……その表情は、この上なくニヤついていた。


 ※


 そこからはとても早く展開が進んだ。

 今までの展開を窓越しに見ていた村人はゴブリン達の不利的状況を察し、クワやスコップなど、自分達が持てる最大限の武器を構え総出でゴブリン達を痛めつけていた。


 そして、ゴブリンを殺すという依頼を受けた紅羽ではあったが、優しい村人達の志願で『ゴブリン達は悪さをしたものの、虐殺や人攫いなど非人道的な事はしていない。どうか見逃してあげてくれ』との事で、ゴブリン達にしっかり言いつけるだけで済まされた。


 「全く、僕としてはかなり強力な毒を盛ったんだがな。効果時間はしっかり働いていたものの、効果自体の強さはイマイチといったところか。まだまだ改善の余地あり、だな」


 「はい!新しい毒を開発しなくちゃですね!その時は是非私に試飲を、えへ、えへへ……」


 最も、ゴブリン達の生死などさほど重要ではない二人にとってその話は馬耳東風の様だが。


 「ああ、マイル。そういえばまだ依頼金を貰っていなかったな」


 「え?あ、はあ……」


 「500万ガルだ」


 「……へ?」


 「だから、500万ガルだ」


 ガルとはこの世界における通貨であり、1ガルは1円換算とする。


 「ひゃ、500万ガルゥゥゥ!?」


 「なんだ。言っておくが、不当だなんだの苦情は一切受け付けんぞ」


 「そ、そんな大金持ってませんよ!ていうか下手したら軍隊派遣よりも高くありません!?」


 「明細な金額を把握しなかったお前が悪いな。うむ、それに尽きる」


 「そんなぁ……!」


 村の皆に助けを求めるが如くマイルは振り返るが、知らぬ存ぜぬと言わんばかりに不自然と視線を逸らす。地方の治安隊を呼ぶのが限界な村だ。財産がほぼないのはどの家でも同じことなので、分割してでも500万ガルは到底無理な金額である。


 「……そうか、無理か。なら体で払ってもらおうか」


 「なっ、この私の若々しい体をどう使おうと言うのですか!?」


 「……何を勘違いしてるかは知らんが、払えないというのなら僕の仕事を手伝ってもらうぞ?」


 「あ、そっちのほうですか……。って、えぇ!?私が殺し屋さんの所で働くんですか!?」


 「そういうことになるな。いやー丁度お前の様な何の取り柄もなさそうでキャラ名と僕との接点が無ければ間違いなくモブ扱いなくらいの普通なキャラが僕のチームに欲しかったんだ。歓迎するぞ」


 「それ歓迎してないですよね!?バカにしてますよねぇ!?」


 「ふふ、やはりマイル、お前は弄りがいもある。僕が望む最適の人物だ。よしエミ、こいつを引っ張ってでも連れてこい」


 「あいあいさーです!」


 「え!?ちょっと、ホントに私を連れてくんですか!?」


 「「「頑張れ、マイル!応援してるぞ」」」


 「あ、ちょっと村の皆助けて置いてかないで、それとエミさん首元引っ張らないでぇぇぇ…………」


 村の皆は手に白いハンカチを持ち、マイルの旅立ち(強制)を平和である事を祈るように大きく左右に振っていた。


 ーーー毒を愛する男、五十嵐 紅羽。

 

 彼は異世界に存在する毒物に新たな可能性と希望を求め、今日も自室で研究に明け暮れる。


というわけで第1話、いかがだったでしょうか。

今回はどういうキャラ達で、どういう方向性なのかを知って欲しいという回にしたつもりです。

拙い文章も多いかと思いますが、これからも読んでいただけると幸いです。

あと読んでお気づきの方もいると思いますが、この主人公、まず戦いません。ゴブリンとかいるのに。ステータスの概念はありますが、レベル上げ等をまともに行っていません。ゴブリンとかいるのに。回復系の技すら覚えているのが少なめです。ゴブリンとかいるのに。

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