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来たる妹


 早朝、日が昇って間もない頃。

 窓の外から聞こえてくる鳥のさえずりで目を覚ます。

 

「久々にゆっくり寝たな……」


 身体を起こしながら呟く。

 久しぶりのベッドで迎える朝に頭が混乱しているのか、意識がまだはっきりしない。


「ふわ~」


 後、せっかくだから起きたら「知らない天井だ」って言おうと思ってたけどタイミングを逃したな……

 眠気の残る頭でバカなことを考えながら、俺は大きく欠伸(あくび)を漏らす。

 このまま二度寝したい気分だが、昨日会ったばかりの人達にだらしない姿を見せられないと思い、手早く朝の仕度を済ませるのだった。











「貴方は一体何をやっているのよ……」

「おはよう、リア。見ての通りだけど?」

「私の目にはエプロン姿のカナタが(うち)のメイド達と一緒に朝食の準備をしているように見えるけど」

「そういうこと」


 朝起きて食堂に向かったらちょうどメイドさん達が食事の仕度をしていたので、手伝いを買って出たのだ。

 ちなみに、服は俺の制服を洗ってくれたらしいので昨日と同じ格好をしている。

 どうやって一晩で乾かしたのかは謎だ。


「貴女達も何で客人に手伝わせてるのよ」

「いやー、最初は断ったんですよ? 使徒様に手伝わせるなんて恐れ多いですし」

「でも、どうしても手伝いをしたいって言うからお願いしたらすごく手際が良くて」

「卵の片手割りとか初めて見ました」

「……カナタってもしかして料理上手?」

「いや、普通だと思うけど」

 

 俺が作れるのはせいぜい日本の一般的な主婦が作れる料理と祈にせがまれて作ったことのあるアニメの飯テロ料理くらいだ。

 卵の片手割りも祈が生で見たいって言うから練習して出来るだけだし。


「まあ、カナタが言い出したなら良いのだけれど、基本的に客人の手を煩わせたら駄目なのよ? 今後は気を付けなさい」

「「「はい! 姫様!」」」

「じゃあ、仕事に戻って良いわよ。あっ、それから私とカナタの分の朝食を持って来てくれる?」

「「「はい! すぐに持って参ります!」」」


 そうして、厨房に戻って行くメイドさん達。

 俺はエプロンを脱ぎながら、近くの席に腰を下ろし、リアがその向かい側に座る。


「さてと、改めておはよう、カナタ。昨日はよく眠れた?」

「ああ、おかげさまでな」

「それは良かったわ。それにしても、随分早起きなのね」

「我が家の料理担当だからな、俺は。おかげで自然と朝早くに目が覚める癖がついた」

「そうなの? 日本だと貴方ぐらいの年頃に家事をするのは珍しいって聞いたのだけど」

「普通はそうだけど(うち)は母子家庭だからな。母さんは仕事でほとんど家に帰ってこないから俺が家事をやってる」


 まあ、仮に家に居たとしても絶対にやらせないけどな。

 母さんの家事力は絶望的だし。

 祈? あいつは家事力はあるけど、やる気がゼロだからな。

 

「……貴方達のお母様には心配をかけてしまうわね」

「いや、俺と祈が一緒にいるなら心配しないと思うぞ?」


 何故かは知らないが俺と祈が一緒にいる時は、母さんは一切心配しない。

 逆に、それぞれが別々でいる時はものすごく心配で不安になるそうだ。

 例えば、俺が修学旅行で家を空けた時は旅行先の俺と家に居た祈にそれぞれ一日に十回近く電話をかけてきたほどだ。


『何か大きな事をする時は必ず二人一緒にやりなさい』


 基本的に放任主義の母さんが俺と祈に唯一約束させたことだ。


「だから、今回のことも祈を止めるんじゃなくて、むしろ積極的に後押しすると思う」

「不思議なお母様ね、普通は自分の子供がこれ以上危険な場所に行かないように止めると思うけど」

「母さん曰く、『それぞれが一人で出来ないことでも貴方達兄妹でなら何でも出来る。だから出来る限り一緒にいなさい』だそうだ」

「すごい理屈ね」


 俺もそう思うが、たぶん母さんのことだから「1+1=2じゃなくてそれ以上の力を出せる」的なことを言いたかったんだと思う。

 そんなことを考えながら話の途中でメイドさん達が運んで来てくれた朝食を食べる。


「まあ、そういうわけだからそんな申し訳なさそうな顔することないぞ」

「……顔に出てたかしら」

「少しだけな」


 リアは上手く取り繕っていたつもりだろうが、こちとらほとんど無表情な妹の相手を毎日してるんだ。

 細かい表情の変化から感情を読み取るのには慣れている。


「……そう、ありがとう。カナタ」

「どういたしまして」


 リアが小さく微笑む。

 その後は気を取り直したようで朝食の間中、それぞれの世界の話をしながら俺とリアは和やかな時間を過ごした。











「それでは、姫、よろしいですか?」

「大丈夫よ」


 ヘイゼルさんの確認にリアは小さく頷きながら返事を返す。

 あれから、食事を終えた俺とリアはそのまま、祈を召喚する為に昨日俺が召喚された部屋に向かった。

 そこでは、既にエリオットさんとヘイゼルさんが召喚に必要な準備を整えてくれていたので、俺もリアに魔法を使ってもらって祈に連絡を取り、そして今、双方の準備が整ったところだ。

 リアが指定の場所に立ち、魔法を補助する為にヘイゼルさんがその隣に立つ。


「じゃあ、行くわよ」


 リアの合図とほぼ同時に地面に描かれた魔法陣が少しずつ光を放ち、輝き出す。

 リアが魔法の詠唱を始め、俺とエリオットさんは静かにそれを見守る。


「『遠き地より、我が呼び声に応じ、来たれ、異界からの来訪者よ、サモン・アポストル』」


 リアが魔法を唱え終えた瞬間、視界が魔法陣から溢れる光で塗り潰されてしまう。

 そして、次に目を開けた瞬間、俺の目に一人の少女の姿が映りこんだ。


 オニキスのような深い黒色の瞳、ショートボブの艶やかな濡れ羽色の髪、整った顔立ちは精巧に作られた人形のようだが、頬の赤らみや息遣いが少女を人間であると証明している。服装は猫耳パーカーにスカート、首に愛用のヘッドフォンをかけた俺にとっては見慣れた姿だ。


 その少女――祈は魔法陣から出て、真っ直ぐこちらに向かって来たので声をかける。


「よう、祈」

「ん、兄さん、来ちゃった♪」

「表情変えずに声だけ弾ませるな。びっくりするわ」

「内心を声で表現してみた」

「嬉しいってのは分かったけど、次からは表情も変えてくれ」

「ん、善処する」


 何てことのない会話だが、こうして祈と直接話せることがどうしようもなく嬉しく感じてしまう。

 昨日の朝以来なんだけどな。

 それにしても、


「また随分と大量に持って来たな」

「必要そうな物はあらかた持って来た」


 魔法陣の中は祈がいた中心を除いて全てがボストンバッグやスーツケースで埋め尽くされていた。

 どうやら、頼んだ物以外にも色々持って来たようだ。

 まあ、多いに越したことはないか。


「そうだ、母さんは何て言ってた?」

「楽しんで来なさいって」

「そっか」


 母さんらしい一言だな。

 本当は直接話せれば良かったのだが、スマホの充電がヤバくて連絡出来なかったのだ。


「それからこれは私からの言葉」

「うん?」

「兄さん、一緒に楽しいこと、しよ?」


 祈が甘えるような上目遣いで問いかけてくる。

 この言葉は祈が俺を何かに巻き込む時に言うお決まりの台詞(せりふ)だ。

 そして、今までの経験上、こう言われた時に俺が言い返せる言葉はただ一つだ。


「程々にな」

「うん」


 表情は変わっていないように見える。

 けど俺には分かる。

 ワクワクしてたまらない。

 そんな想いのこもった祈の返事に俺は苦笑せずにはいられないのだった。











 こうして兄妹が再会し、歯車が動き出した。

 それが、このエーデンガルドでどのような結果をもたらすのか。

 今の時点で知る者はいない。

 知る者がいるとすればそれは……































「存分に暴れて来なさい。悠、祈」


最後の一言は一体誰の言葉何でしょうか!?

(まだ、作者も明確に誰と決めていない)


後、今まで言っていませんでしたが、誤字や脱字などがあったら感想のところで報告してもらえると嬉しいです!

もちろん、内容の感想も言って頂けるとなお嬉しいのでどうぞよろしくお願いします!

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