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フェルミナス王国

少しばかり説明回。


 フェルミナス王国は"レムリア大陸"の東に位置する死の樹海のほぼ中心部にある君主制の国家だ。都市や町は現在俺がいる首都"カディア"だけであり、人口は約900人ほどで人間が5割、獣人が3割、ドワーフが1割、その他の種族が残りの1割ほど暮らしているらしい。


 この国は元々、こっちの世界に残った勇者と聖女が奴隷や戦災孤児、迫害を受けた者達などの居場所として作った村が始まりだったそうだ。魔王討伐後、二人は行方を(くら)ましたことになっているが、陰ながら助けを求める人々を救い、居場所を失った人々を(かくま)っていた。

 しかし、人数が増えるにつれてリント山脈の向こう側に匿える場所が無くなり、最終的に行き着いたのが、この土地だったらしい。

 そして、村ができてからも勇者と聖女がどこからともなく居場所に困った人を連れて来るので、村は町になり、町は都市に、やがては国にしてしまおうとなって今に至るそうだ。

 ちなみに、勇者は空間魔法が使えたらしく、山脈の向こう側と村を行ったり来たりするのは簡単だったらしい。


 これが、リアとヘイゼルさんが部屋を出て行った後にエリオットさんから聞いたこの国の成り立ちだ。

 国の成り立ちを聞いた後は今後の予定やこっちに持って来て欲しい物などを祈に伝えてから通話を終え、建物の中、というか城の中を案内してもらった。

 そして、そうこうしているうちに日が沈み、今は夕食をご馳走になった後……


「はぁ~、体に染み渡る~」

「気に入ってくれたようだな」

「温泉が嫌いな日本人なんていませんよ」


 エリオットさんと城の大浴場で一緒に風呂に浸かっていた。

 しかも、この風呂のお湯は地下から汲み上げた温泉らしくとても気持ちいい。


「この温泉はやっぱり三代目勇者が?」

「いや、聖女様が望んだそうだ。定住するなら温泉がある場所が良いとな。この土地を選んだ理由の一つだと聞いた」

「へぇ~」

「ちなみに城下町には銭湯があってな。国民は皆、この温泉に気軽に入れるようになっているのだ」


 なんて贅沢な。

 この国の人達は入ろうと思えば毎日この温泉に入れるのか。


「それで、今後のことだがまずは家を探してほしいのだったな?」

「はい、いつまでもこの城でお世話になるわけにはいかないので」

「ずっと城に住んでくれて構わないのだが……」

「あんまり、エリオットさん達に甘え過ぎてもいけませんから」


 それに、俺も祈も心が庶民なので適度な大きさの家のほうが落ち着くのだ。


「ただ、しばらくはこっちの世界のことを色々教えてほしいので城に泊めてほしいんですけど……」

「構わんよ、座学はヘイゼル、戦闘訓練はリアに見てもらうと良い」

「ありがとうございます。それと、お金を稼ぐ方法なんですけど……」

「……せめて、資金の提供くらいは受けてもらえないだろうか」

「受けますよ?」

 

 生活に必要な最低限は。


「商売と同じですよ。うまくいきそうな所には先行投資でお金を渡して、結果を出したらさらに投資をしますよね?」

「つまり、結果を見てから判断しろと?」

「そういうことですね」


 まあ、せっかくの異世界でいきなり金に物を言わせるのもどうかと思ったというのもある。

 とりあえずは祈と二人でコツコツとできることから始めるつもりだ。


「カナタ君の考えはわかった、それで稼ぐ方法だったな。それならば、やはり冒険者になってダンジョンに潜るのが手っ取り早いだろう。倒した魔物の素材を冒険者ギルドに売れば良い」

「なるほど……」


 冒険者に冒険者ギルドか。

 想像通りなら、入ったら厳ついおっさん冒険者に絡まれそうな感じだ。

 後は、受付嬢が美人とか。

 俺が冒険者ギルドあるあるについて考えているとエリオットさんが風呂から立ち上がる。


「さて、私はそろそろ上がらせてもらうが、君はどうする?」

「もう少し浸かっています」

「そうか、着替えは脱衣所に置いてあるからそれを着てくれ」


 そう言い残しエリオットさんが風呂から上がっていった。

 本当に至れり尽くせりといった感じだ。

 それにしても、


「やっぱり少し疲れたな」


 一人になった途端に思わず弱音を吐いてしまう。

 徹夜続きで肉体的に疲れていたが、いきなり異世界に来て精神的にも疲れたのだろうか。

 それとも……

 いや、考えてもしょうがないな。

 すぐに頭を切り替えて、俺は少しでも疲れを癒すべく、湯に体を沈めるのだった。










「……のぼせた」


 あれからしばらく風呂に浸かっていたのだが、少しばかりのぼせてしまった。

 今は城の中庭で夜風に当たって涼んでいるところだ。

 あー、風が気持ちいい。


「にしても、どう見てもファンタジー世界なのに所々に日本文化が取り入れられていると違和感があるな」


 例えば今日の夕食のメニュー。

 白米、味噌汁、焼き魚にたくわんと見慣れた物ばかりだった。

 とりあえず米に困らないというのがわかって嬉しかったな、ラノベとかだと異世界に来た主人公が米探しに苦労するというのはよくあるパターンだから。

 他にも風呂の入り口には日本語で「ゆ」と書かれたのれんが掛かっていたし、今まさに俺が着ている服も日本文化そのものだ。


浴衣(ゆかた)なんだよなー」


 旅館とかで着るようなやつだから着ることが出来たけど。

 これも勇者や聖女が伝えた文化なのだろうか?

 まあ、100年前に召喚されたならわからなくもない……


「ん? ちょっと待てよ?」


 それなら、どうして……


「カナタ? どうしたのこんな所で」


 ふと浮かんだ疑問に頭を悩ませていると後ろから声を掛けられた。

 振り返るとそこにいたのはリアだった。

 異世界に来た衝撃でリアの容姿を気にしている余裕がなかったがこうして改めて見るととんでもない美少女であることに今更ながら気付く。


 宝石のような青い瞳に、しなやかな手足、服は白のネグリジェを身に着けているが、そのせいで豊かな胸がより強調され、視線が誘導されそうになる。昼間は上げていた白銀の髪を今はストレートに下ろしおり、風呂上がりなのか頬が赤らんでいてより色っぽく見えてしまう。


「カナタ?」

「えっ、えっとそういうリアこそどうしたんだ? ヘイゼルさんに連れて行かれたんじゃ……」

「私はついさっきやっと解放されたのよ」

「そ、そうか」


 リアに見惚れて思わず、質問に質問で返してしまった。

 すぐに平常心を取り戻しリアの質問に答える。


「俺はちょっとのぼせたからここで涼んでいたんだ」

「大丈夫なの?」

「ああ、もうだいぶ良くなった」

「そう? まだ顔が少し赤いようだけど」


 ……どうやらまだ取り戻せていなかったようなので平常心、平常心と心の中で唱え続ける。

 俺が心の中の煩悩と戦っているとさっきより周りが明るくなっていることに気付き、空を見上げる。

 どうやら空にかかっていた雲が月を隠していたらしく、明るくなったのはその雲が移動したから……


「月?」


 俺の目に映ったのは、空に浮かぶ()()の満月だった。

 しかも、それぞれが赤、青、緑色に光っており、とても現実味のない光景だ。

 俺がこの光景に目を奪われているとリアが解説してくれた。


「"渡り月"ね、三つの月が全て満月になる現象。そして、1年の中でこの現象が見られるのは7日間だけ、その7日間を"奇跡の7日間"って言うの。今がちょうどその5日目ね」


 奇跡の7日間か、確かにこの光景はそう言われてもおかしくないくらい神秘的だ。

 だけど、


「渡り月ってどういう意味なんだ?」

「それはね、貴方達の住む地球と私達の住むエーデンガルドと繋ぐことが出来るのがこの7日間だけなのよ。それ以外の日には私の空間魔法も勇者召喚の魔法陣も二つの世界を繋げることが出来ないの。だから、「二つの世界を渡れる合図の月」って意味で渡り月」

「えっ、そうなのか?」


 じゃあ、最低でも1年後の渡り月まで俺も政人達も帰れないってことか。

 いや、それどころか空間魔法とスマホを使った地球との通信も出来ないんじゃないか?


「できれば、言っておいてほしかった……」

「ご、ごめんなさい、イノリさんが来てから説明しようと思ってたのだけど」

「ああ、いや大丈夫、まあ、何とかなるだろ」


 実を言うと「電話が使えるならネットも使えるはず、スマホで現代知識チート調べ放題!」っていうのを考えてたんだが、どうやら使えなさそうだ。

 知識面は祈だよりになりそうだな……

 俺が考えていると周囲が少し暗くなる。

 どうやらまた月が雲で隠れたようだ。


「何か考え込んでるけど、続きは部屋に戻ってからの方がいいわ。これ以上は湯冷めするわよ?」

「そうだな」


 火照っていた身体も冷めたので、リアの言う通り部屋に戻ることにする。

 途中でリアと別れ、部屋に戻り、ベッドの中でしばらく考えていたのだが、睡魔に勝てずそのまま俺は眠ってしまい、こうして異世界で過ごす初めての夜は過ぎていった。


書いてて温泉行きたくなりました。

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