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プレゼントは異世界召喚


「失礼します」


 全員にお茶を配り終えたエリシアさんが部屋から静かに退室する。

 

「それでは私の方から説明を……」

「その前に一つ良いですか」


 エリオットさんが話しを始めようとするが、その前に試してみたいことがあった。


「俺は異世界に召喚された。それは間違いないですよね?」

「その通りだ、カナタ君には迷惑を……」

「そういうのは取り合えず置いといてください。俺が聞きたいのは俺のいた世界、地球との連絡手段があるかないかです」


 アイツと連絡が取れれば、うまく話を理解して解決案を出してくれるかもしれない。

 人任せで情けないことこの上ないが……。


「出来ないこともないわ」

「リア?」


 答えたのはエリオットさんではなくリアだった。


「ただし、カナタが"ケータイ"を持っていればだけどね。あなた達の世界の連絡手段なのでしょう? 確か"デンパ"とか言うのがないと使えないのよね」

「なっ」


 携帯電話のことも知っているのか!

 だが、これはむしろ都合が良いと言っていいだろう。


「実を言うとこの世界、というかこの国にあなたを召喚したのは私なの」

「リアが?」

「ええ、勇者召喚に"空間魔法"で干渉して、この世界に召喚される人間を一人、この国に召喚されるように召喚地点を変更したの」


 今の言い方だと、どうやら俺は本来この国に来るはずじゃなかったようだ。

 俺以外にも召喚された人間がいるらしいが、そうなるとやはり政人達もこっちの世界に来ているのだろうか?

 というか、さらっと言ったけどこの世界には魔法があるのか。

 しかも、空間魔法ってマンガやアニメならチート級の能力だよな。

 もしかして、リアはかなりすごい人間なのか?

 考えてるうちにリアがさらに言葉を重ねる。


「私が空間魔法を使って二つの世界を一時的に繋げれば、デンパとか言うのが来てケータイを使えるんじゃないかしら」

「なるほど」


 確かにその方法ならスマホを使えそうではあるが……。


「もしかして、リアの魔法を使えば俺は元の世界に帰れる?」

「ごめんなさい、それは無理なの。繋げると言ってもせいぜい握りこぶし位の小さな穴を空けるので精一杯」


 リアが申し訳なさそうに告げる。

 まあ、元の世界に帰る手段は取り合えず後回しで良いだろう。


「わかった、その魔法はすぐに使えるのか?」

「ええ、ただ、あなたを呼び寄せるのに魔力を使ってるから2時間が限界よ?」

「結構長いな、じゃあ頼む」

「わかったわ。けど、誰に連絡するの? 家族?」

「ああ、頼りになるやつなんだ」


 そう、とリアが申し訳なさそうに呟き、魔法を唱える。


「『世界を繋げ、ワールド・コネクト』」


 リアが詠唱らしきものをすると俺とエリオットさんとのちょうど中間くらいの位置に黒い小さな穴が現れる。

 覗き込むと穴の中には薄っすらとビルのようなものが見えている。

 俺はすぐにスマホの電源を入れ、画面を確認する。

 圏外の表示がされていたが、しばらくすると表示が消え、通話が可能な状態になったので、目当ての人物に電話を掛ける。


 プルルルルッ


 頼む、出てくれよ……。


『兄さん? どうしたの?』

「祈か! 良かった出てくれて」


 今朝話してから数時間しか経っていないはずなのに祈の声をとても懐かしく感じてしまう。


『何かあったの?』

「ああ、実は……」


 俺の声音から何かあったのを察してくれたのだろう。

 祈の雰囲気が真面目なものに変わり、俺に問いかけてきた。

 俺はこれまでの出来事を簡単に説明する。


『んっ、把握した』

「信じてくれるのか?」

『兄さんがそんな嘘つく理由がない。それに……』


 祈の言葉が一瞬途切れる。

 電話の向こうで何かしているようだ。


『話を聞きながら、ネットで少し調べた。まだ、ニュースにこそなってないけどSNSではかなり話題になってる』

「マジか?」

『マジ』


 まだ、こっちに来て30分くらいしか経ってないはずだが……。


『廊下にいた誰かが動画を取ってたみたい。ツイ〇ターに教室が白く光った瞬間の動画が上がってる』

「なるほど」

『この調子だと、明日の朝刊の一面を飾る。「現代に起きた神隠し!」みたいな感じで』

「笑えないな」


 それに気掛かりが一つ、まだ残ってる。


「なあ祈、やっぱり消えたのは俺だけじゃなくて……」

『教室内にいた()()

「だよな……」


 これで確定してしまった。

 間違いなく政人達もこっちの世界に来ている。

 唯一の救いは俺以外のあの場に居た全員が一緒にいるだろうってことか。


「それで、これから色々説明してもらうんだが、知恵を貸してくれないか?」

『当然。むしろ水臭い』

「悪いな」

『真っ先に私に連絡を取った兄さんは利口。戦艦大和に乗ったつもりで任せて』

「大船だろ。そこは」


 まったく、頼もしい限りだよ。

 スマホをスピーカーモードに切り替えて机の上に置く。

 これでこの場の全員に祈の声が届くようになった。


『初めまして、私は神凪祈。日本語は通じる?』

「ああ、ここにいるものは全員日本語を習得している」

『そう、()()()含めて色々聞かせてもらう』


 祈とエリオットさんの会話に思わず息を呑む。

 そうだよな、そもそも何で日本語で会話が出来ていたのかそこを疑問に思うべきだよな。

 エリオットさん達があまりに自然に日本語を使っていたから気付かなかった。


『でも、私がまず最初に聞きたいのは一つだけ』

「何だろうか?」

『私を()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「なっ!?」


 俺は思わず声をあげてしまう。


「おい! 祈!」

『兄さんは黙ってて、どう?』

「……残念だが不可能だろう。我々には召喚用の術式がない」

『兄さんは召喚できたのに?』

「それはかの国が勇者召喚を行ったからだ。それに干渉する形でしか我らはカナタ君をこの国に呼ぶことが出来なかった」

『空間魔法の使い手が私を召喚するのは?』

「それも……」

「いえ、お待ちください王よ」


 祈とエリオットさんの会話に今まで黙っていたヘイゼルさんが割って入る。

 そして、リアにじっと目を向ける。

 何やら考え事をしているようだ。


「ヘイゼル?」

「姫、貴女が召喚出来るものの条件は確か、目に映るもの、魔法陣で指定した範囲にいるものの二つでしたよね?」

「ええ、そうだけど……」

『ピンときた、でも実現可能?』

「少々賭けの部分もありますが試してみる価値はあります」

「「「?」」」


 祈とヘイゼルさんが話を進めているが、俺とリアとエリオットさんは完全に置いてきぼりだ。


「つまりですね、こうやって祈さんと連絡が取れているなら、祈さんに召喚者を指定する魔法陣を教えて、向こうの世界で書いてもらえば良いんですよ」

「「「な、なるほど」」」


 ヘイゼルさんの言葉に納得する俺達。


「しかし、色々と問題があるのではないか? 魔法陣を教えると簡単に言うが、口頭で伝えるには限度があるだろう。まして、魔法陣は少しでも間違えば、正常に機能しない」

『問題ない。そっちで見本を書いたものを写真で撮って兄さんが送ればいい』

「でも、私、異世界から召喚する魔法陣なんて書いたことないわよ?」

「大丈夫です。私が姫の魔法に合わせて新しく魔法陣を作りますから」


 二人の案にエリオットさんとリアがそれぞれ別の視点から異を唱えるが、どうやら問題ないらしい。

 だが、俺は納得するわけにはいかない。


「許可できない」

『兄さん?』

「祈、わかってるのか? 俺はまだこっちの世界のことをよく知らないが、それでも日本より危険だと言うことくらいは分かる」


 平和な世の中なら勇者召喚なんて行わないだろう。

 そんなことは俺でもわかる。


「俺は確かにお前を頼ったけど、それは祈に危険が及ばないからだ。でも、この世界に来るなんて言い出すなら話は別だ。大事な妹を危険な場所に来させるわけにはいかない」

『異世界や魔法なんて聞いたら、オタクの一人として行かない訳にはいかない』

「遊びじゃないんだぞ、これだけは譲れない」

『どうしても?』

「どうしてもだ」


 電話の向こうの祈が暫し、考えるように黙る。


『なら、仕方ないこっちにも考えがある』

「何だ? 俺は絶対に意見を曲げる気は……」

『今回の誕生日プレゼントは異世界での冒険をお願いする』

「ばっ!? お前、それは卑怯だろ!」


 それは、()()()()()駄目だ。

 祈が唐突に我がままを言うのはいつものことで、全部に付き合ってはいられないので、却下する時は却下してきたが、誕生日のお願いだけは絶対に聞くことを心に決めている。


「わかってるのか!? 異世界だぞ! アニメやマンガみたいに上手くいくとは限らない!」

『愚問。私と兄さんが協力して出来ないことがあった?』

「死ぬかもしれないんだぞ!」

『私はいつもやりたいと思ったことには命がけ』


 ああ、クソっ、声を聞けば祈が本気なのがわかってしまう。


『それに、私は何も面白そうだからってだけでそっちの世界に行きたいわけじゃない。本当は兄さんも分かってるはず』

「……」

『私は、兄さんと離れたくないし、一緒にいたい』

「……はぁ~」

 

 溜息を吐く。

 そうだよ、祈の考えは分かってたし、本当は俺だって一緒にいたい。

 けど、危険なところに来てほしくないって思うのは兄として当然だと思う。


『観念した?』

「した。けど、母さんにも許可をもらったらだからな」

『分かってる』


 まあ、母さんは俺達が二人でいるなら何でも許可出すからほとんど意味のない確認だけど。


「話はまとまったかね?」

「ええ、すいません。それともう一人厄介になることになってしまいますが、構いませんか?」

「もちろんだとも」


 事後(じご)承諾(しょうだく)のようになってしまったが、エリオットさんは快く引き受けてくれた。


「それでは、改めて話を聞いてほしい」

「はい」

『んっ』


 俺と祈がほぼ同時に言葉を返す。

 そうしてエリオットさんがゆっくりと話し始めたのだった。


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