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閑話 召喚された20人

安心してください。

作者は忘れていませんでした。


 テスタメント王国王城、その一室。


「今日は星が良く見えるな」


 俺――桐生(きりゅう)政人(まさと)は窓から見える夜空に思わず、そんな事を呟いてしまう。


「こっちの世界に来てもう一ヶ月か……」


 俺達のクラスが異世界召喚なんて非現実的な事に巻き込まれ、この国――テスタメント王国に来てから既に一ヶ月の時間が経過していた。

 最初は混乱したが、俺もオタクの(はし)くれなので周りの連中よりも早く状況を受け入れられた。

 まあ、おかげで混乱してる奴のフォローをさせられたりしたが、概ね平和な一ヶ月だった。

 こっちの世界の事を学んだり、訓練したり、レベルやステータスがあると聞いた時は「ゲームかよ!」って思ったけど。

 でも、その平和も明日で終わるんだよな……


 コンコン


「どうぞ~」


 夜空を見ながら物思いにふけっていると部屋のドアがノックされた。

 返事をすると、ドアが開いて数人の女生徒が入って来る。


「こ、こんばんは」

「夜分に失礼するよ」

「どもです! 政人先輩!」


 入って来たのはクラスメイトの御柱(みはしら)陽葵(ひまり)、生徒会長の西蓮寺(さいれんじ)紫苑(しおん)、後輩の春風(はるかぜ)咲葉(さくは)だった。

 悠と祈ちゃん以外で俺が信用できる数少ない三人であり、異世界に来てからは定期的に俺の部屋で話し合いをする仲でもある。

 ちなみに俺の部屋を使ってる理由は一人部屋(基本は二人部屋だが、男女の人数差の関係で俺は一人部屋になった)だからだ。


「では、始めようか。まずはそれぞれのパーティの報告から頼む」

「じゃあ、俺からですね。俺達のパーティは……」


 現状、召喚された俺達は5人1組でパーティを組んでおり、計4組のパーティに別れている。

 それぞれに名前を付けるとするなら、リア充パーティ、真面目パーティ、陰キャパーティ、不良パーティと言ったところだろう。


「……といった具合ですね」

「うん、なるほど……では次は私達の番かな」

「ですね! うちらのパーティは……」


 俺のいる陰キャパーティの事を話し終えると会長と春風が自分達が所属している真面目パーティについて話し始める。

 その後、御柱がリア充パーティの事を話し終えると次の話題に移った。


「それで明日からの事なのだが……」

「いよいよ、実戦なんだよね……」

「正直、気乗りしないなー」


 そう、御柱の言う通り明日からは魔物を相手に戦わなければいかなくなる。

 一応、訓練によって俺達は魔物と戦っても問題ないと騎士団の人達にお(すみ)()きを貰ってはいるが、それと気持ちは別の問題。

 平和に慣れた日本人に生き物を殺せというのは中々難しいものだ。


「私の勝手な見立てではあるが、君達は精神的に強い方だと思っている。できれば同じパーティにいる他の人間の精神的なケアをお願いしたいのだが……」

「いやー、それはちょっと……」

「難しいんじゃないかな……」


 俺と御柱が言葉を(にご)す。

 当然だ、俺達はカウンセラーじゃないんだから。


「もちろん、可能な限りで構わない。私もカウンセリングができる訳ではないからな」

「……その辺は綿貫(わたぬき)先生がなんとかできないですかねー」


 春風が意見を述べるが、それは難しいと思う。

 綿貫(わたぬき)菜乃花(なのか)――俺達と一緒に巻き込まれた教育実習生。

 現在は会長や春風と同じ真面目パーティに所属している。

 一応、今回召喚された人間の中で一番の年長者だが……


「……難しいな。彼女はあくまで教育実習生であって正式な教師ではない。それでも年長者だからと矢面(やおもて)に立ってくれているのだから」

「これ以上負担をかけるのは私も賛成しかねるかな」

「ですよねー。すいません、忘れてください」


 俺と同じ考えだった会長と御柱が否定的な意見を言うと春風も素直に引き下がる。

 そう、綿貫先生は召喚された俺達の代表という事になっている。

 本来であればそんな事を彼女が引き受ける責任もないのだが、年長者だからと代表を引き受けてくれた。

 会長達がサポートしているとはいえ、召喚された人間の中で一番苦労しているのは彼女だろう。

 ……いや、一番じゃないかもしれない。

 ()()()がどんな状況にいるのか分からないからな……


「それで次の話なのだが……」

「神凪君はまだ見つからないの……?」

「残念だが……」


 丁度、俺が思い浮かべていた人物の名前を御柱が告げる。

 神凪(かんなぎ)(かなた)――俺の腐れ縁であるアイツは確かにあの時教室にいたはずなのにこの国に召喚されていなかった。


「召喚されたのは間違いはずなんだけどな……」

「はい、王国の魔法使いさん達がそう言ってましたもんね」


 俺の言葉に春風が同意する。

 召喚された直後、周りに悠がいなかった事に気付いた俺達はすぐにその場で確認した。

 王国の魔法使い達が勇者召喚の魔法陣を調べた結果、確かに()()()の人間がこの世界に召喚されていた事が分かった。

 しかし、その場にいたのは()()()

 つまり、一人だけこの国に召喚されず、別の場所に召喚されてしまったのだ。


「騎士団が悠君の行方を調べてくれているが、この国にはいない可能性が高いそうだ」

「そんな……!」

「悠先輩……」

「くそっ……!」


 比較的に平和なこの国以外となると、悠が無事な可能性が極端に下がる。

 いや、人が住んでいるところに召喚されているならまだ良い。

 最悪の場合、魔物が住む土地のど真ん中、なんて可能性だってある。


「ああ、せめて祈ちゃんが一緒ならなー!」


 二人が一緒なら何も心配する必要がなくなるのに。

 多分、凶悪な魔物が住むという死の樹海に放り込まれてもあの二人なら生存するだろう。


「祈ちゃん……神凪君の妹さんだよね?」

「……話は聞いたが二人が(そろ)うとそんなに凄いのか?」

「悠先輩が凄いのは知ってますけど……」


 俺が()()()()()()()()()()()この三人は悠の凄さを理解している。

 けど、祈ちゃんの事を知らないので必然的に二人が揃った時の凄さも知らないのだ。


「そりゃあもう! 心配するのが馬鹿らしくなるくらいには」


 と言っても、無い物ねだりなんだよな…………

 自宅にいたはずの祈ちゃんがこっちの世界に召喚されているはずがない。

 だから、そんな"もしも"を考えていても仕方ないのだが、あの二人の凄さを知っている身としては考えずにはいられないのだ。


「とにかく、人のいるところに召喚されている事を祈るしかないな。人が相手ならアイツの話術で(だま)くらかしてでも生き残れるだろ」

「ああ、そうだな。悠君の手練手管(てれんてくだ)でどうにでもなる」

「ですねー。悠先輩詐欺師(さぎし)みたいな時ありますしー」

「……三人とも言い方が酷いよ」


 俺を含めた三人の意見に御柱が苦言(くげん)(てい)するが、あんまり強く言わないあたりを見るに御柱も概ね俺達と同じ意見なのだろう。

 あっ、そういえば……


「悠の奴の事もそうだけど、()()()()も見つかってないのか?」

「ああ、()()の事か……」


 ふと、思い出したので会長に尋ねてみる。

 悠以外にもう一人。

 俺達の前からいなくなった人間がいた。

 そいつは俺達と一緒に召喚されたが召喚されたその日の夜に姿を消した。

 置き手紙が残されていたので(さら)われた可能性は低く、自分で城を抜け出したと見られている。


「彼女に関しても悠君と同じだ。騎士団が探してくれているが、足取りがまったく掴めていない」

「まあ、その人は自分から出て行った訳ですし、そんなに気にする事ないのでは?」

「うーん、そうなんだけど。やっぱり私は心配しちゃうかな……」

「御柱先輩は優しいですねー」


 御柱には悪いが、俺も春風と同意見だった。

 ドライだと言われるかもしれないが、自分で出て行った以上、危険な目にあったとしても自己責任だと思う。


「一応、彼女に関しては連れ戻す方向で探してもらっている。何か事情があっていなくなった可能性もなくはない」

「ないと思いますけどねー。置き手紙に『旅に出ます。探さないでください』って書いてあったらしいですし」

「良いんじゃないか? どうせ、悠を探してもらってるんだ。一人増えても大丈夫だろ」


 見つかるかどうかは微妙だと思うけど。

 何せ、警備の厳重な城から抜け出した上、この一ヶ月間見つけられていないのだから。

 恐らく、逃げ隠れする事に長けたユニークスキルを持っているのではないか、というのがこの4人の共通の認識だ。


「私としては22人全員で無事に元の世界に帰りたいのだが……っと、今日はここまでにしよう。あまり遅くまで起きていると明日に響く」

「そうだね」

「はーい」

「おう、そうだな」


 会長が話を切り上げて立ち上がり、御柱と春風もそれに続く。


「じゃあ、桐生君。おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみでーす」

「おう、おやすみ」

 

 三人が部屋を出ていき、再び一人になる。

 ……誰かに見られていたらハーレム野郎と勘違いされそうな状況だけど、全員悠の事を意識してるんだよな~。

 御柱はもとより、会長と春風はこの一ヶ月間話していてなんとなく分かった。


「本当、罪な男だよ」


 まったく、悠の奴マジで無事でいてくれよ?

 無事じゃなかったら少なくとも祈ちゃん含めた4人の女の子を泣かせる羽目(はめ)になるんだから。


久しぶりの登場です!

正直、久しぶり過ぎて作者も「どんな口調と性格だったっけ?」と思い出しながら書きました。

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