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初依頼と10階層


 俺達が8層に辿り着いた翌日。

 初依頼を受けた俺は依頼書で指定された場所に来ていた。


「ここ……ですか?」

「ええ、そうよ」


 昨日、帰ってきた俺達に早速ユリナさんがいくつかの依頼を勧めてくれた。

 その依頼の中から俺が選んだのは清掃の依頼。

 具体的な依頼内容はギルドが管理している住居の掃除で報酬金は銀貨3枚だ。

 選んだ理由は至極(しごく)単純(たんじゅん)、掃除は俺の得意分野だからだ。

 ちなみに祈は別の依頼を受け、リアもそっちについて行ったので今回二人とは別行動。


「結構大きいですね……」

「元々冒険者やギルド職員の寮として使われてたところだからね~」


 今回の依頼主は冒険者ギルドなので見届け人としてユリナさんも一緒に来ている。

 後は手伝いとしてラピスも連れて来た。


「うわっ! (ほこり)っぽいな……」

「掃除しなくなってから半年経つって聞いたわ」

「なんでそんなに放置してたんですか……?」

「掃除なんて地味な依頼受けてくれる人いなかったのよ」


 中に入るが部屋の中は埃まみれで、床を踏むと足跡が残ってしまう。

 まずは、窓を開けて換気しないとな……


「さあ! さっさと終わらせるわよ」

「あの、本当にユリナさんもやるんですか?」

「当たり前でしょ。ていうか、一緒に掃除して来いって言われてきたからむしろ手伝わないと怒られちゃうわ。仕事よ、仕事」


 たぶん、本来はギルド職員が掃除しなきゃいけなかったんだろうな。

 けど、時間が経ちすぎて掃除するのが大変だから冒険者にやってもらおうって感じか。

 まあ、俺としては人手が増えるのは有り難いし、これ以上は言うまい。


「とりあえず二階から順番に掃除しましょうか」

「了解よ」

「ラピスは床を頼む」

「……(コクッ)」


 それから二人と一体で掃除をすること3時間。


「「終わった~」」


 ハードな時間だった。

 この短時間で終わらせることができたのはひとえにラピスのおかげだろう。

 一言で言うと段差を飛び越え、隙間にも入っていける掃除機(ル〇バ)って感じだった。

 うん、あれは確かに座敷わらしみたいな扱いされるのも納得だ。


「サンキューな、ラピス」

「……(プルプル)」


 撫でると体を揺らす。

 最近はこうやって体を使って表現することが多くなったな~。

 俺達に慣れてきたのか、はたまたレベルが上がって知能が高くなったのか?


「はぁ~、やっぱり早急に管理人になってくれる人探さないとな~」

「今まではいたんですか?」

「半年前まではね。老夫婦が管理してくれてたんだけど、ここに入居者がいなくなったのを気にやめちゃったのよ。もう結構な歳だったしね」


 なるほど、確かに老人二人でここを管理するのは骨が折れるだろう。

 ましてや、入居者がゼロというならなおさらだ。


「とにかく、これで依頼達成ね。はい、銀貨3枚」

「あれ、ギルドに戻ってからじゃなくていいんですか?」

「本当は依頼主から依頼達成のサイン貰って、それをギルドに提出したら報酬金が貰えるんだけど、今回はギルドが依頼主だからね。そういう手続きは省いて大丈夫よ」

「そうですか。では、遠慮なく」


 ユリナさんから銀貨を受け取る。

 なんだかバイトで初給料貰ったような気分だ。

 今までは冒険のついでに稼いでる感じだったから仕事って認識じゃなかったのかもな。


「それじゃあ、また夕方にね!」

「はい、また後程」


 寮の前でユリナさんと別れる。

 俺は一度城に戻ってラピスをメイドさんに預け、集合場所である街の噴水広場に向かう。

 辺りを見渡すが、二人の姿は見えない。

 俺の方が早かったか?


「兄さん、ここ」

「カナタ、こっちよ!」


 後ろを振り返ると祈とリアがこっちに歩いてくるところだった。

 どうやら、ほぼ同じタイミングで広場に着いたみたいだ。

 

「ん、ごめん。待った?」

「今来たところ……ってデートの待ち合わせか!」

「ん、ナイスツッコミ」


 いやいや、今の明らかに振りだっただろ。


「どうだったんだ? そっちの依頼は」

「滞りなく終わったわ」

「ん、バッチリ」


 二人が受けたのは確か商会の倉庫の整理だったな。

 報酬金は同じく銀貨3枚。

 そこそこ重い物もあるからという理由で冒険者に依頼したらしい。


「カナタはどうだったの?」

「こっちも問題なし。ラピスが頑張ってくれたのが大きかったな」

「ん、流石私の使い魔」


 というか、俺とユリナさんの二人だけだったら、午前中で終わってない。


「さて、これからどうする?」

「もちろん、午後からダンジョン」

「だな。さっさと10層まで辿り着いてレベル上げに専念したいし」

「そう簡単にはいかないわよ?」


 今日の目標について祈と話しているとリアが苦笑いしながら遮るように言う。

 そして、一泊置いてリアが告げる。


「何せ8層からは()()()にEランクの魔物が出てくるから」











「ゴアァァァァァァァ」


 野太い咆哮が森中に響き渡る。

 くそっ、手強(てごわ)いな!


 ホブゴブリンLv:10

 

 ゴブリンの上位種であるEランクの魔物だ。

 3メートル近くある巨体でこれまた巨大な棍棒を振り回す姿は圧倒されそうになるが、その巨体のせいで動きが(のろ)く、攻撃を避けるのは容易(たやす)い。

 だが……


「こっちの攻撃も効かないんじゃジリ貧だ!」


 正確には効いていない訳ではなく、斬り付けた箇所から血も流れている。

 しかし、どの傷も()()

 (たる)んだ肉のせいで刃が通りづらいからだ。


「『岩よ、穿て、ロック・シュート』」

「ゴアッ!?」


 祈の『ロック・シュート』で(ひる)んだ!

 俺はすかさずホブゴブリンの後ろに回り込み、両足のアキレス腱を斬り裂く。

 人型である以上これでもう立ち上がれないだろう。

 アキレス腱を斬られてせいでホブゴブリンが膝をつき、頭の位置が下がる。

 ()った!

 無防備な頭に向かって剣を振り下ろす。


「ゴアァァァ……」


 ゆっくりとホブゴブリンが地面に倒れる。

 終わった……か。


「はぁ~」


 大きく息を吐く。

 これが、本当のEランク……確かにリアの言う通り簡単じゃないな。

 チャージラビットと同じランクの魔物とは思えない強さだ。

 息を整えていると祈が少し離れていた祈が近づいて来た。

 

「ん、無事? 怪我は?」

「おう、問題ないぞ。最後の援護、助かったぞ。祈」


 何度か足を狙ってたんだけど、そこまでの隙は見せてくれなかったからな。

 祈の援護のおかげで足を狙うことができた。


「ん、でも本当にあれがEランク?」


 やはり、祈も俺と同じ疑問を持ったらしい。


「魔物のランクは魔石の大きさで決まるのよ。スライムとゴブリンだって同じFランクだけど強さはかなり違ったでしょ?」


 木の上で見守っていたリアが降りてきて言う。

 確かにそうなんだが、実際に戦ってみて改めてそう思ったんだよな。


「ん?」


 森の奥の方で生き物が飛んでいった。

 遠くて名前は表示されなかったけどあれって……


(はち)、か?」

「あれは"パラライズワスプ"ね」


 やっぱり、()()がそうなのか。

 8層から10層までの階層で現れる魔物はそのほとんどがゴブリンかその上位種だが、何体か例外もいる。

 パラライズワスプはその例外の一つでEランクの蜂型の魔物だ。

 毒針を持っており、刺されると数時間体が麻痺して動かなくなってしまう。

 まあ、麻痺したからといってパラライズワスプはその後人間を襲ったりはしないのだが……


「パラライズワスプに刺されて動けないところをゴブリンに襲われる。この辺の階層で最も回避しなくちゃいけない状況よ。二人には私がいるけど、それでも迂闊(うかつ)に近づいたら駄目よ?」

「ああ、分かった」

「ん、(きも)(めい)じる」


 仲間がいる(パーティ)ならともかく一人(ソロ)だったら確実に死ぬ状況だな。

 天然の即死トラップと言ってもいいレベルだ。


「さて、そろそろ先に進もう。せめて10層の転移装置は有効化しときたい」

「ん、賛成」

「分かったわ、こっちよ」

 

 リアの案内でダンジョンのさらに奥に歩みを進めていく。

 そして……


「「着いた~」」


 すっかり日暮れになってしまったが、なんとか今日中に辿り着くことができた。

 10層は地形こそ変化はないが、下の階層への階段がある辺りに見慣れない人工物が建っていた。

 あれは……遺跡?


「リア、もしかしてあれが……?」

「ええ、"階層主(かいそうぬし)"が守護する遺跡よ。10層から下に行くには必ずあそこにいる魔物を倒さなきゃいけないわ」


 "階層主"

 ダンジョンの一部の階層に存在する魔物で要するにボスモンスターだ。

 下の階層に行く為には必ず倒さなければならない障害であり、試練とも言われている。


「あそこにいる魔物を倒すには……」

「まだまだレベルが足りないわね」

「だろうな」

 

 一対一でホブゴブリンも倒せない俺達では太刀打ちできない。

 でも、()()は用意している。


()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()


 俺達はまだ見ぬ階層主に向かって宣戦布告するのだった。


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