緑色のG
「……ここが6層」
「ん、地形は特に変化なし」
確かに、地形は今までの階層と特に変わりがないように見える。
だが、ここからは魔物が襲ってくる。
気を引き締めていかないとな……
「さあ、二人共。行くわよ」
リアが先頭に立って歩き、俺達は後ろからついていく。
歩き始めて数分、リアが突然立ち止まり、近くの草むらに隠れるように無言で指示を出す。
俺と祈は指示通りに身を隠し、息を潜める。
そして、リアの目線の先にいたのは緑色の肌をした小柄な人型の魔物。
ゴブリンLv:6
ゴブリンLv:6
ゴブリンLv:5
「「…………うわ~」」
表示された魔物の名前を見て思わず声を上げてしまうが、幸いなことに気付かれなかったらしい。
それにしても、ゴブリンって……あの18禁モンスター?
出来れば会いたくなかったな~。
いや、だが待てよ?
最近はゴブリンにも良い奴がいると聞くし、もしかしたら……
「兄さん、現実を見て。あの見た目はどう見ても悪い方のゴブリン」
…………だな。
どう見ても、棍棒持って涎垂らしながらゲラゲラ笑ってるあの姿からは優しさや知性は感じられない。
「一応聞くけどこの世界のゴブリンって……」
「名前を出すのも汚らわしい存在、1体見たら100体いると思え、こんなところね」
まさかのほぼゴ〇ブリと同じ扱い。
……よくよく考えたら似たようなものか、繫殖力すごいし、名前似てるし。
「ん、とにかく、さっさとゴブリンをスレイする」
「良いけど、作戦はどうする? 3体いるぞ。アイツら」
今までは一対一か二人で一体を相手するかの戦いしかしてないから敵の方が多いという状況は初めてだ。
何かしら作戦を立てるべきだろう。
「私が不意打ちで1体倒すから後は各個撃破」
「オーケー……って不意打ちの手段は?」
「新技……『岩よ、穿て、ロック・シュート』」
祈が左手を前に出すとバレーボールサイズの岩が生成され、一番奥にいたゴブリンに向かって飛んでいく。
「グギャ!?」
祈の『ロック・シュート』が顔面に直撃し、倒れ込むゴブリン。
仲間がやられたことに気付いた残り2体のゴブリンがこちらを見る。
「「グギャギャ!」」
「兄さん!」
「おう!」
草むらから飛び出し、向かって来た1体の攻撃を剣で受け止める。
よし! パワーもスピードも大したことない!
「この!」
「グギャ!?」
棍棒を剣で押し返すと、ゴブリンが体勢を崩し、地面に転がる。
転がったゴブリンに上段から剣を振り下ろす!
ドスッ!
振り下ろした剣は正確に腹を斬り裂き、ゴブリンが光となって消える。
なんとかなったな……
「んっ!」
「グギャャャ!?」
どうやら、祈の方も倒せたみたいだ。
俺は祈の方に駆け寄る。
「ん、兄さんおつかれ」
「おつかれは良いけど、いつの間に新しい魔法を覚えたんだ?」
「つい昨日。土魔法がレベル2になった」
「……まさかと思うけどぶっつけ本番で使った訳じゃないよな?」
「大丈夫。それなりに威力はあると確信していた」
ぶっつけ本番は否定しないのかよ。
まあ、待望の攻撃系魔法が使えるようになったのは喜ばしいことだが。
「二人共! また来るわよ!」
「「!?」」
リアの掛け声に再び武器を構えると、ドタドタとこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
さっきの戦闘音を聞きつけたのか!
草むらから2体のゴブリンが飛び出し、攻撃を仕掛けてくる。
「「グギャギャギャ!」」
「兄さん」
「ああ、行くぞ!」
そこからはほとんど戦闘の連続だった。
倒しても次から次へと集まって来てしまうので息を吐く暇もない。
倒した数が20体を超えたあたりでようやくゴブリンが集まって来なくなった。
「「ふぅ~」」
最後の1体を倒した俺と祈は背中合わせでその場に座り込んでしまう。
30分くらい戦ってたか?
「おつかれさま」
「リ、リア……今までどこに?」
「木の上よ。二人の邪魔にならないように見守ってたの」
途中からどこかに消えたと思ったら木の上にいたのか……
「にしても、アイツら仲間を呼ぶ習性でもあるのか? 集まって来過ぎだろ……」
「確かに最初に集まってきた5体くらいは仲間の声を聞いて集まって来たんだろうけど、それ以降は違うわね」
「じゃあなんで……?」
「ん、匂い……」
「匂い? 血の匂いか?」
ダンジョンの魔物は倒すと消えるが斬ったら血が噴き出す。
その血もいずれは消えてしまうが、消えるまでは匂いを発しているはずだ。
ゴブリンはサメみたいに血の匂いに敏感なのかと思ってそう尋ねたのだが……
「違うわ。女の匂いよ」
「は?」
「ん、正確には女の汗の匂い。ゴブリンはそれに群がって来る。でも、まさかここまでとは思わなかった」
「理由は……まあ、ゴブリンはオスしかいないってことで察して?」
祈とリアがそれぞれの言葉を補足する。
というか、女の汗?
なら、アイツらは祈に群がってきてたのか?
「もっと痛めつけてやるべきだった……」
「えっ! カ、カナタ?」
「兄さん、ハウス」
おっと、ちょっと殺意が漏れ出てしまった。
後、犬扱いは流石に酷いと思う。
つーか、祈に向かう数がやけに多いと思ったらやっぱりエロ目的じゃねーか!
まあ、おかげでこれからはゴブリンに対しては罪悪感とか抱かなくて良さそうだけど。
「レベリング的には丁度良いけど、毎回これはキツイな……対処法は?」
「簡単よ。汗を掻かなければいいの」
「簡単か? それ……」
戦ってたらどうしたって汗を掻く。
強さに余裕があれば別だろうけど、まだ俺達じゃ数の多いゴブリンを瞬殺できるほどの実力はない。
「ん、なら私が後衛に回る」
「ええ、それが良いと思うわ」
……なるほど、その手があったか。
俺が前衛で魔物を引きつけ、祈が後衛から援護する。
これなら、祈はあまり動かないから汗を掻かない。
しかも、おあつらえ向きに祈には『ロック・シュート』の魔法がある。
昨日までは出来なかった戦術だ。
「よし、それで行こう」
「ん、了解」
「二人が休んでる間に魔石を回収しとくわね?」
「サンキュー、リア」
俺達は祈の汗が引くまでしばらくの間休憩するのだった。
《恵みの箱庭》8層の転移装置前。
俺と祈を前衛と後衛で分けたことでゴブリンは群がって来なくなり、順調に進むことができた。
とはいえ、それでもかなりの数のゴブリンと遭遇したので2層しか降りることができなかったが。
「ん、転移装置の有効化が終わった」
「今日はここまでだな」
「そうね、帰りましょうか」
既に辺りは暗くなってきている。
ダンジョン内の時間と外の時間はリンクしてるから外も既に日暮れだろう。
転移装置を使って三人で街に戻る。
「明日はいよいよ8層の攻略か……」
「ええ、8層からはゴブリン以外の魔物が出てくるから……」
「「ゴブリン……はぁ」」
街を歩きながら祈と揃ってため息をつく。
また明日もゴブリンか……
戦い慣れしたのは良いんだが、アイツら倒しても経験値が80しかもらえないんだよな。
魔石は当然最低ランクのFランク。
極めつけが……
「ドロップ品がないのがなー」
「ん、稼ぎにならない」
「ゴブリンばっかり相手にして、お金が稼げなくなるのは冒険者ならみんなが通る道なのよねー」
今まではドロップ品があったからラピスに魔石をあげてもそこそこ稼げてたんだけど。
これは、しばらく稼ぎは期待できないか?
ドンテ商会からの支払いもしばらく先だってのに……
「まあ、安心して。ユリナに言っていくつか依頼を見繕ってもらってるから」
「えっ、マジで?」
「ん、リア、ナイス」
「どういたしまして」
依頼、つまりはゲームで言うクエスト。
今まではダンジョンでのレベル上げしかしてこなかったからまだ一度も受けてたことがない。
一応、Fランクの冒険者でも受けれる依頼はあるって聞いてはいたけど……
「半日依頼を受けて、半日ダンジョンに潜るってすれば今まで通り稼げると思うわ」
「それなら確かに大丈夫そうだ」
それに明日から潜る8層にはあれがあるって話だし、すぐにレベルを上げてゴブリン地帯を抜けることも可能だろう。
成功するかどうかは賭けだけど……
「問題はどんな依頼なのかだな」
「ん、採取とかなら簡単」
「それはユリナに聞いてからのお楽しみね」
さて、ユリナさんはどんな依頼を用意してるんだろう?
俺は街の賑わいを見ながら、そんなことを思うのだった。