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チュートリアルの終わり


「それでは、今日をもって私からの授業は終了です。二人共よく頑張りました」

「ありがとうございました」

「ん、ありがとう」

「いえいえ、カナタ君もイノリ君も優秀なので私も教えがいがありましたよ」


 俺と祈が揃ってお礼を言うと、にこやかにそんなことを言うヘイゼルさん。

 霊魂記憶(ソウル・メモリー)がある祈は置いとくとして、俺がこんなにすらすら覚えられたのはヘイゼルさんの教え方が良かったおかげだと思う。

 地球(あっち)での授業は復習しないと覚えられなかったが、ヘイゼルさんの授業は聞いているだけで頭に入ってきたからな。

 それにしても……


「基礎や常識は(おおむ)ね学べたと思って良いんでしょうか?」

「ええ、そうですね。スキル、魔法、魔術、ダンジョン、その他もろもろ。私が教えた最低限の知識があれば少なくともこちらの世界での日常生活に支障は出ないでしょう」


 ゲーム風に言うならようやく世界観の説明とチュートリアルが終わったってところか。

 ここまで来るのに約20日。

 長かったような短かったような。


「授業はここで終わりますが何か分からないことができたらすぐに聞きに来てください。私の専門は魔術や政治ですが、何分長生きなので大抵のことには答えられます」


 これは、ヘイゼルさんに足を向けて寝られないな……

 恩に報いれるようにこの国の為にできることをしよう。

 俺はそんな想いを胸に抱くのだった。











「はい、銀貨5枚と銅貨2枚ね」


 ユリナさんから硬貨を受け取る。

 いやー、何とかバイト代くらいは稼げるようになってきたな。


「おーい! お二人さん! 換金終わったんならこっちに来いよ!」

「一緒に飲もうぜ!」

「だから俺達は飲まないって言ってるだろ」


 既に酔った様子の冒険者達が手招きしている。

 最近は俺達の存在に慣れたのか、ほとんどの冒険者はこうして気さくに話しかけてくれるようになっていた。


「ん、でもこの国なら合法」

「俺はな。祈は駄目だ」

「むぅ~」


 むくれるなよ。酒が飲めないからって。

 この世界の飲酒は基本的に本人の自己責任ということになっているがこの国ではしっかりと法律で飲める年齢が16歳以上と定められている。

 15歳(先日誕生日を迎えたので)の祈は当然アウトだ。

 んでもって俺は酒にあまりいい思い出がないので控えるようにしている。


「今日は酒場の方で食べていくか」

「ん、そうする」

「リアはどうする?」

「私も酒場で食べるわ。ただ、ユリナと話があるから先に行っててちょうだい」

「分かった」


 あの感じならすぐにこっちに合流するだろ。

 先に祈を連れてギルドの酒場の方に向かう。


「なあなあ、今日もあれやろうぜ」

「ん、トランプのこと?」

「そう! それだ!」


 店員に三人分の料理を注文してから祈と一緒に俺達を呼んでいた冒険者と同じテーブルにつく。

 今回は中年冒険者の二人組だ。

 ちなみにほとんどの冒険者は堅苦しいのが苦手らしく俺も祈もタメ口だ。


「負けっぱなしじゃ、男が(すた)るからな」

「今日こそは勝ってみせるぜ!」

「ん、上等。相手をする」

「賭けるのはいつも通り。こっちが負けたらダンジョンの情報、そっちが負けたら俺達二人に一杯奢る。それでいいか?」


 何か賭けた方が盛り上がるからという理由で大体いつも賭け勝負だ。


「ん、問題ない。始める」


 祈がポケットからトランプを取り出しシャッフルしてから配り始める。

 俺は不参加なので祈の横で見物だ。

 

「ん、じゃあ引いて」

「おうよ。どれにすっかな」


 まあ、なんてことはないババ抜きなんだけどな。

 二人は表情から手札を読もうとしてるが、常にポーカーフェイスの祈から何かを読み取れるわけもなく……


「だー! また負けた!」

「祈ちゃん強過ぎだ」


 決着はすぐについてしまった。

 うん、瞬殺だな。


「二人共顔に出過ぎだな。もっとポーカーフェイスを心掛けないと」

「「ぽーかーふぇいす?」」

「ポーカーフェイスって言うのは……」


 簡単にポーカーフェイスについて二人に説明する。


「とまあ、そういう由来から無表情をポーカーフェイスって言うんだ」

「へぇー、ポーカーなんて遊びもできるんだな。このトランプは」

「ババ抜きだけかと思ってたぜ。なあ、教えてくれよ」

「ん、そっち?」

「おうよ! なにせ娯楽の少ない国だからな」

「新しい遊びがあったらやってみたくなるんだ」


 聞いたところによるとこの国には娯楽と呼べるものはほぼないに等しい。

 ボール遊びとか缶蹴り(缶はないので石蹴り)のような遊びはあるので子供は退屈しないが、大人が楽しめるようなのはサイコロを使ったゲームくらいしかないようだ。

 トランプも知らなかったしな。


「教えるのは良いけど……」

「ん、情報」

「おっと、そうだった。ダンジョンの8層にはとあるモンスターの巣穴があってだな……」


 こうやって勝負に勝つたびに色々教えてもらってるが意外とこれが馬鹿にできない情報源になっている。

 ギルドの資料に載ってない狩場や採取のポイントなんかを知ってるからな。


「おう、今日もやってるな! 俺達も混ぜろよ」

「まてまて! 今から俺達はポーカー教えてもらうんだからよ」

「ぽーかー? なんだそりゃ、面白そうだ俺達にも教えてくれ」

「おいおい、俺達にも頼むぜ!」


 どうやら、仕事を終えた他の冒険者達も続々とダンジョンから帰ってきたようだ。

 俺と祈の周りにちょっとした人だかりができる。


「分かった分かった! やりながら教えるからテーブルの周りに集まってくれ!」


 俺も自分のトランプを取り出してテーブルの上に広げる。

 やれやれ、()()以上の人気だな。

 ポーカーのルールを説明しながらそんなことを考えるのだった。











「いつの間にか人気者ねー。あの二人」

「ええ、そうね」


 目の前のユリナに私――リーゼリア・K・フェルミナスは答えを返す。

 私達の視線の先には紙の札(トランプと言うらしい)を使ったゲームを冒険者達に教えている兄妹の姿が。


「けどさ、私もあのババ抜きのルールは教えてもらったんだけど。勝ち目なくない?」

「……ユリナもそう思う?」


 片や相手の表情を読む(カナタ)、片や絶対的な記憶力を持つ(イノリ)

 正直、勝てる気がしない。

 しかも……


「二人共、キチンと役割分担してるのよね……」

「役割分担? なんの?」

()()勝負するかをよ」


 ここのところ毎日トランプで勝負してるのを見て気付いたこと。

 それは、イノリは全ての相手に()()し、カナタは全ての相手に()()()()()()()()()ということ。


「イノリの方は単純ね。絶対に勝つことで負けず嫌いな人が自分に挑むように仕向けてる」

「カナタ君の方は?」

「カナタは全ての相手に必ず一度負けることで相手に「勝てる奴だ」って思わせてる。要は自分と相手の実力を同レベルだと勘違いさせてる」

「……そして、そうすることで勝負に勝ちたいって人はカナタ君と勝負する?」

「そういうこと」


 それぞれが別々の性格の人の相手と勝負することで色々な人から情報を集めてる。

 だから、私は「情報の為に勝負をしてるの?」と尋ねた。

 そうしたらカナタは、


「『遊びの()()()に情報が集められるんだ。一石二鳥だろ?』だって」

「カナタ君らしい……のかな」

「そうね……」


 ユリナの言葉に私も同意する。

 きっと、あの二人にとっては()()が普通なのだろう。

 そして、そんな私達と違う二人だからこそ、行き詰ったこの国を救ってくれるかもしれない。

 そう思ってしまうのは期待のし過ぎなのかしらね?


「それで、どう? 二人の調子のほうは」


 気を取り直したようにユリナが聞いてくる。


「二人共飲み込みが早いわ。センスもあるし度胸もある。レベルも今日の狩りで4になったもの」

「本当に? それは確かに才能あるわね」


 異世界人はレベルの上がりが早いと聞いていたけどまさかここまでとは思ってもみなかった。

 最低でもレベルが4になるには一ヶ月はかかると予想していたのに。


「何かレベルを早く上げるコツとかあるの?」

()()()()()()()()()()。常識でしょ?」

「そりゃそうだけど、異世界人ならそういう裏技知ってそうだったから」


 魔物を倒すコツはともかくレベルを早く上げるコツなんてものは存在しない。

 チャージラビットの時とは訳が違う。


「とにかく、二人にはそろそろ本格的に戦ってもらおうと思ってるの」

「5層から下に行くってことね」

「ええ」


 1層から5層の魔物はこちらが仕掛けない限り襲ってくることはなかったが6層からはむしろ積極的に襲ってくる。

 危険度も格段に跳ね上がるが、あの二人のレベルと技術、そして発想力があれば問題ないと思う。

 今まで通り、万が一の時は私がいるし。


「そういうわけだから、依頼をいくつか見繕っておいてもらえない?」

「あー、なるほどね。分かったわ」


 察してくれたみたいね。


「おーい! リア! 早く来ないと料理が冷めるぞ!」


 カナタの声が耳に届く。

 どうやら、料理が運ばれてきたらしい。

 さて、私も食事にするとしましょう。

 ちなみに、イノリにトランプで勝てた冒険者はいなかったそうよ。


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