レベルアップ
「祈! そっちに行ったぞ!」
「ん、任された」
ダンジョンに初めて潜った日から三日。
俺は猪の魔物を追いかけていた。
マッシュルームボアLv:5
普通の猪より一回り大きく、体からキノコを生やしているのが特徴の魔物だ。
5層の魔物の中では一番強い魔物だが、二人でなら倒せると判断して戦うことにした。
「ぐぅぅぅ!」
先回りしていた祈に突っ込んでいくマッシュルームボア。
このままでは牙に貫かれてしまうだろう。
だが、
「ぐぅ!?」
「ん、掛かった」
祈にその鋭い牙が届くことはなく、マッシュルームボアが俺の視界から消える。
どうやら、祈が錬成で作った落とし穴にうまく落ちてくれたようだ。
「んっ!」
祈が体勢を崩したマッシュルームボアの頭にハルバードを真っ直ぐ振り下ろし、そして……
神凪祈が<マッシュルームボア>を倒した!
神凪祈が経験値を100獲得した!
神凪悠が経験値を30獲得した!
よし、倒すことができたみたいだ。
脳内に流れる経験値獲得のログを聞きながら怪我なく倒せたことに安堵する。
レベルアップ!
神凪祈のレベルが2になった!
レベルアップ!
神凪悠のレベルが2になった!
おっ、遂にレベルアップすることもできたな。
これで、ようやく初期ステータスから卒業だ。
「祈、おつかれ。作戦成功だな」
「ん、兄さんが上手く追い立ててくれたおかげ」
言いながら祈が左手を上げたので俺も左手でその手を叩く。
パンっ!
ハイタッチの音が静かな森に響き渡る。
「にしても、まさか同時にレベルが上がるとはな」
「ん、兄さんも攻撃当ててた?」
「すれ違いざまに一撃な」
俺にも経験値が入ったのはそのせいだろう。
この世界は複数人で魔物を倒すと経験値が分散されてしまう。
試しに、リアに魔物を瀕死状態にしてもらって止めだけ俺が刺してみたが、経験値のほとんどはリアに入ってしまった。
このことから、パワーレベリングで楽にレベル上げはできないというのが分かった。
「カナタ! イノリ! 仕留めたの!?」
「おう、リア。何とかな」
「ん、怪我もしてない」
俺達の邪魔にならないところで戦闘を見守っていたリアが駆け寄って来た。
倒した証拠に魔石とドロップしたキノコを見せる。
「本当に倒したのね……本来、マッシュルームボアは戦う冒険者のレベルが2,3ぐらいで相手する魔物なんだけど」
「二人がかり何だからこんなもんだろ」
「ん、そんなに早くなかった」
祈の言う通りだな。
俺の走る速さとマッシュルームボアの走る速さに大して違いがなかったし。
きっと、普通の猪より大きい分スピードは遅かったのだろう。
「あっ、そうそう。俺も祈もレベルが上がったぞ」
「本当? ならパラメータが上がってるはずよ。確認してみたら?」
「そうだな」
「ん」
俺と祈は「ステータス」と唱える。
さて、どれくらい上がったかな。
神凪悠
Lv:2 種族 人族
MP 1100
STR 550
VIT 500
AGI 600
DEX 200
ユニークスキル
エクストラスキル
ノーマルスキル
剣術Lv:4 生活魔法Lv:1 魔力操作Lv:5 料理Lv:5
称号
神の加護 Fランク冒険者
神凪祈
Lv:2 種族 人族
MP 3200
STR 400
VIT 400
AGI 500
DEX 300
ユニークスキル
遊戯者の憧れ 霊魂記憶 並列思念
エクストラスキル
錬成Lv:1 テイムLv:1
ノーマルスキル
槍術Lv:2 斧術Lv:2 銃術Lv:8 土魔法Lv:1 魔力操作Lv:1 調合Lv:4
称号
神の加護 Fランク冒険者
おっ、確かにパラメータが俺も祈も上がってるな。
後は……
「剣術が上がってるな」
「ん、槍術と斧術が上がった」
前回は上げるのに一週間かかったのにもう上がったのか?
「それは実戦を経験したからね。武器も魔法も実戦で使うとスキルレベルの上がりが良いの」
「なるほど」
「ん、称号に"Fランク冒険者"が追加されてる」
「文字通りね。冒険者のランクが上がったらその称号も変わっていくわ」
当たり前だが、俺達は冒険者になったばかりなので最低ランクのFランクだ。
ていうか、冒険者のランクってちゃんとステータスに反映されるんだな。
「それにしても……錬成ってこういう事にも使えるのね」
祈が錬成で作った落とし穴を見ながらリアが呟く。
「普通は違うのか?」
「ドワーフが持ってるスキルなのよ? 生産系のスキルとして使われてるわ」
この世界のドワーフもやっぱり物作りが得意な種族ってことか?
まあ、ともかく祈の使い方は普通とは違うのだろう。
「ん、でもまだ錬成のスピードが遅すぎて予め罠を作るくらいにしか使えない」
「充分過ぎるけどね……」
俺もリアと同意見だ。
これで錬成の幅が広がったらどうなってしまうのか、正直、想像したくない。
「さて、そろそろ次に行くか」
「ん、了解」
「分かったわ」
まだまだレベルが1つ上がっただけだ。
もっと、強くなれるように魔物を倒さないと。
「ん、私達のレベルアップに成功したから今度はラピスの番」
「いや、それを本人に言ってもしょうがないだろ」
人じゃないけど。
ラピスも困ったようにプルンと揺れる。
レベルアップした日の夜。
いきなり祈がラピスを抱えて部屋にやってきていた。
ていうか、なんでまた俺の部屋なんだよ?
「にしても、ラピスのレベルアップか……」
可能か不可能かでいったら可能なのだろう。
魔物にもレベルの概念があるのは確認済みだ。
けど、スライムにそれができるかと言うと……
「……無理なんじゃないか?」
「ん、どうして?」
「もし仮に魔物のレベルを上げる方法が俺達と同じならラピス自身が魔物を倒さないといけない。でも、スライムの戦闘能力はほぼゼロだ」
「そう、スライムの戦闘能力はほぼゼロ。じゃあ何でラピスのレベルは3なの?」
「ん……」
そういえば、そうだ。
ってことはラピスに実は戦闘能力があるか、もしくは……
「魔物を倒す以外にレベルを上げる方法がある?」
「ん、流石。私も同じことを考えた。そこでこれ」
コトンとテーブルの上に何かを置く祈。
「魔石か」
「ん、これを食べさせてみようと思う」
なるほどな。
使い魔に何か魔法の石的な物を与えればレベルが上がるというのはゲームでは定番だ。
今日手に入れた分の魔石を少し取っておいたのだろう。
「ん、というわけでお食べ」
掌に魔石を一つ乗せ、ラピスに差し出す。
すると、祈の手がラピスの体に飲み込まれた。
「……」
「……それ大丈夫か?」
手も一緒に食われたりしてないよな?
しばらく待っていると、ラピスが祈の手から離れた。
手は無事のようだが、魔石はなくなっていた。
「食べたな」
「ん、食べた」
「レベル上がったか?」
「ちょっと待って」
祈がラピスのレベルを確認する。
「上がってない……」
「予想が外れたか?」
「ん、数が少ないだけかも。たくさん上げてみる」
今度は何個かの魔石をラピスに食べさせてみる。
さあ、どうだ?
「ん、食べ終わった」
「よし、確認しよう」
「ん、分かった」
今度は俺も一緒にラピスのレベルを確認する。
スライム(ラピス)Lv:4
「「上がった!」」
まさか、本当に上がるとは。
「ん、とりあえず残ってる魔石は全部上げてみる」
ジャラジャラと残ってる魔石をテーブルの上に広げる。
そして、テーブルの上に飛び乗ったラピスが一個一個魔石を平らげていく。
最終的にラピスのレベルは6まで上がった。
「……」
結構な量の魔石を食べたはずだが、ラピスは相変わらずな様子だ。
ん、そういえば……
「何でラピスのレベルを上げようと思ったんだ?」
「ん、レベルを上げれば進化するかと思って」
「進化……まあするかもしれないな」
「進化したら擬人化して魔王クラスに強くならないかなーと」
「ん?」
「つまり、チートスライムがいないなら、チートスライムを作れば良いと考えた」
「……」
ヤバい、マッドサイエンティストみたいなこと言い始めた。
つーかそれ絶対あれだろ、転生した某スライムのことだろ。
「というわけで、ラピス。ガンバ♪」
ラピスに意志疎通の手段がない以上これは俺の勝手な想像でしかないのだが、祈に撫でられてぷるぷる震えているラピスの姿はどう見ても怯えているようにしか見えなかった。
すまん、ラピス。
恨むならこんな主人を選んでしまった自分の見る目のなさを恨んでくれ。
助けを乞うスライム1体救えないという現状に己の不甲斐なさを痛感した瞬間なのであった。
タイピングの遅さが執筆に影響を及ぼすとは……
作者はもう一度寿〇打をやるべきかもしれない……