表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

初戦闘


「ここが5階層か」

「ええ、今日はここで実際に魔物と戦ってもらうわ」


 ラピスを仲間にした俺達は順調にダンジョンを進み、目的地である5階層までやってきていた。


「2~4階層は地形こそ違ったもののほとんど1階層と同じだったので内容はダイジェストでサブチャンネルにアップ予定」

「いや、そんな予定ないから」


 急に思い出したかのように自分が動画配信者なのをアピールするな。

 というか《オーロラ》のサブチャンネルってほとんどお前のおすすめラノベかスイーツのレビュー動画ばっかりでそういう裏作業の風景みたいな動画上げたことないだろ。

 そもそも、動画撮ってないし。


「ああ、ツッコミどころが多すぎてどこからツッコめばいいのか迷う!」

「ん、どこからツッコんでも良いよ」


 何でちょっと卑猥な感じに言うんだよ。


「あとさ、ラピスを頭に乗せるのやめないか?」

「ハルバードを持ってるから抱えられない。だから仕方ない」


 嘘つけ。乗せてみたかっただけだろ。

 頭にスライムが乗ってる姿はさながらアンゴラうさぎを頭に乗せた喫茶店の看板娘のようだ。

 けど、乗ってるのがスライムだから絵面的に食われてるようにも見える。


「ふ・た・り・と・も? もうちょっと落ち着いてもらえるかしら?」

「「は、はい。すいませんでした」」


 祈といつもみたいに話しているとリアに注意された。

 ヤバい。今のは洒落(しゃれ)にならない感じの殺気だったぞ。

 

「まあ、気持ちは分からないでもないけどね。これからするのは生き物を()()ということだもの。気を紛らわしたくなるのも仕方ないと思う」

「「…………」」

「私も初めて魔物と戦う前は緊張したし、はっきり言うと怖かった。けどね……」


 リアが何やら自分の経験談を話し始めてしまうが、この瞬間の俺と祈の気持ちは完全に一致していた。


((……どうしよう、素で喋ってただけって今更言えない))


 ぶっちゃけ、俺も祈も全然緊張はしていなかった。

 人を殺せって言われたら緊張したり怖くなったりもしたかもしれないが、相手は魔物、つまり動物と同じだ。

 命を軽く見ているわけではない。

 ただ、俺は生きた魚を釣って(さば)いた事があるし、祈は銃を撃つ時に散々命の尊さについて説かれている。

 故に、ダンジョンに来る前から覚悟はできていた。

 だから、緊張とかはしていなかったのだが……

 

「いくらレベルの低い魔物とはいえ下手すると大怪我をしてしまう。だから、ここからは集中して慎重に行動してほしいの。分かった?」

「ああ、分かった」

「ん、気を付ける」


 ……言わぬが花ってやつだな。

 俺も祈も余計なことは言わずに素直に返事をするのだった。











 あれから数分後。

 俺達は魔物を見つけ、草むらから様子を伺っていた。

 全員の視線の先にいるのは(つの)()えたうさぎの魔物。


 チャージラビットLv:4

 

 チャージ……突進うさぎ(チャージラビット)ってことか?


「チャージラビットね。すばしっこい魔物だから攻撃が当てづらい。初戦闘の相手としてはちょっと適さないかしら?」

「ん、問題ない。あれにする。私が先で良いよね。兄さん?」

「ああ」

「じゃ、ラピスお願い」


 祈がラピスを俺に預けてから草むらを出て、チャージラビットに自分の姿を(さら)す。

 そして、そのままハルバードを勢い良く振り下ろした。


「ん!」

「キュ!?」


 ハルバードをギリギリのところで回避するチャージラビット。

 祈もすぐに追撃の一太刀を放つがこれも避けられてしまい、チャージラビットが大きく距離を取る。


「突進してくるわ! 避けて!」


 リアの叫びを聞いた祈も相手と距離を取り、チラッと自分の()()を確認する。

 祈の奴、もしかして……


「キュュュュュュュ!」


 祈に向かってチャージラビットが突っ込んできた。

 そして……


 ドスッ!


 何かが突き刺さる音が周囲に響き渡る。


「キュ!? キュユュュュ……」

「ん、大成功」


 そう、チャージラビットの角が()に突き刺さった音だ。

 チャージラビットは祈がギリギリで避けたせいで突進の勢いを殺しきれずに後ろにあった木に角が刺さってそのまま動けなくなってしまったのだ。


「キュ! キュ!」


 ジタバタと体を動かしているがよほど深く刺さってしまったのか、角はまったく抜ける気配がない。

 ……あれが体に刺さったらと思うとゾッとするな。


「ん、貴方の命は無駄にしない」


 祈が動けなくなったチャージラビットに向けてハルバードを振り下ろす。

 体を両断され、死に絶えたチャージラビットは淡い光になって消えてしまう。


 神凪祈が<チャージラビット>を倒した!

 神凪祈は経験値を80獲得した!


 ……経験値獲得のログも流れるんだな。


「ん、ビクトリー」

「あんな方法でチャージラビットの動きを止めるなんて……駆け出しの冒険者のほとんどは攻撃を当てられなくて逃げられてしまうのに」

「せっかく、あんな見え見えの攻撃をしてくるんだから利用するのは当然。兄さんも私が何をするのか分かってたでしょ?」

「そうなの?」

「まあな」


 俺が気付いたのは突進前に祈が距離を取った時だ。

 祈の奴、自分の真後ろに木がくるように位置を調整したからな。


「それより、これが"魔石"?」

「ええ、そうよ」


 祈が掌に小さな紫色の結晶を見せてくる。


 "魔石"

 魔物を倒すことで得られる魔力の結晶体だ。

 主に魔道具の動力源として使われているそれは俺達の世界の電池みたいな物になる。

 強い魔物を倒すことで得られる魔石は純度が高くとても貴重らしい。


 そして、今回手に入れたチャージラビットの魔石は……

 

「Eランクの魔石。初めてでこれは有望過ぎてある意味将来が怖いわ……」

「……チャージラビットは逃げ足が速いだけだから強さは大したことないって資料にはあったけど?」

「それでもEランクの魔物よ。教えてる側としても鼻が高いわ」


 魔石はランク分けされていて、SSSランクからFランクまでが存在している。

 加えて、魔石のランクとその魔石を持つ魔物の脅威度はイコールなのでチャージラビットはEランクの魔物だったってことだ。

 ちなみに、スライムはFランクの魔物だそうだ。


「よし! なら次は俺の番だ。次の魔物を探しに行くぞ。リア、案内頼む」

「分かったわ。こっちよ」


 リアが先頭を歩き、少し離れて俺と祈が並んで後に続く。

 ……ったく、こんな時くらい素直に弱音吐いたって良いだろうに。

 リアは顔を見て大丈夫かどうか判断したみたいだが、こういう時の祈は顔じゃなくて手を見るんだよ。


「……大丈夫か?」

「……あんまり良いものじゃない」

「当たり前だろ……嫌になったか?」

「ううん、でも慣れる気はしない。しばらくは」


 日本人なら普通の感覚だよそれは。

 いきなり、異世界でヒャッハーして魔物を殺せる日本人は物語のキャラだけだろ。

 右手でラピスを抱えながら、空いてる方の左手で祈の右手を掴む。

 その小さな手は僅かに震えていた。


「ん、ありがとう、兄さん。しばらくこのままでお願い」

「はいよ、っと、ラピス?」


 そのまま手を繋いでいると、ラピスが俺の腕の中から飛び出して祈の頭の上に飛び乗り、体をもぞもぞと動かす。

 その仕草はまるで……


「頭を撫でてる?」

「ん、慰めてくれてる? ラピスもありがとう」


 頭の上でラピスが再びもぞもぞ動く。

 あっ、今のは絶対「良いってことよ!」みたいなニュアンスだったな。

 祈も何となく分かったのだろう。

 おかしそうに微笑んでいる。

 ……これなら、大丈夫そうだな。

 しばらく手を繋いでいたが、祈の手の震えはいつの間にか止まっていた。











「ふっ!」

「キュュュュ……」


 神凪悠が<チャージラビット>を倒した!

 神凪悠は経験値を80獲得した!


 木に突き刺さったチャージラビットが短い断末魔と共に光になって消える。

 ……祈の言う通り、この生き物を斬る感覚は慣れるのに時間がかかりそうだ。


「お見事。カナタ」

「ん、兄さん、お疲れ」

「何とかなって良かったよ。結構タイミングが難しいんだな。祈のやり方」

 

 祈のやった方法でチャージラビットの動きを止めようとしたのだが、一回目は避けるのが速すぎてチャージラビットが上手く木に刺さらなかった。

 二回目で上手くいって良かった……


「仕方ないと思う。ギリギリで避けないといけないし」

「一回目で成功した奴に言われてもな……」


 まあ、何はともあれこれで俺も初戦闘は無事に終了……ん?

 落ちていた魔石を拾おうとしたら、何やら布に包まれたものが一緒に落ちていた。

 魔石と一緒に拾い上げる。

 この感触……


「もしかして、肉か? これ」

「あら、ラッキーね。チャージラビットの肉も手に入ったの?」

「ん、お肉?」


 祈とリアが俺の手元を覗き込む。

 布の包みを開くと予想した通り、中身は肉だった。


「なんで肉が?」

「ダンジョンの魔物が不安定だって話はしたでしょ? 地上の魔物と違ってダンジョンの魔物は死体を残さずに魔石だけ残して消えてしまう。でも、(まれ)に魔石以外の体の一部を残すこともあるの」


 つまり、レアドロップってことか。


「待てよ? 包んでいた布はどこから出てきたんだ?」

「ダンジョン側の配慮だと思うわよ? 生肉が地面に落ちてたら汚いでしょ」


 親切だな!

 受け取る側としては嬉しい限りだけども!

 ……まあ、いいか、考えてもどうせ分からん。

 とりあえず、肉は魔石と一緒にインベントリに収納しとくか。


「さて、二人にはもう少し魔物との戦いを経験してもらいたいのだけど……まだいける?」

「大丈夫だ」

「ん、平気」

「余裕がなくなってきたらすぐに言ってね。じゃあ、行くわよ」

「「おー」」


 この後、俺と祈はそれぞれ数体ずつ5階層の魔物を相手にし、昼頃までダンジョンで狩りを続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ