ダンジョン
年末の忙しさにのまれていました……
"ダンジョン"
内部はモンスターが我が物顔で闊歩し、無数の罠が侵入者を阻み、最奥にはボスモンスターが宝を守るように静かに佇んでいる。
二次元作品において描かれるダンジョンは多少の違いこそあるものの大体はこんなところだろう。
だが、エーデンガルドに置けるダンジョンはそれ以上に大きな役目を持つものらしい。
役目……それは周囲の魔力を吸収し、それを強制的に消費することだ。
何故そんなものが存在し、そんな役目を持っているのか?
それには、"魔力"と"魔物"が大きく関係している。
この世界における魔物は世界中のあらゆる存在が放出している魔力が集まって生まれる。
魔力は使えば消滅する。
しかし、全ての存在が自身の生み出す魔力を全て消費することは不可能だ。
その結果、余った魔力は放出され、魔物が生まれる。
だが、放出される魔力の量はあまりにも膨大だ。
何もしなければ、すぐに世界が魔物で溢れかえってしまうだろう。
そんな事態を未然に防ぐ為にダンジョンが存在している。
つまり、ダンジョンが余った魔力を消費することで世界中に魔物が溢れてしまうのを防いでいるのだ。
以上がこっちに来てから教わったダンジョンについての基本的な事柄だ。
そして今、俺と祈は朝一番に冒険者ギルドに寄ってギルドカードを受け取り、リアの案内でダンジョンの1階層に来ていた。
「ここが、フェルミナス王国唯一のダンジョン"恵みの箱庭"よ」
「……これがダンジョン?」
ダンジョンの入り口はカディアの北側に遺跡のような建物があり、俺達はそこにあった階段を下ってきた。
だから、ここは地下のはずなのだが…………
「雲が見えるんだが」
「ん、ついでに風も吹いている」
俺達の目の前に広がっているのは草原と青空というどう見ても地下とは思えない光景だった。
ファンタジーにも程があるな……
「あら、二人はダンジョンの中がどうなってるのか知らなかったの?」
「ん、ダンジョンの役目とかそういうのは聞いてたけど」
「中については聞いてなかったな」
漠然と遺跡みたいなのをイメージしていたんだが、これは予想を大きく上回り過ぎだろ。
「そもそも、町の真下にこんな空間があって大丈夫なのか?」
地震とか起きて崩れたりしたら、大変なことになると思うんだが。
「ダンジョンは入り口から先は一種の異空間になってるからこの空間は町の下にあるわけじゃないのよ」
「なるほど」
「この青空とか草原はどうなってるの?」
祈が間髪入れずにリアに質問する。
「ダンジョンが魔力を消費してるっていうのは知ってるのよね?」
「ん、ヘイゼルに教わった」
「その具体的な消費の方法がこの青空や草原よ。ダンジョン内の環境の維持、資源や魔物の生成。これらが全て魔力で賄われているのがダンジョンという存在」
「…………これを全部?」
祈が啞然としたように呟く。
「どういう原理?」
「さあ?」
「…………」
分からないんかい。
あまりにあっさりと言うから祈がツッコミ忘れてるし。
「ダンジョンの原理はまだ解明されてないのよ。考察とかで良いならヘイゼルが研究してたから聞けるとは思うけどね」
「……後で絶対に聞き出す」
力強く拳を握って決意を固める祈であった。
俺達が1階層を進んでしばらくすると草原が途切れ、目の前に森が現れた。
「二人共。ここからは魔物が出てくるから周囲に気を配ってね」
「分かった」
「ん、了解」
リアの言葉に俺と祈は周辺の様子を伺いながら、森の中に足を踏み入れる。
すると、早速近くの茂みから何かが飛び出してきた。
即座に祈がハルバードを構え、俺も鞘から剣を抜いて構える。
現れたのは……
スライムLv:3
「「……スライム?」」
現れたのは青色のプルプルとした見た目の生物。
ゲームでは雑魚キャラとして、昨今のラノベでは最強クラスのモンスターとして名高いスライムだった。
「ん、なら平気」
「えっ、おい!」
祈がハルバードを地面に突き刺して、目の前のスライムを抱きかかえる。
抱きかかえられたスライムは大人しく祈の腕の中に納まっている。
「だ、大丈夫なのか?」
「問題ない。資料によるとこの世界のスライムは人を襲わない安全な魔物」
「その通り。攻撃しない限りは襲ってこないわ。まあ、もし襲ってきても顔に張り付いてくるくらいだけど」
リアの言葉を聞く限り、どうやらこの世界のスライムはチートモンスターではないらしい。
「それにしても、昨日ギルドで調べてたのは魔物のこと?」
「ん、とりあえず10階層までの魔物は覚えた」
「その都度私が教えるつもりだったのだけど……」
「情報は大事」
祈はゲーム内で得られる情報は集めてからダンジョンには挑むタイプだからな。
攻略サイトは維持でも見ないし。
俺? 俺は行き詰ったら素直にサイト見る派の人間だ。
「可愛い」
「あら、本当。美人さんね」
女性陣がスライムを指でつつきながら愛でているが俺には一つ気になることがあった。
……ていうか、スライムに美人とかそうじゃないとかあるのか?
「なあ、祈。俺にはさっきからスライムの上に名前とレベル表記があるんだが……」
スライムLv:3
スライムが現れてからずっとこの表示が出ている。
俺がすぐにスライムだって気付くことができたのはこれのおかげ(もちろん見た目もあるが)だ。
そして、恐らく祈にもこの表示が出ているはず。
「ん、遊戯者の憧れのおかげ」
「やっぱりか。もう何でもありだな」
ちょっと万能過ぎやしないだろうか?
この名前とレベルの表示だって大したことないような能力のように思えるが、魔物の名前が分かれば対策を立てられるし、レベルが分かれば戦うか逃げるかの選択を即座に決めることができる。
「ただ、表示されっぱなしなのは何とかならないか? ちょっと鬱陶しいぞ」
「ん、後でオプションで設定すると良い」
「そうするよ。それにしても……」
周囲を見渡すと目の前のスライム以外にも何体かの魔物が様子を伺うようにこちらを見ているのが見て取れた。
だが、襲ってくる魔物は1体もいない。
「ここの魔物は随分おとなしいんだな」
「1階層から5階層までは大体こんな感じよ。こっちが攻撃しない限りは襲ってこないわ」
なら、しばらくは安全ってことか。
リアの言葉を聞いて俺は剣を腰の鞘に収め、祈の腕の中のスライムを触ってみる。
おお、ちょっとひんやりとしてるんだな。
「ていうか、いくらなんでもおとなしすぎないか? このスライム」
「……そうね。普通のスライムならとっくに逃げてもおかしくないのに」
「ん、兄さん。飼っちゃ駄目?」
祈が上目遣いでこちらを見つめながら言ってくる。
飼うって……そんな犬、猫拾って来たみたいに言われても困るんだが。
「そもそも、飼えるのか?」
「"テイム"されているならオッケーよ。というかダンジョンの魔物はテイムしてないと外に連れ出すこと自体不可能なんだけど」
「どういうことだ?」
「ダンジョンが生み出した魔物だからなのかしらね。存在が不安定で外に連れ出すと消えちゃうのよ。ただ、例外としてテイムされた魔物は消えずに外に連れ出せるわ」
本来、自然発生する魔物をダンジョンの力で生み出すデメリットってところか。
「テイムはどうやってするんだ? 魔法か?」
「いいえ、スキルよ。ただ、エクストラスキルだから完全に才能依存になるわ。特定の魔物に懐かれるのが所得した合図……」
リアが突然口を閉ざし、まじまじと祈と腕の中のスライムを見る。
えっ、マジで? そういうこと?
「ステータス」
リアの視線で察したのかステータスを開く祈。
俺も横から覗き込むと、
神凪祈
Lv:1 種族 人族
MP 3000
STR 300
VIT 300
AGI 300
DEX 200
ユニークスキル
遊戯者の憧れ 霊魂記憶 並列思念
エクストラスキル
錬成Lv:1 テイムLv:1
ノーマルスキル
槍術Lv:1 斧術Lv:1 銃術Lv:8 土魔法Lv:1 魔力操作Lv:1 調合Lv:4
称号
神の加護
「「増えてる」」
「ええ……」
困惑したように声を漏らすリア。
「ユニークスキル三つに錬成。その上テイム? 盛り過ぎでしょ……」
「祈、自重」
「…………てへっ」
「よし、可愛いから許す」
「……カナタって結構シスコンよね」
おっと、つい本音が。
でも、これでスライムを仲間にできるな。
「それで? どうすれば良いの?」
「……確かテイムしたいって念じて魔物側が受け入れればテイムが成立したはず」
「曖昧だな」
「仕方ないでしょ。私、魔物使いじゃないもの」
あっ、やっぱりエーデンガルドでも魔物使いはテイマーって言うんだな。
そんなことを考えていると祈がスライムと見つめ合って(スライムに目があるかは知らないが)いた。
そして……
神凪祈が<スライム>のテイムに成功しました!
こんなゲームのログじみた言葉が脳内に流れ込んできた。
……もうツッコまないぞ。
これもどうせ遊戯者の憧れの能力だろう。
「ん、スライムが仲間になった」
「名前はどうするんだ?」
「ん? んー」
祈が暫し唸りながら考え込む。
「リ〇ルとかス〇リンとか?」
「丸パクリはやめろ」
著作権に引っかかりそうな名前を付けるな。
「じゃあ、ラピス」
「ラピスか……良いんじゃないか?」
青い宝石から取ったであろうその名前にスライム――ラピスは同意するようにぷるんと体を揺らす。
「さあ! ダンジョン探索はまだ始まったばかりよ。さっさと次に行くわよ」
一連の流れを見守っていたリアが「パン!」と手を叩いて俺と祈に先に行くように促す。
……微妙にやけっぱちになってる気がするのは気のせいだと思っておこう。
「よし、行くか」
「ん」
こうして、三人に1体を加えた俺達はダンジョンのさらに奥に向かって歩みを進めていった。
数本ストック作れたのでしばらく毎日投稿復活です