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訓練の成果


「ふっ!」

「反応が遅い! 相手の動きをよく見て!」


 訓練場に武器を打ち合う音が大きく響く。

 祈のハルバードとリアのレイピアだ。


 ヘイゼルさんの授業とリアのスパルタ訓練が始まってから既に一週間の時間が経っていた。

 この一週間は控えめに言っても地獄と言って良い期間だった(特に祈にとって)。

 俺なんかは剣道で鍛えたおかげで筋肉の下地が出来ているからまだましだが、祈はしっかり運動したことないから訓練が終わるたびに文字通りぶっ倒れてたし。

 もちろん、俺にとっても充分地獄だったが。

 だが、おかげで俺のパラメータは最初と比べてかなり伸びていた。


神凪(かんなぎ)(かなた)

Lv:1 種族 人族

MP 1000

STR 400

VIT 400

AGI 400

DEX 100

ユニークスキル


エクストラスキル


ノーマルスキル

剣術Lv:3 生活魔法Lv:1 魔力操作Lv:5 料理Lv:5


称号

神の加護


 身体能力に関係するパラメータがこの一週間で軒並み倍の数値になっていた。

 数値で見ると大したことなさそうだが、普通に考えて一週間で身体能力が倍になるのは異常であると言わざるを得ない。

 これを温泉の効能の()()()、というべきか、温泉の効能の()()というべきかは正直悩みどころだと思う。

 他にはリアとの模擬戦や素振りで剣術のレベルが一つ上がり、ヘイゼルさんに習った無属性魔法、"生活魔法"を覚えることができた。

 ちなみに、生活魔法はその名の通り生活する上で使えると便利な魔法を覚えることができるスキルだ。


「はい、今日はここまで」

「はぁはぁ、お、終わった……」


 俺が一週間を振り返っているうちに二人の模擬戦は終わったようだ。

 少しも息を乱していないリアとハルバードを杖のようについて肩で息をする祈がこちらに近づいてきた。


「に、兄さん、無事?」

「何とかな……」


 城の壁に寄りかかっている俺に向かって生存確認をしてくる祈。

 何でそんな体勢なのかって?

 そりゃあ、祈の前に俺もリアにしごかれたからだ。


「二人ともこの一週間でかなり良くなったわね。最初は私に向かって武器を振るのもためらってたのに、今はしっかり当てるつもりで攻撃してきてる」

「「だって、攻撃しても絶対当たんないし」」


 リアが強いのを身をもって理解させられた一週間でもあったなー。

 兄妹揃ってお空に向かって遠い目をしてしまう。


「それはさておき、祈はステータスどれくらい伸びたんだ?」

「ん、確認する」


 俺の隣に腰掛けてステータスを開く祈。

 横から俺も覗き込むと……


神凪(かんなぎ)(いのり)

Lv:1 種族 人族

MP 3000

STR 300

VIT 300

AGI 300

DEX 200

ユニークスキル

遊戯者(オーグメンテッド)の憧れ(・リアリティ) 霊魂記憶(ソウル・メモリー) 並列思念(パラレル・プロセッサ)


エクストラスキル

錬成Lv:1


ノーマルスキル

槍術Lv:1 斧術Lv:1 銃術Lv:8 土魔法Lv:1 魔力操作Lv:1 調合Lv:4


称号

神の加護


「パラメータは三倍に上昇、スキルは新しく三つ会得か」

「ん、予定通り」


 魔力操作はヘイゼルさんから教わってたから会得してるのは理解できるが……


「そうか、ハルバードを選んだのはそれが理由か」

「どうせ、上げるなら効率が良い方が良い」

「相変わらず、こういう事に対する祈の勘はすごいな」

「ねえ、何の話?」


 ウィンドウ(半透明な板の事を祈がそう名付けた)が見えないリアは俺達の話が分からず、首を傾げている。


「祈が新しく"槍術"と"斧術"を会得したんだ」

「えっ!? まさか、二つ同時に?」

「二つ同時に」

「いったい、どうやって……」

「種を明かすと簡単なんだけど、祈が作った武器があるだろ?」

「ハルバードよね?」


 その通り。

 でも、もう一つ名前があるんだよな。


「ハルバードは日本語だと()()とも呼ばれるんだ」

「えっ、それが理由?」

「そう、単純だろ?」


 武器系のスキルを会得するのは対応した武器を使って訓練するのがこの世界の常識らしい。

 だが、ハルバードは槍でもあり、斧でもある。

 そんな二つの性質を持つ武器を使って訓練したらいったいどうなるのか?

 

「答えは聞いた通り、"両方会得できる"だ」

「ん、でも、まだ会得しただけ。スキルレベルを上げる途中でデメリットが出てくるかも」

「まあ、今後も検証すればいいさ」


 祈と話しているとリアが静かにこちらを見ているのに気付いた。


「どうした?」

「……二つのスキルを会得する為に二つの性質を持った武器を使う。そんなこと、今まで考えたこともなかったわ」


 そりゃあそうだろ。

 この世界の人間にはこの世界の常識というものがある。

 それを打ち破って新しいものを生み出すことができるのは一握りの天才か、俺達みたいな()()()()()()()人種だけだ。


「私にもそういう考え方ができれば良かったのに」

「リア?」


 リアが何か言ったようだが、小声で聞き取れなかった。


「何でもないわ。さて、イノリが武器スキルを会得したならそろそろ次の段階に移ろうかしら」

「次の段階?」

「二人共、明日は訓練お休み。午後から町に出るわよ」

「おお、ついにか」

「ん、楽しみ」


 今まで城から一歩も外に出てなかったからな。

 これは、明日が楽しみだ。











「「おおっ! なんて見事なナーロッパ!」」

「な、なーろっぱ? よく分からないけど喜んでるのよね?」


 翌日の午後、リアと一緒に城下町に来た俺と祈はその想像通りの街並みに感動を禁じ得なかった。

 中世ヨーロッパ風な街並みに、街を歩く騎士や冒険者、これに感動しないゲーマーはいないと言って良いだろう。

 あっ、今すれ違った人、ケモ耳だった!


「二人共、あんまりきょろきょろしないの。目立つでしょ」

「悪い、でもずっと城の中だったからついな」

「ん、これぞ異世界って感じ」


 アニメとかで見慣れた光景だけど、実際にこうやって歩くとなると興奮を抑えられないのは仕方ないと思う。

 ところで、


「これどこに向かってるんだ?」

「冒険者ギルドよ」

「「テンプレ!」」

「てんぷれ? 天ぷらの親戚かしら?」


 リアが何やら迷走しているが、俺と祈はそれどころではない。

 やっぱりあれか?

 昼間から酒飲んでるごろつきみたいな奴に「ここはガキの来るところじゃねぇ。さっさと帰んな」って絡まれるのだろうか?

 ヤバい、ワクワクしてきた。


「ああ、言ってるうちに見えてきたわ。あれが冒険者ギルドカディア支部よ。と言ってもこの国に冒険者ギルドは一つしかないけどね」

「おおー、酒場っぽい」

「ん、建物は完璧。レッツゴー」

「あっ、ちょっと!」

 

 俺と祈はリアを置いて冒険者ギルドに突入する。

 いざ!


「失礼しまーす」

「たのもー」


 扉を開いて、中に入る。

 そこには……


「「…………人、いない」」

「当たり前でしょ。こんな午後一の時間帯に人なんていないわよ。」


 しまった、時間帯まで考えてなかった。

 そうだよな、みんなこの時間帯は仕事に出てるよな。普通。


「あら、リアじゃない。こんな時間にどうしたの?」

「ユリナ! マスターいる?」

「今日もダンジョンよ。あの人は」

「また? アポなしで来た私も悪いけど、あの人ギルドに居なさすぎじゃない?」

「長時間イスに座ってられない人だからね~。ところで、そっちの二人はもしかして……」


 受付に座ってリアと話していた女性がこちらを向く。

 栗色の髪を束ねた美人さんだ。

 歳は……俺やリアより少し上くらいか?


「そう、神の使徒よ。カナタ。イノリ。」

「神凪悠です。よろしくお願いします」

「神凪祈。よろしく」

「わわっ、ユリナ・グリフィンです! よろしくお願い申し上げばっ!?」


 慌ててイスから立ち上がり、自己紹介してくれたが盛大に噛んでしまうユリナさん。

 うわー、痛そう。


「落ち着いて、ユリナ。普通に接してくれれば良いから」

「痛だだ、そういうわけにいかないでしょ! 聖女様と同じ使徒様なんだから!」

「そうだけど。そういうの苦手なのよ。二人共」

「苦手って……だいたい連れて来るなら前もって連絡を……」

 

 あーだこーだ言い合っている二人を眺めていると祈に上着の袖を引かれる。


「どうした?」

「神の使徒って何?」


 そういえば、祈に言ってなかったか。


「勇者以外の召喚された人間をそう呼ぶらしいぞ」

「へぇー」


 初日に俺が呼び方変えてほしいって城の人には言ったから祈は知らなかったんだな。

 ちなみに、このことはエリオットさんに教えてもらった。

 ……ていうか、長いなー。

 結局、リアがユリナさんを宥めるのに10分近くの時間を要するのだった。


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