声よ届け-アイリス-
琥珀様が悩んでいる。
原因は体育祭らしい。琥珀様はお世辞でも運動が得意とはいえない。だから悩んでいるのだろう。
私としては、お手伝いしたいが声をかけるくらいしかできない。私に実態があれば…。
「アイリス。今日の体育祭うまく行くと思う?」
ここは現実をお伝えしなければ。
現実を知ることで自分のダメなところを反省してもらい、琥珀様に更なる成長をしていただこう。
解析中………勝てる確率2%…。
「今の琥珀様の身体能力を分析し、同年代の方と比べたところアンカーで勝てる確率は2%です。」
これでいい。私は少し琥珀様に対して甘すぎることがよくある。たまには厳しくしないと。
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「女の子の黄色い声援が欲しいんだよね、アイリスが琥珀って呼んでくれたらやる気くらい出るかもね。」
友達のいない琥珀様の応援をしてくれる人など神崎さんくらいしか可能性はないが、それも期待できないでしょう。
しかも私が琥珀様を呼び捨てにはやはりできない。最初の一回以降、プログラム上それは禁止にしているからだ。
私ができるのは琥珀様を応援すること。
それ以外ない。
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琥珀様の体調が急に悪化した!
おそらく不安と緊張感によるものだろう。
やはり今日は休んでもらうことが最善。
伝えなければ、、。
——琥珀様!琥珀様!!大丈夫ですか?ご体調が悪いのですか?今日は帰りましょう——
しかし、琥珀様は聞いてはくれない。
委員長としての責任感のようなものが芽生えている。非常に厄介だ。琥珀様の心身を危険に晒すくらいならば、やめさせるべき…。いや、委員長になってからの琥珀様は顔つきが変わった。
これはいい変化と捉えるべきだ。ここはなにも言わないでおこう、、。
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琥珀様が行ってしまった。
私はご友人の和也様に預かっていただいている。
「なあアイリスちゃん、最近の琥珀、ちょっと変わったと思わねえか?」
——そうでしょうか。気持ちの波形に変化はありませんが…——
「いや、気持ちというか顔つきが変わったんだよな。なんか守るべきものがある男って感じだ」
——守るべきもの?顔つきが変わったのは委員長になったからではないかと。力になれず申し訳ありません——
その時、琥珀様が膝をついた。
私の中に何かが侵入してくる。
プログラムを破壊するもの、、。
感情という名のもの、、。
——和也様!急いで放送部の前へ!——
「お、おうわかった!」
プログラムが破壊されていく。
私が私自身に掛けていた枷。
琥珀と呼びたいという気持ちが…。
放送の電波ジャックを開始……。
9%完了……。25%完了…。67%完了…。
間に合え、間に合え、間に合え!
100%完了。
——琥珀ー!頑張れ!私にかっこいいところ見せてください!!!——
声よ届け。
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結果は3位。
琥珀様にしては頑張った方でしょう。
胸を張って走る姿はかっこよかった。
「ありがとなアイリス。結果はダメだったけどあれのおかげで楽に走れたよ」
——いえ。琥珀様が不安そうに見えたのでしたまでです。かっこよかったですよ——
「また様呼びが戻ってるじゃないか!やめてくれよ」
私が琥珀様を呼び捨てにしたのは秘密。
AIとしてこの感情を持つのはおかしいことだから。だから、、だから、、
——琥珀…——
「ん?なにか言ったか?アイリス」
——いえ、なにも!!では!——
私のこの感情は知られてはいけない。
でも、、。私に感情というものを教えてくれてありがとう、琥珀。