決戦、直談判
ついに神崎さんのお父さんに会う日が来た。
覚悟はしていたつもりだが、こればっかりは緊張無しではいられない。
俺の対応、一語一句が今後の人生を左右すると分かっていたからだ。
「アイリス、準備はいいか」
——はい。大丈夫ですよ。気楽に行きましょう——
アイリスはこう言う時にも俺を励ましてくれていた。
そうしているうちに予定の時間に神崎さんが現れた。
「ようこそ。父に話を通しました。是非お話を聞かせて欲しいとのことです。父は最上階の社長室にてお待ちしてます」
神崎さんはまるで学校とは別人だった。
これが他所行きの顔か…
最上階と言われ、ビルを見上げたが、とても想像できるような高さではなかった。
本当にAI会社の最高峰。
だが、このチャンス逃すわけにはいかない。
俺とアイリスは神崎さんの後を続き、入館手続きを済ませ、エレベーターにて最上階を目指した。
「大丈夫ですか?顔色があまりよろしくないようですけど…」
神崎さんがエレベーター内で心配してくれた。
「大丈夫だよ、少し緊張してるだけ。失礼のないように話を聞いていただくよ」
「あの、アイリスさんは今もここにいらっしゃるのでしょうか?」
「あぁ、いるはずだよ。アイリス、いるか?」
——はい。琥珀くんの邪魔はしないように呼ばれるまで出ないようにしていました。——
「本当に不思議ですね…。父のお手伝いでAIに関しては多少知識がありますが、このようなものは初めてです。」
神崎さんが俺の携帯をまじまじと見ながらそう話していた。
そんなこんなで話しているうちにピンポーンと音が鳴り、最上階に到着した。
扉が開くとそこにはまた大きな扉。
この奥に神崎さんのお父さんが…。
覚悟を決めただろ。アイリスに会いたい。
それだけだ。
「ではこちらへ」と神崎さんが扉を開けるとそこには椅子に座った厳格そうな男がいた。
「ようこそ、琥珀くんだね?娘から話は聞いているよ、実に興味深い話だ。よく聞かせてくれたまえ」
そう言い、神崎さんのお父さんは手を椅子の方に差し出し、「どうぞ」と言った。
俺はその堂々さに気圧されるかのように、差し出された手の先にある椅子に腰掛けた。
「琥珀くん、手短に話そう。君のAIは自我を持っている。そうだね?」
「はい。その通りです。そしてそれをどうにか実体化できないかと相談に参りました」
神崎さんのお父さんは「ふむ…」と悩ましい表情をし、少しするとまた話だした。
「すまないが、そのAIというのを私に見せてくれないか?」
神崎さんは俺とお父さんの中間に立ち、あくまで中立といった立ち位置だった。
その点、少し安心することができた。
「わかりました」
そしてついに携帯を出し、「アイリス、いいよ」と指示を出した。
——お待たせしました。神崎様のお父様ですね。今回はこのような機会をいただき、誠にありがとうございます——
「なるほど、興味深い。このようなプログラムを学生が組めるとは考えにくいな。確かに自我を持って生まれてきたようだ」
「それで本題なのですが…」
「あぁ、実体化の話だったね。簡潔に言うと、"できないことはない"だね」
やはり…!
「だが、極めて難しいことだ。我が社でも何度もそのような実験をし、失敗している」
「しかしそのAIがあれば、大きな進展になるやもしれない」
「アイリスを研究材料に差し出すつもりはありません。」
少し警戒しすぎていたのか、その言葉にすぐに反応してしまった。
「AIの実体化。それはAIの時代の革命となることは確かだ。そして莫大な資金と知識、技術力が必要となる。その対価としては十分だと思うがね?」
「分かっています。俺は頼るしかないと言うことも。しかし、アイリスを失うことだけは避けたいのです。アイリスはもう俺の全てなんです」
——琥珀くん…——
「なるほど」と神崎さんのお父さんは笑った。
「君たちはそういう関係か。ははは、AIと人間の…。面白い。わかった。」
「この話は慎重に確実に計画させていただく。もちろんそのアイリスさんのデータは取らせてもらう。だが、必ず成功させると約束しよう」
「分かりました。是非お願いします」
しばらくの沈黙が続いた後…。
「全く、大した子だ」と言い放った。
そして神崎さんに連れられ、部屋を後にした。
かなり緊張していたと感じる。
手のひらには握りしめた爪の跡が残り、汗をびっしょりかいていた。
「少しヒヤヒヤしましたが、父が押されているのは初めて見ました。すごいですね」
「真剣さは伝わったかな…」
そう言い笑うと、「私には伝わりましたよ」と神崎さんが相槌を打った。