これからも隣に。
皐月がアイリス奪還作戦を実行してから15分が経った。
いくらなんでも遅すぎる。職員室までは5分程度でいけるし、先生の机がどれかも分かってるはずだ。
まさか、潜入してるのがバレて怒られてるのか?
最悪の事態だ。俺がなんとかしなきゃいけない。
でも、俺に任せてくれと言ったあの皐月の真剣な顔。あれを信じないわけにはいかなかった。
俺はじっと二階の職員室の窓を見つめる。
アイリスとなんて話そう。
AIだから恋愛はできない?
気持ちには答えれない?
そう答えて俺はこれからもアイリスといれるのか?
アイリスは傷つかないか?
そんな思いが待ち時間を長くする。
ダメだ、今すぐアイリスと話したい。
今すぐあの声が聞きたい。
そう思ってる時、二階の窓が空いた。
二階の窓からは皐月が俺のスマホを持って顔を出した。
後ろには先生がいる。今にも捕まりそうだ。
そして皐月は俺に叫んだ。
「琥珀、受け取れ、ちゃんと話せ!」
そう言って皐月は携帯を俺に投げた。
皐月には何も話さなくてもわかってたみたいだ。俺の不安そうな顔を見て察したんだろう。
スマホが俺の方に向かって飛んでくる。
アイリスとなんて話そう、なんて考えてた思いも吹っ切れるくらいに俺は今すぐ話したかった。
スマホをキャッチした瞬間、アイリスが起動する。
——琥珀様…私…——
「アイリス、俺も好きだ。どうしようもなく。すぐに答えられなくてごめん。でも愛してる」
自分の気持ちに嘘はつけなかった。
AIだから、人じゃないから、そんなこと関係ない。
アイリスと出会った日。
俺を応援してくれた体育祭。
2人で見た花火。
初めてのデート。
全てが俺に喜びをくれた。愛を教えてくれた。
この気持ちに嘘はつけない。
俺はアイリスが好きだ。
——琥珀様…私も。私も愛しています——
アイリスの声が震えている。
「アイリス。また琥珀って呼んでくれないか」
——琥珀…。やっぱり少し緊張しちゃいますね——
「あぁ。でもこれから2人で慣れていこう」
——これからも、私を隣に置いてくれますか?——
「もちろん。アイリスの方こそ隣にいてくれるのか?」
——もちろんです。アイリスは琥珀のAIですから——
俺たちは2人、その時を大事に噛み締めた。