初恋の人
小学6年生の時。
俺は母さんと父さんと花火大会を観に行った。
友達があんまりいない俺のことを危惧して
母さんが思い出作りのために行こうと言い出した。
正直俺は楽しみだった。子どもにとって花火大会は普段とは違う雰囲気を楽しめる。屋台などの存在も胸を躍らせた。
その日の花火大会もかなり多くの人が訪れていた。
これのせいで俺は母さんと繋いでた手を離してしまいそのままはぐれてしまった。
俺はもう会えないんじゃないかという恐怖につい泣き出してしまった。
そんな時、1人の女性に声をかけられた。
「君、迷子?一緒にお母さん探してあげよっか?」
歳的には20代前半ほどだっただろう。
泣き疲れていた俺はなんでもいいから安心したかった。だからその人について行ったのかもしれない。
「名前は?お母さんときたんだよね?」
「一ノ瀬琥珀…。お母さんとお父さんと来た…」
「よしじゃあお姉さんが責任持って琥珀くんを連れてってあげるから、ほらもう泣かない」
その人の声や喋り方、全てが俺の心を安堵させた。この人といれば大丈夫なんだって、そう思えた。彼女は愛という名前だと言った。
その時花火が上がり始めた。
「あー花火上がっちゃったね。しょうがないからここで観よう。ほら綺麗だよ」
そう言う彼女のなぜか悲しそうな横顔に俺は目を奪われた。
「お姉さんね、たぶんもう長くないの。」
最初はなんのことかわからなかった。
だけど悲しそうに笑うその顔を見るとなんとなく子どもの俺でもわかった。
「私、花火が好きなんだよね。儚くて、綺麗で、でも力強くて」
「でも、この花火を観れるのも今年が最後かなぁ。最後が琥珀くんと観れてよかったよ」
あまりに悲しそうな顔を見ていると俺はいてもたってもいられなくなってその人に抱きついていた。
「ありがとね、心配してくれて。歩きながらお母さん探そっか」
そう言い、手を握りながらその人に連れられた。
それから一度も俺の顔は見てくれなかった。
しばらく歩くと迷子案内所があり、母さんと父さんがそこにいた。
俺は安心感か、愛さんの元を離れ母さんの元へと走っていった。
母さんと父さんは愛さんにお礼を言っていた。
愛さんもニコニコしながら対応していたが、やはりその顔の奥は悲しそうだった。
そして俺に愛さんが言った。
「琥珀くん、これからは離れちゃダメだぞ。もうお姉さんはいないからね?」
今思えばその言葉にはいろんな意味が詰まっていたと感じた。
「琥珀くん…。君の目は花火みたいに綺麗。真っ直ぐで澄んだ瞳。それ大事にしなよ。」
笑いながらそう言って彼女は去っていった。
それが俺の初恋。
おそらく彼女にはもう二度と会えないんだろうと幼い俺でもわかった。
それ以来、俺は花火が嫌いだ。
花火を見るとあの今にも消えそうな笑顔を思い出す。