暗雲
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同時刻、後宮では惨たらしい儀式が行われていた。
密閉した部屋に香と人肌の焼ける匂いが満ち、黒服の呪い師たちが生贄となった宮女の背に赤く熱した焼きごてを当てる。その焦げ跡から託宣を受け取った呪い師は、黒ずくめの体を恐怖に震わせた。
「これは――」
「見えたのかえ？」
外から入ってきた凛とした気配に、呪い師は慌てて膝を折る。
かろやかな木鈴の音とともに現れたのは、空気をも極彩色に染める艶やかな美女だ。
呪い師は恐れ多くて顔も上げられない。
「美蛾娘さま」
「立つがよい」
美蛾娘は優雅に椅子へ腰かけ、足を組む。扇を打って呪い師へ続きを促した。
「申し上げます。かしこくも、羅刹女神はこう仰せでした」
――後宮に三人の神触れ人が現れる。ひとりが災い、ひとりが国の親、ひとりが寵妃となるであろう。――
美蛾娘は扇を優雅に広げ、美しいぬばたまの目で遠くを見やった。
「それは、いつのことかえ？」
呪い師は息も絶え絶えの宮女の背へ、慌てて再度焼きごてをあてる。猿ぐつわをかまされた宮女は声もなく失神しており、その身は打ち上げられた魚のように痙攣した。むせ返るような人肌の焼ける匂いが部屋に満ちたが、美蛾娘は平然と待っていた。
宮女がついに白目をむき息絶えたとき、呪い師はようやく託宣を得た。
「申し上げます。今後二十日以内かと」
「となれば、楽人選抜会じゃな」
立ち上がった美蛾娘に呪い師は震えてしまう。美蛾娘の周りは常に死の気配が満ちている。うかつに声を出し、またはその視界に入っただけでもすでに冥途に片足をふみ入れたようなものだ。死の恐怖に震える呪い師に構わず、美蛾娘は決然と扇を閉じ笑っていた。
「羅刹女神とはほんに頼もしいのう。妾はその神触れ人とやらの、一人をはりつけに、一人を火達磨にし、残った一人を生きたまま喰らうとしよう。さすれば託宣を出した女神もさぞお喜びであろう。そうではないかえ？」
呪い師は震え声も出ない。ただ一刻も早くこの死神のような女が去ってくれないかと祈りひれ伏すばかりだ。
美蛾娘は実に晴れ晴れとした顔で部屋を去る。
「楽しみじゃのう。三人の新鮮な血肉を捧げれば、羅刹女神もさぞお喜びであろう」
後宮は黒い気配に満ち、今日も暗雲がたれこめている。
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