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法則その3 サスペンスドラマでもっとも死なないキャラの特徴

◇◇


――ねえ、お兄ちゃん! サスペンスでもっとも死なないキャラってなんだと思う? それはね……。



………

……


 小さな体を震わせているアルメーヌを冷めた目で見ながら、俺は『キーピング・ザ・デッド』のストーリーを思い起こしていた。

 

 町の長老たちの命令によって集められた『討伐団』のメンバーは20人。

 さらに『黒い森』までの案内人として一人の少女……アルメーヌが選ばれた。

 彼女の『設定』は捨て子。教会で育てられた彼女は「町のお役に立てるならば」ということで案内人に立候補したらしい。危険を伴うので神父をはじめとして多くの人々が反対したが彼女の決意は固かった。

 

『ここで行かなかったら絶対に後悔する! 私はこの町に育てられたの。だからこの命を差し出してでも恩返しがしたいの!』


 と叫んでから教会を飛び出していった。

 

 ……なんて白々しいんだ。

 ストーリーの全容を知った後なので、彼女の思惑が透けて見えていてドン引きしてしまう。

 

 とりあえずそれは置いておいて、ストーリーを先に進めよう。

 

 討伐団が町を出てから3日目の夜。

 ディートハルトとイルッカの二人が惨殺された。

 つまりたった今というわけだ。ただし俺、イルッカはピンピンしているから微妙にストーリーは変わっていくことになるんだろうな。

 

 特にイルッカは元剣闘士だったので討伐団の中で衝撃が走るのだが、今の仲間たちの様子を見るに、別にイルッカが殺されなくてもじゅうぶんなショックを受けているようだ。

 つまりイルッカは『殺され損』だったということか……。

 そっちの方がショックだな。

 

 さて、それからの『討伐団』だが、二人が殺されたところで引くわけにもいかない。

 『黒い森』に向けて前進を再開する。

 だがその後も一人また一人と『死亡フラグ』を立てたメンバーが殺されていった。

 

 そしてついに洋館にたどり着いた。

 しかし化け物などどこにもいない。

 そうして討伐団が数人になったところで、ついにアルメーヌは正体を明かした。

 

『私はヴァンパイア。永遠の愛を誓う夫を選ぶために、あなたたちを利用したの』


 彼女いわく、最後まで生き残った人こそ『本当に強い者』なんだそうだ。

 そんな中、最後まで残ったのは、ひょろっとした細身のイケメン。

 その名もクライヴ・ハリディ。殺された領主の息子で伯爵の身分を継いだ人だ。

 町には婚約者もいる。

 だが彼は旅をしている間にアルメーヌに恋をしてしまったんだ。

 だから彼女の口から真実を聞かされたとたんに泣き崩れてしまう。

 

『なんでこんなことをしたんだ!?』

 

 アルメーヌもまた涙を流しながら答える。

 

『これが私たちヴァンパイアの血の掟なの。私だって本当はこんなことしたくなかった! 普通の女としてあなたと恋に落ちて、静かに暮らせたらどんなに幸せだったことか!』


『僕は信じない! 愛する君が化け物だったなんて! だから嘘だと言ってくれ!』


『ごめんなさい。ごめんなさい!』


 クライヴはなすすべなくアルメーヌに首筋をかまれてしまう。

 彼は血を吸われている間、こうつぶやく。

 

『僕は誓う。これからは君の苦しみを僕が背負うと。だから……。もう泣かないで……』


 そうしてクライヴの心臓は止まり、彼もまた不死のヴァンパイアとしてアルメーヌとともに生きていく。

 人の生き血を吸わねば生きていけないクライヴは、涙を流しながら町へ戻って人々を襲いはじめた。

 そして彼はついに町に残した自分の婚約者セルマを手にかけてしまうのだった――。

 

 これがストーリーの全容だ。

 リアルタイムでアニメを見ていた時はラストシーンに感動したものだが、こうして殺される役になると感動なんてありえないな。

 

 ちらりとクライヴに目をやると、アルメーヌのことなど見向きもせずに真っ直ぐ前を向いている。

 この時点ではまだ惚れていないってことか。

 

 あ、ちなみに俺は貧乳の美少女が好みだが、彼女にはまったく興味がない。

 だって多くの人間を残酷なやり方で殺すんだぜ。

 頭がおかしいとしか言いようがないだろ。

 

 しつこいようだが、俺はサイコパス少女に殺されるつもりなどこれっぽちもない。

 なんとしても生き延びてやる。

 その為にはこの世界の『設定』に逆らってはならないのだ。

 

 つまり『死亡フラグを立てさせない』ということ。

 と言うのも、アルメーヌには『死亡フラグが立っていない人間を殺せない』という制限があるのだ。

 設定資料集にそう書かれていたから間違いない。

 

 ではどうやれば『死亡フラグ』が立たないのか。

 その答えはかつて妹のミカが教えてくれたじゃないか。

 

――ねえ、お兄ちゃん! サスペンスでもっとも死なないキャラってなんだと思う? それはね『冴えないモブキャラ』だよ! ストーリーの重要人物でなければ殺されても視聴者の心が動かないからね。主人公に近ければ近い人ほど、殺されるとインパクトがあるってもんだよ。だから『モブキャラは殺されない』! 覚えておくと便利だよ!



 ナイスだミカ。元気になったらアイスをおごってやろう。

 そこで俺は妹の金言に従って心に誓ったのだ。

 

 

 徹底的に『冴えないモブ男』になってやる、と――。

 




これでプロローグは終了となります。

次からいよいよ少女との仁義なき戦いがはじまるのです。

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