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僕の物語 序章・第3話 『至福の時』

プロローグと比較しながらお読みいただけると、「ああ、そういうこと」となるかと思います。

………

……


 夜が更け、もうすぐ朝を迎えようとする頃。

 僕は塔の中にアルメーヌを入れた。

 彼女は僕を見るなり、小さく笑った。


「やっとお望み通りの展開になったわね」


 彼女の口調からは安堵感が感じられる。

 僕は答える代わりに、大きなため息をついた。

 言うまでもなく「ここまでくるのにずいぶんと長かったよ」と伝えたかったのだ。

 彼女は「お疲れさま」と言わんばかりに、ちょこんと頭を下げると、小首をかしげた。

 

「ところでイルッカは始末したの? あの男だけは私の手で殺してやりたかったんだけど」


「そうか。君は見てなかったからね。あの人は自分で海に身を投げたよ」


「まあ! あんなにしぶとかったのに……」


 アルメーヌが悔しそうに表情を曇らせている。

 僕は彼女の細い肩に手を乗せて、穏やかな調子で続けた。


「ふふ。君が残念がるのは分かるけど、彼は君に追い詰められた絶望が引き金となって自ら命を絶ったんだ。だから胸を張っていい。君が殺したのも同然なんだから」


「あは。優しいのね」


「君にだけさ」


 それはお世辞でも何でもない。

 これから僕は世界を破壊する。

 つまり永遠のパートナーであるアルメーヌの他に優しくするつもりはない。

 いつしか世界中の王が僕に屈したならば、多少なりとも他人に対して情けをかけてやってもいいとは思っているけどね。

 一方のアルメーヌは僕の言葉で喜んでくれたようだ。

 顔を赤くしてモジモジしている。

 そんな彼女に対して、僕は語調を強めて言った。

 

「さて。じゃあ、始めようか」


 表情を引き締めたアルメーヌは、小さな声で問いかけてきた。


「まずは誰からなの?」


 彼女は人を殺すことが生きがいなんだろうな。

 目がらんらんと輝いている。

 実は僕も抑えきれない興奮で胸がはち切れんばかりなんだ。

 だが、こういう時こそ冷静にならねばならない。

 そのため、できる限り声の調子を落として答えた。

 

「アルヴァンだ」


「あは。いいね。私のけがれない体を木端微塵に吹っ飛ばしたこと。後悔させてあげなくちゃね」


「では、君だけでアルヴァンの部屋……2階に上がってすぐの部屋に行ってくれるかい?」


「あら、まだ彼には『黒い旗』が立っていないから、私は何の手出しもできないわよ?」


「それでいい。君はただ立っているだけで、じゅうぶんだからね」


「あは。分かったわ」


 長い黒髪を揺らしながらアルメーヌは2階へと消えていく。

 その足音はタンタンと小気味よいテンポで、まるで行進曲のようだ。

 自然と僕の胸が高鳴っていった。

 そうしてその足音がピタリと止んだ瞬間に

 

――ドォォォン!


 2階から派手な銃声が鳴り響いた。

 僕は余裕をもって部屋を後にする。

 ナタリアの部屋は4階。

 ボブは地下。

 当然アルヴァンのもとにいち早く駆け付けるのは僕だ。

 抑えきれない興奮を解き放ち、満面の笑みを浮かべながら一段飛ばしに階段を駆け上がっていく。

 そしてアルメーヌの背中が見えたところで、僕は顔を引き締めた。

 同時にアルヴァンの声が聞こえてくる。

 

「……クライヴ! 無事だったか! こっちへ来い!」


 アルメーヌがチラリと僕の方を振り返り、ニタリと口角を上げた。

 僕はこぼれる笑みを引きつった笑いに変え、アルヴァンのもとへ駆けていく。

 そして彼の背中に張り付いた。

 

 なんの警戒もしていない無防備なアルヴァンの背中。

 その背中に僕は忍ばせていたナイフを当てた。

 ビクンとアルヴァンの背中が伸びる。

 ようやく異変に気付いたようだ……。

 そこで僕はボソリとつぶやいたんだ。

 

「僕の伯父さんと母さんの無念。ここで晴らさせてもらうよ」


 そう言い終える前に、ズブリと背中にナイフを突き立てる。

 深々と刺す必要なんてない。

 背中の皮に傷をつけるだけで、猛毒は全身に回るのだから……。

 

「……ぐはっ……。まさか……」


 わずか数秒後に彼は前のめりに倒れて、痙攣しはじめる。

 僕は冷たい視線を彼の背中に落としながら、緊迫した声をあげた。

 

「やめろ……。こっちへ来るな!」


 当然、カモフラージュだ。

 もし冷静になってこの場を見れば、アルメーヌに向かって前のめりに倒れているのは不自然極まりないからね。

 ……と、そこに鬼のような形相をしたナタリアがやってきた。

 

「クライヴ!! よくも!!」


 ほう……。どうやら彼女はアルヴァンの命を奪ったのは僕だと気づいているようだな。彼女の目には見え透いた演技は通用しないということかな。

 彼女はアルメーヌの後ろから、俺めがけて一直線に短剣で襲いかかってくる。

 

 実に残念だ……。


 これではナタリアをナイフで殺すことはできない。

 仕方ない……。

 彼女のことはあきらめるとしよう。

 

 僕はアルメーヌに視線を送った。

 アルメーヌの瞳が赤く光り、口が裂ける。

 

 そうだよ。

 ナタリアはヒロインなんかじゃない。

 ただの『敵』だ。

 だから主人公の僕に斬りかかった時点で立ってしまったのさ。


 

 『漆黒のフラグ』が――。

 


「うぐっ……。あんた……。こんなこと……」

 

 アルメーヌの手刀が深々とナタリアの腹を貫いていた。

 アルメーヌはすぐに手を腹から抜き、何事もなかったかのように俺を見つめている。

 ナタリアは一撃で絶命し、仰向けに倒れていった。

 

 しかし悔しいな。

 親友のかたきを僕の手で殺せなかったんだから。

 僕は歯ぎしりして、悔恨を声にした。

 

「まだだ……。まだ……」

 

 そうだ。僕にはまだ一人残っている。

 最後までしっかりと堪能しなくては。

 『キーピング・ザ・デッド』を……。

 

「ふふふ。そうね。まだ一人いるものね」


 アルメーヌが決まりきったセリフを吐く。

 僕はあえて階下に聞こえるような大声で言った。

 

「ボブのことか!?」


 今彼は僕たちが2階にいる隙をついて塔を出ていこうとしているはずだ。

 でもそれは絶対にかなわない。

 なぜならつい先ほど、僕が塔のカギに細工し、そう簡単には開かないようにしておいたのだから。

 そして彼は今の僕の声で恐怖のどん底に陥っているだろうな。

 とてもいい気味だ。

 言葉で相手を陥れたのだ。

 言葉で絶望を味わうといい。

 

 アルメーヌがゆっくりと階下に向かっていく。

 僕も彼女の背中を追いかけるようにしながら、のんびりと続いた。

 

「待て!」

 

 緊張感のある僕の声は、ボブの鼓膜に突き刺さり、彼の精神を粉砕していると想像するだけで、ゾクゾクする。

 

「くそっ! まさか、こんなことになるなんて!!」


 ボブのやつ。

 やはり一人で逃げようとしてるじゃないか。

 必死にカギをこじ開けようとしている様は、人間の純粋な生存本能を表しているようで、少しだけ悲しくなる。

 そしてその本能は、アルメーヌの接近すら彼に気付かせていないようだ。

 あまり面白くないな。

 そこで僕は彼に現実を報せてやることにした。

 

「ボブ!! 後ろ!!」


「ひいいいい!!」


 ああ……。なんて心地よい悲鳴なんだ……。

 さらに恐怖に引きつった顔も実に素晴らしい。

 こんな幸せな時間をすぐに終わらせてしまうのはもったいない。

 だから僕はあえて大回りするように声をかけることにした。

 

「こっちへ回りこんでくるんだ!!」

 

 何の疑いもなく、部屋の中を大回りするボブ。

 腹を抱えて大笑いしたい気持ちを抑えながら、僕はその姿をじっくりと味わった。

 そしてすぐ横までやってきたところで、ぼそりと声をかけたのである。

 

「ご苦労さん。あの世でゆっくりとおやすみ」


「え……?」


 目を丸くする彼の脇腹をナイフで切りつける。

 次の瞬間に、彼の口から大量の血があふれ出した。

 

「そ、そんな……。ごふっ……」


 ボブが膝から崩れ落ちていく。

 その様子を見つめながら、僕はえも言われぬ達成感に浸っていた。

 

「ふふふ。これでついにあなただけね」


 アルメーヌが愛くるしい笑顔を僕に向けている。

 僕はふぅと大きく息を吐くと、ボブが開けられなかった扉に向けてゆっくりと歩き出した。

 

「永遠の愛を誓いあうのは洋館なんだよね?」


「ええ、そうよ」


「じゃあ、僕たちの物語の序章を終わらせるとしよう」


「ふふ。すぐに第二章が始まるのね?」


 アルメーヌが僕の横に並んできたところで、僕は扉を大きく開いた。

 外に出て崖から海を見ると、いつの間にか朝日が水平線から顔を覗かせている。

 僕はキラキラと輝く海面を見ながら、彼女の問いかけに答えたのだった。

 

 

「そうだね。まずは僕の婚約者のセルマ。彼女の命を絶つことにしよう。いかにも悲劇のヒロインに仕立てあげてね」




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