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僕の物語 序章・第1話 『運命の出会い』

◇◇


 僕の名はクライヴ。

 小さな町の領主の息子に生まれ育った。

 王都にある王立学校を卒業した後、僕は町に戻るとセルマという美しい女性と恋に落ちた。そして彼女を婚約者として認めてもらい、結婚後は父から町の領主を引き継ぐことになったのである。

 

 まさに順風満帆の人生。

 

 でも時が経つにつれて、僕の心の中にモヤモヤしたものが湧いてきたんだ。

 

――このまま何もない、平坦な人生のまま終わっていいのか。


 と。

 

 王都から遠く離れた辺境の町……。

 気立てはいいが、たいした出自ではない婚約者……。

 貧しくはないが、遊んで暮らせるほどの大金持ちでもない……。

 かと言って近い将来僕が就任する領主の仕事は、町の陳情が記された書類にハンコを押すだけで、あとは長老や町民たちが勝手に問題を解決してくれる……。

 

 僕は大きな出世も見込めず、周囲から与えられたものだけで平穏に暮らしながら、いつしか死んでいくのだろう。

 

 こんな人生でいいのだろうか。

 

 夜を迎えるたびに、自問自答してきた。

 そしてその度に、少しずつ……ほんの少しずつ、不安と焦りの芽は大きくなっていったんだ。

 

――僕はこんなもんじゃない……。


 そりゃあ、少しだけ臆病なところはある。

 でも、学校の成績は優秀だったし、運動や剣術だってこなせる。

 性格は穏やかで、見た目も悪くない。

 こんな僕が辺境の町でひっそりと一生を終えるなんて、もったいない。

 僕ならば、華やかな王都で華麗に活躍できるはず。

 そして王様に認められて王女様を娶ることだって夢じゃない。

 つまり僕はこう願うようになっていった。

 

 

――僕だって『主人公』になりたい!



 と……。

 

 そして婚約者のセルマとの結婚式まであと数日となったある晩のこと。

 僕の前にアルメーヌが現れたんだ。

 

「あはは! 私と一緒に作らない? あなたが『主人公』の物語を」


 最初は彼女が何を言っているのか、まったく理解できなかったさ。

 でも彼女は一人で続けた。

 

「私は不死のヴァンパイア。永遠の愛を誓いあう相手を探しているの」


「永遠の愛?」


「そうよ。私と永遠の愛を誓いあった人は、私と運命を共にする。つまり私と同じ、不死のヴァンパイアになれるってこと」


 それを耳にした瞬間に、僕の心臓が大きく脈打つのを感じた。

 僕の興奮が伝わったのだろうか。

 彼女は少しだけ早口になって続けてきたんだ。

 

「私と一緒に何もかも壊してしまいましょう。この町も、この国も……この世界も。そうすればあなたはこの世界の『主人公』になれる」


「僕がこの世界の主人公……」


「そうよ。どうかしら? 悪い話じゃないと思うの」


 夢のような話じゃないか。

 だからにわかに信じることができず、彼女にこう告げたんだ。

 

「君を信じろというなら、僕にその力を示して欲しい」


 と。

 彼女は笑みを浮かべたまま、

 

「いいわよ。じゃあ、そこで待っていてちょうだい」


 そう言い残して僕の前から立ち去った。

 そして数日が経ったが、彼女は現れなかった。

 この時は、悪い冗談だったのだろうとばかり思っていたよ。

 でも町で猟奇的な殺人が相次いだ後、彼女は再び僕の前に現れた。

 なんとその両手に、死んだ女性たちの腕を持って……。

 

「信じてくれた?」


 僕は無言で首を縦に振らざるを得なかった。

 でもそれは血のしたたる腕に恐怖を覚えたからではなくて、これから起こることへの興奮で言葉を失ってしまっただけだったんだ。

 そして彼女は続けた。


「この町から20人の人間が旅をする。あなたはそのうちの一人よ。そして黒い森を抜けた先の洋館で、あなたは最後の一人まで生き延びることになるの。そこでようやく、私とあなたは永遠の愛を誓いあうのよ」


「意外とめんどくさいんだな」


「あは。太古からの儀式だから仕方ないわ」


「分かったよ。じゃあ、注意すべき点を教えてくれるかい?」


「ええ。他のメンバーが全員死んだ後に、私があなたの生き血を吸わなくてはいけない。もし一人でも生き残っているうちに、あなたの生き血を吸ったならば、あなたはよみがえることなく死んでしまうわ。これは私でも『主人公』のあなたでも変えることができない鉄の掟よ」


「いいだろう。君が僕以外の人間を殺してくれるんだろう?」


「あはは! そうよ。私が全員殺してあげる。『殺してもいい理由』を持った人間たちを」


「そうか。ならいい。もし君の手に負えなくなったら僕が手伝おう」


「あは。意外と冷酷なのね」


「ふふ。主人公になれるなら手段は選ばないってことさ。ところで、僕以外の19人はどうやって選ぶんだい?」


「それは自由。だから、あなたにとって邪魔者を討伐団のメンバーとして選べばいいわ」


「ならば町の囚人たちから選ぶとしよう。さすがに何の罪もない人間を選ぶのは気が引けるからね」


「あら? あなたが不死のヴァンパイアになったら、この町の人々の生き血を吸うつもりなんでしょう? だったら誰を選んでも同じじゃない?」


「ははは。もしかしたら僕たちが旅に出ている間に、町民たちはこの町から離れることができるかもしれないじゃないか。これは僕から彼らにに与えたチャンスだよ。幸運をつかんだ者は、僕の作る物語の中で生き延びることができるということさ」


「あは。まだ始まってもないのに、もう主人公気取りなのね」

 

 こうして僕は他のメンバーを選び始めた。

 同時に僕たちが自然な成り行きで永遠の愛を誓えるように、ストーリーも練り上げていったんだ。

 そして最後の一人を選んだ時、アルメーヌは目を細めたのである。

 

「このイルッカって人……。善良な市民だそうね。なんで選んだの?」


「なぜって、君がさっき言ったばかりじゃないか。僕が不死のヴァンパイアになったあかつきには、この町の人々を一人残らず殺すって」


「そんな言い方ではなかったわ。……でも、まあ、当たらずとも遠からずってところね」


「もちろん僕の婚約者も殺すつもりだ。でも彼女の兄イルッカは剣闘士。今はたまたま町にいるけど、いつどこに消えてもおかしくない。もし妹を殺されたのを他の町で知れば、後々に厄介なことを起こしかねないからね」


「つまりイルッカを確実に殺すためにメンバーに選んだってことね」


「そうだよ。だから君には何がなんでも彼を殺して欲しいんだ。それから、もう一つだけわがままを言っていいかな?」


「ええ、もちろんよ」


「ナタリア、ボブ、アルヴァン。この3人だけは、最後まで生かして欲しい」


「ふぅん……。どうして?」


「ふふ。そんなの決まってるだろう。僕がこの手で殺したいからさ」


「あは。お楽しみは最後までとっておきたいってことね。いい趣味だわ」


「それはどうもありがとう。じゃあ、さっそく始めてくれるかい?」


「ええ。そうね」


「頼んだよ。まずは……。僕の父さんを殺すことからだ」

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