法則その23 『化け物を倒したつもりで勝利を喜んだ人』は殺される
◇◇
――ねえ、お兄ちゃん! 知ってる!? ホラー映画で『化け物を倒したつもりで勝利を喜んだ人』は必ず殺されるんだよ! 最後まで気を抜いたらダメってことだね! ホラー映画は人生の教訓を教えてくれるものだね。
――そうだな。ミカも最後まで気を抜くんじゃないぞ。
――はぁい! 最後までよろしくね! お兄ちゃん!
………
……
「アルメーヌちゃん。もうあきらめなさい」
俺が生き延びたことで、アルメーヌのこざかしい謀略とモーナの独演というアニメとは全く違った展開が待っていた。
それだけでも十分に驚きだったが、まさかナタリアがアルメーヌを裏切るとは……。
いったい二人の間に何があったんだ?
しかし考えている暇などなさそうだ。
「くくく……。はははは!」
化け物にありがちな高笑いをしたアルメーヌ。目は赤く光り、口は大きく裂けている。
おお、まさにヴァンパイアって感じだな。
「あわわわ……」
いつもは威勢のいいボブが、膝を震わせながら俺にしがみついてきた。
暑苦しいからやめて欲しいのだが、彼の反応こそが普通なんだろうな。
仕方ないから俺も怖がってるふりだけしておくか。
「まじかよ……。怖いな」
すごく不自然なセリフしか浮かばなかったが、この状況で不審に思っている者はいなそうだな。
結果オーライってやつだ。
一方のモーナはというと、怯むことなくアルメーヌに対峙している。
この期に及んでも主人公気分は変わらないらしい。
「ついに正体を現したわね! 覚悟しなさい!!」
――パンッ! パンッ! パンッ!
彼女は三発発砲した。
しかし銃弾はアルメーヌに届くことなく、むなしく床に散らばる。
「な、なに……」
どんなに優秀な彼女の辞書にも『化け物に銃は通じない』ということは書かれていないようだ。
――パンッ! パンッ! パンッ!
彼女はあきらめずに何発も発砲したが、アルメーヌには当たらない。
その間に、アルメーヌはゆらりゆらりと体を揺らしながらモーナに近寄っていく。
「くくく。無駄だって、まだ分からないの? 偉そうなことをベラベラしゃべってた割には意外と頭悪いのね」
「く、来るな! 化け物め!!」
――パンッ! ……カチッ。
ついに弾が切れて万事休すとなったモーナ。
そこで助け舟を出したのはアルヴァンだった。
彼はテーブルに置いてあった巨大な銃を手に取ると、低い声で言った。
「……みんな、どけ」
モーナを除く全員がドアの方へ逃げたと同時に、アルヴァンは銃をぶっ放した。
――ズドォォォン!!
モーナの拳銃による軽い発砲音とは比べ物にならないほどの轟音だ。
アルメーヌの脇腹に大きな穴が開いた。
だが彼女は不敵な笑みを崩さずに、ひたひたとモーナへ近づいていく。
「……ちっ」
短く舌打ちしたアルヴァンは素早く次の弾を装填し、狙いを定めた。
「……吹き飛べ」
――ズドォォォン!!
――ズシャッ!!
まるで高いところから熟れたトマトを落とした時のような音とともに、アルメーヌの頭部が吹き飛んだ。
自然と彼女の足が止まり、しばらく沈黙が続く。
そして静寂を破ったのはモーナの笑い声だった。
「はは……。やったわ……。ははは!! やったわよ! ついに私たちの手で化け物を倒したんだわ!」
――『化け物を倒したつもりで勝利を喜んだ人』は必ず殺されるんだよ!
あーあ、ただでさえ死亡フラグが立っているのに、もう一本増やしてしまうとはな。
――ズドォォォン!!
――ビタンッ!
アルヴァンがアルメーヌの右足を打ち抜き、胴体だけになった彼女が床にうつ伏せになって倒れる。
それを見たモーナがくるりと振り返ってアルヴァンにキラキラした目を向けた。
「ありがとう! アルヴァンさん! あなたは私の命の恩人だわ!」
……と、その時だった……。
――ズリ……。ズリ……。
部屋の中にこだます、何かを引きずる音……。
ゆっくりと振り返ったモーナ。
直後に彼女の悲鳴が部屋を震わせた。
「きゃあああああ!!」
なんと胴体だけになったアルメーヌが、床を這っているではないか。
アニメでも同じシーンがあったが、こうしてリアルで見ると、ものすごく気持ち悪いな。
「そ、そんな……」
「……ちっ」
――ズドォォォン!!
――ズドォォォン!!
――ズドォォォン!!
アルヴァンが早撃ちで三発の銃弾をアルメーヌの胴体にぶち込む。
ついに右腕だけになったアルメーヌだが、モーナに向けて一直線に進んでいた。
「……これで終わりだ」
――ズドォォォン!!
残った右腕を吹き飛ばせば終わり……。
誰だってそう思うよな。
でも、無理なんだよ。
アルメーヌという不死のヴァンパイアを人間の武器で倒すことは――。
――パシッ!
いとも簡単に素手で銃弾をつかんだのだから、それまでクールだったアルヴァンですら目を丸くしたのも無理はない。
最初からそれをやってくれれば、気持ち悪い光景を見なくて済んだのに、まったくアルメーヌという女は性格が悪い。
「なにぃ!?」
だが驚くのはまだ早い。
直後には、アルメーヌの体が修復しはじめたのだから……。
なぜか着ている服まで、みるみるうちに元通りになっていく。
そして全員が唖然としているうちに、彼女はすっかり元の姿に戻ったのだった。
「あはは! 面白かったでしょ?」
全然面白くねえよ、ととっさに答えたくなったのをぐっとこらえる。
ここで場を乱す言動は死亡フラグにつながりかねないからな。
空気を読むというのは、いかなる時も重要だ。
「あははは!! みんな、いい顔してるねぇ! あははは!!」
無邪気に笑うアルメーヌに、誰も言葉を発することができない。
そうしていよいよ彼女はモーナのすぐ目の前までやってきた。
こうなったら仕方ないな。
美女が目の前で殺されるシーンを見るのは趣味じゃない。
俺は叫んだ。
「逃げろ!!」
本来ならばモーナが殺された直後にボブが叫ぶ言葉だったが、その役割を俺がいただいたわけだ。
そしてクライヴの手を取って部屋を飛び出した。
いかなる時も、俺は主人公のそばを離れないことを心に誓っている。
「イルッカさん……」
「何も言うな! 何も考えるな! とにかく今は少しでもこの部屋から離れるんだ! 走れ!!」
あまりに信じられないものを目にして、完全に思考が止まっているクライヴを励ましながら、俺は全力で廊下を駆ける。
「ぎゃああああ! 助けてぇぇぇぇ!!」
背後で響くモーナの断末魔の叫び声を耳にしながら、この先のことを考えていた。
これであと5人か。
ここまでくると『主人公』や『ヒロイン』といった属性がなく、『冴えないモブ男』なのは大きなビハインドだ。
しかし俺にはミカがいる。
彼女との日々が間違っていなかったことを証明できれば、絶対に生き延びることができるはずだ。
そうだよな?
ミカ。
俺はお前を信じてるぜ。





