法則その21 『主人公じゃないのに主人公みたいに振るまう人』は殺される
◇◇
――ねえ、お兄ちゃん! 知ってる!? サスペンスドラマで『主人公じゃないのに主人公みたいに振るまう人』って、たいてい殺されるんだよ! ほらねっ!
………
……
討伐団のメンバーが俺を含めて6人となったところで、ついに目的地の洋館にたどり着いた。
いかにも化け物が潜んでそうな不気味なたたずまいに、クライヴが唾を飲み込む。
そりゃあ、何も知らなければビビッてしまうのは当然だ。
アニメを知る俺ですら、異様な雰囲気に胸の動悸が早まってるからな。
そんな中、メンバーたちの一歩前に出てきたのは美人弁護士のモーナだった。金髪ショートカットに切れ長の細い目、縁のないメガネ、スレンダーな体……いかにも切れ者といった風貌の彼女は、一点の曇りもなく言い切った。
「ふふ。断言する。今、この洋館の中には化け物はいない! だから恐れる必要なんてないわ!」
あまりにズバリと言い切った彼女に、思わず「ほう」と声が出てしまった。
そして彼女は俺たちを見回した後、甲高い声で続けた。
「これまで死んでいった人たちを思い返してみたの。すると『とある共通点』が見つかったわ」
今の彼女は名探偵の気分なんだろうな。
大げさな身振り手振りが見ていて痛々しい。
「共通点?」
クライヴが眉をひそめて問いかけると、モーナは小さな笑みを浮かべた。
「彼らは必ず『背中』から襲われている。つまり化け物は『私たちの前ではなく、背後からついてきている』ということになるわ」
「そうか! となれば……」
「私たちの進む先である、この洋館にはいない、ということ」
徐々にモーナの口調が弾んでいく。
彼女のテンションに乗っかるようにして、ボブが陽気な声をあげた。
「つまりみんなで館に入ってからすぐにカギを閉めてしまえば、化け物は入ってこれないっちゅうことか!」
「化け物さえ館に入れなければ、僕たちの安全は確保できる!!」
クライヴが嬉々として言うと、モーナが頬を桃色に染めながら大きくうなずいた。
そして高らかと宣言したのだった。
「私に解けない謎はない!」
まるで推理小説の主人公みたいな決め台詞だ。
あ、ちなみにお前らが締め出そうとしている化け物は、てくてくと歩いて館の中に入っていきましたよー。
そして全員が館に入ったところで、
――ガッチャン。
モーナがカギを固く閉めた。
「では他に扉がないか、確認してみましょう。それから窓にもカギをかけるの。さあ、みんなで手分けして完全な密室を作るのよ!」
うん、やはり洋館に入ったとたんにモーナは主人公のつもりらしい。
だが彼女がいくら頑張っても、クライヴの主人公ポジションは変わらないんだよな。
――『主人公じゃないのに主人公みたいに振るまう人』って、たいてい殺されるんだよ!
ミカの言葉を信じれば、これ以上の目立った行動は彼女の頭上に死亡フラグを立てるきっかけになりかねない。当然そんなことに口を出すはずもなく、俺は彼女の指示に従って2階へと進んでいく。
すると横に並んだアルメーヌがささやいてきた。
「モーナお姉ちゃんよりも、おじちゃんの方が年上なのに、お姉ちゃんの言いなりだなんてカッコ悪いなぁ」
言うまでもなく挑発だ。乗るわけないだろ。
「カッコ悪くてけっこう。狂った化け物に殺されるくらいなら、泥をすすってでも生き延びてやる」
「ふーん。そうなんだぁ」
「いいから、あっち行けよ。おまえは1階のキッチンの担当だろ」
しっしと手で追い払うと、彼女はつまらなそうに下唇を出して背を向けた。
なんだ? 意外と素直だな。
そして彼女はぼそりとつぶやいた。
「……おじちゃんは、なんでそこまでして生きたいの?」
「はあ? 人間ならだれでも『生きたい』って思うのは当たり前だろ?」
「ふーん。私にはよく分かんないわ」
ことのほか湿った口調だな。
調子が狂っちまうだろ。
仕方ない。ここは冗談でも吹っ掛けて、怒らせてみるか。
「だったらおまえは『死にたい』のか?」
アルメーヌはピタリと足を止めたが、こちらを振り返ろうとはしない。
きっと怒りで打ち震えているんだろうな。
さあ、いつでも罵声を浴びせてきやがれ。
しかし彼女の口から出た言葉は、さらに意外なものだった。
「それも分からないわ」
「はっ?」
あっけに取られているうちに、彼女は早足に1階へと消えていく。
「なんだよ。いったい……」
俺は彼女の小さな背中を見つめながら、胸のうちへ沸き上がってきたモヤモヤした気持ちに戸惑っていたのだった。
………
……
「これでこの館は密室になったわけね!」
全員が集まったところで、モーナが高い声を上げた。
真っ赤な絨毯の上に、どこまでも続く長いテーブルが置かれたこの部屋はリビングだ。
「ここを私たちの拠点としましょう」
相変わらず彼女が仕切っているが、クライヴをはじめ誰も口出ししようとしなかった。
こういう異常事態の時は、誰かに指示された方が楽だからな。
「まずは、灯りの確保よ」
天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアは使い物にならなそうだ。
部屋の四隅に燭台が置かれており、そのロウソクに火をともして、最低限の灯りを確保した。
「次にドアのカギを閉める。最後に、化け物が部屋に乱入してきた時の備えとして、みんな武器をテーブルに置いておきましょう」
万全な体制を敷いたつもりなんだろうが、化け物はすでにこの部屋の中にいるんだよな。
それを知っているのは俺とナタリア、そしてアルメーヌ本人だけだ。
俺はちらりとナタリアに視線をやった。
すると彼女は二コリと微笑み返してきた。
ん? なんだ?
彼女の笑みから今までのような嫌な感じがしないのはなぜだ?
……とにわかに困惑した時だった。
「ふふ……。ふははは!」
なんとモーナが大笑いを始めたのだ。
そして彼女は懐に隠し持っていた銃を取り出して、俺たちに銃口を向けた。
「両手を上げなさい! 早く!!」
すさまじい剣幕だ。
俺たちは訳も分からないまま彼女に従わざるを得ない。
「モーナ!? 冗談やめろって!」
ボブがヘラヘラして言うと、モーナは天井に向けて発砲した。
耳をつんざく銃声に、さすがのボブも顔を引きつらせている。
そして彼女はマシンガンのように早口でまくし立ててきたのだった。
「観念しなさい! この中の誰かが化け物であることは分かってる!」
なるほど。
この部屋を密室にしたのも、全員の武器をテーブルに並べさせたのも、すべては化け物を封じ込めるためだったってことか。
さすがはやり手の弁護士さんだ。
彼女はプライドが異常に高く、勝利にこだわりすぎるところが欠点、と設定資料集には書いてあった。
とある殺人事件の容疑者を担当した時に、圧倒的に不利であるとさとった彼女は、あろうことか警察側の不正な取り調べをでっちあげた。
それを厳しく追及して無罪を勝ち取ったのだが、その後、彼女の不正が暴かれたらしい。
つまり「負けるくらいなら手段を選ばぬ」という苛烈な性格が災いしたわけだが、それは今も変わっていないようだ。
「私に解けない謎はない!!」
そう高らかと宣言するのはいいが、果たして謎を解く暇をアルメーヌが与えてくれるのかね?
彼女の頭上には、すでに漆黒の死亡フラグがはためいている。
これもアニメとまったく同じ展開だ。
この後すぐにアルメーヌがモーナに襲いかかって、ついに彼女の正体がみんなに明かされるんだったな。
だから俺はこの時すっかり油断していた。
そして忘れていたのだ。
アルメーヌがもっとも殺したい相手。
それは俺、イルッカであることを……。
「この中に化け物はいる! もう逃げ場はないわ! 大人しく出てきなさい!!」
灯りは広い部屋の四隅にあるから、さすがのアルメーヌでも瞬時に全部を消すのは不可能だろう。
となると正体を明かしながらモーナに襲いかかるしかないわけだ。
さあ、どうするよ?
アルメーヌちゃん。
俺は口元にかすかな笑みを浮かべながら、アルメーヌをちらりと見た。
しかし彼女は顔を引きつらせた演技をしたまま、まったく動じていない。
その様子にただならぬ悪寒を感じた。
いったい何を考えてやがる……。
すると彼女は一瞬だけ見せたのだ。
見た者を震え上がらせるほどの冷たい微笑みを。
しまった!!
そう直感した時は、もう遅かった。
「モーナお姉ちゃん!! 実は私、化け物の犯人を知ってるの!! でも『口に出したら殺す』って脅されていて、ずっと言えなかったの!!」
名乗るどころか化け物を誰かになすりつけにきたか!
その相手は言うまでもない。
「それはイルッカおじさんだよ!!」
彼女は俺の顔を凝視してきた。
みんなの注目も自然と俺に集まる。
「イルッカさん。あなたなの?」
モーナが穏やかな声で問いかけてきたが、目は血走ったまま。
銃口もしっかりと俺の胸に向いている。
ここにきてアルメーヌの策略が見事にはまったわけだ。
俺は自分の頭上を確認した。
その瞬間に、全身から汗がぶわっと噴き出してきた。
なんと……。
死亡フラグが立っているじゃないか……。





