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法則その19 (ストーリーの中盤以降で)『役に立たない人』は殺される

◇◇


――ねえ、お兄ちゃん! 知ってる!? ホラー映画って中盤までくると、『役に立たない人』は死ぬんだよ! これ以上は残しておいても意味がないからだと思うの! ほらねっ!



………

……


 さて、いよいよ『黒い森』を抜けて、洋館までもう少しとなったわけだが、ここまで生き残っているのは7人だ。

 それぞれどんな人物か、整理しておこう。

 

 まずは俺。イルッカ。妹のセルマが主人公のクライヴの婚約者だが、本人にこれといった特徴はない。冴えないモブ男。

 

 次に主人公のクライヴ。臆病なところがあったが見事に克服し、討伐団を引っ張るリーダーを担っている。

 

 ヒロインのナタリア。本性は性悪女だが、彼女の素性を知る者はすべて殺されており、表向きはメンバーたちを励ます重要な立場。

 

 クールなヒットマン、アルヴァン。彼の持つ銃の破壊力はちょっとした扉なら吹き飛ばすほど強力だ。

 

 冷静沈着な美人弁護士、モーナ。彼女の優れた洞察力と推理力は、メンバーが迷いそうな時に力になっている

 

 ひょうきんなコメディアン、ボブ。暗くなりがちなメンバーたちを持ち前のギャグで明るくしている。


 ゴッドハンドの異名を持つ元名医、エドワルド。すでに70を超えるご老体だが、彼いわく「腕は鈍っておらん」そうで、仲間たちは大いに信頼している。

 

 以上、7人だ。

 

 では、お気づきだろうか……。

 この7人の中で、ひとりだけ全くの役立たずがいることを……。

 

 言うまでもなく、俺、イルッカだ。

 

――『役に立たない人』は死ぬんだよ! これ以上は残しておいても意味がないからだと思うの!

 

 ミカの言葉が胸にグサリと刺さる。

 そしてアルメーヌがちょっかいを出してこなくなったのも、このまま放っておいても俺に死亡フラグが立つことを知っているからだろう。

 その証拠にチラチラ俺を見る時に、興奮で鼻が大きく膨らんでいる。

 分かりやすい少女だ。

 だがそう易々と死亡フラグを立ててたまるか。

 ただ、こればかりは小手先では回避しがたい。

 つまり彼らと同等か、それ以上に『役立つ人』でなくてはいけないということだ。

 

「さて……。どうしたものか……」


 今さら気付いたのだが、季節は夏。

 木々の間から俺たちを照らす太陽の光は痛いくらいだ。

 ただでさえ寝不足に加え、今日は朝から歩きっぱなし。

 油断すれば思考が止まりそうになってしまうところを必死に頭の中を回転させていた。

 

「俺がここにいるメンバーよりも役立つことを証明するためには、彼らの得意とする分野で俺の方が優れていることを示さねばならない、ということか……」


 主人公とヒロインという特殊な属性を覆すのは、現時点では不可能だ。

 となれば俺に与えられた選択肢は4つか。

 

(1)アルヴァンの持つ銃に勝る火力を見せつける

(2)モーナの推理力に勝る名探偵ぶりを見せつける

(3)ボブの持ちネタに勝る一発ギャグを見せつける

(4)エドワルドの知識に勝る応急処置を見せつける


 まず『(1)アルヴァンの持つ銃に勝る火力を見せつける』だが、これは物理的に無理がある。

 彼が持っているのは『破壊力抜群の銃』で、俺の持っているのは『威力の弱い弓』だからだ。

 

 では『(2)モーナの推理力に勝る名探偵ぶりを見せつける』はどうか。

 これもすぐに行うのは無理がある。この状況でどんな推理を披露すればいいのか分からないし、そもそも俺はミステリーで犯人を当てることができた試しがない。現に『キーピング・ザ・デッド』でも最後まで生き残るのはボブだとばかり思っていたくらいだからな……。

 

 となると『(3)ボブの持ちネタに勝る一発ギャグを見せつける』か……。

 できればしたくないが仕方ない。

 ちょうどみんなが静かになったところだ。

 よ、よし! ひるんでいる場合じゃないよな!

 

――ダダッ!


 俺はみんなの前に躍り出た。

 そして彼らが目を丸くする中で、地面に寝転び、手首をくいっと曲げたのである。

 

「にゃー」


 可愛らしい声で鳴きまねをした後、精いっぱいお茶目な声で言った。

 

 

「みんなの前で、猫が寝転んだにゃ」

 

 

「……」

「……」

「……」

「……ぷっ……」

「……」

「……」

「……」


 まずい。まずい。まずい!!

 

 一人を除いて、全員が真っ白な顔をしているではないか!

 まるでかわいそうな人を見るような目つきで、俺を凝視している。

 しかし、そんな中にあって、唯一顔を真っ赤にして笑いを押し殺しているのはアルメーヌだ。

 あいつにだけは渾身のギャグが通じたらしい。

 もしあいつを爆笑の渦に巻き込めば、雪崩のように場が笑いに包まれるはずだ。

 こうなりゃ、もう一押し!

 

「にゃんとも言えない空気になってしまったにゃ」


「……」

「……」

「……」

「……ぷぷぷっ……」

「……」

「……」

「……」


 ぐぬぬっ!

 余計に場は寒くなってしまったが、アルメーヌだけには深いダメージを与えたようだ。

 頬をぷくりと膨らませながら必死に口を押えている。

 早く楽になっちまえ、と念をこめて視線を送る。

 しかし彼女は涙目で首をぶるぶると横に振って、なんとかこらえていた。

 こうなりゃもう一発だ!

 

 ……と、その時だった。

 

「まさかのイルッカさんの捨て身のギャグ! 猫だけにキャッと驚いたぜ! ギャハハハ!」


 コメディアンのボブが大笑いしながら前に躍り出てきたのだ。

 そして俺の上に覆いかぶさり、こっそり耳打ちしてきた。

 

「イルッカさん。俺に任せてくれ。俺がみんなを笑顔にしてみせる」


 違う! それではダメなんだ!

 

「イルッカさんを男にするのは……俺、ボブだ」


 ボブは親指を立てながら出っ歯をキラリと輝かせている。

 だから違う!

 それでは俺は『男』ではなく『死体』になっちまうだろうが!

 しかし俺の悲痛な思いなど伝わるはずもなく、彼は持ち前のギャグを惜しみなく披露し始めたのだった。

 

「野良猫の上に乗らねー子。だから首根っこつかんで、ねっこ退場! ギャハハハ!!」


「あはははは!!」


 意味が全く分からないが、クライヴをはじめ全員がゲラゲラと笑っている。

 彼らの様子を冷めた目で見ながら、俺はボブに首ねっこをつかまれて退場していった。

 

 この展開はまずい……。

 

 アルメーヌが「ざまぁみろ」と口を動かしているのが見える。

 

 ああ、これは本気でヤバいかもしれない。

 俺はあきらめに近い感情を抱いていた。

 ……だが、幸運の女神は、まだ俺を見捨ててはいなかったのである。

 

――バタッ……。


 なんとナタリアがその場で倒れたのだった――。

 



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