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法則その16 『俺の命をかけて、みんなを守る!』ってセリフはタブー

◇◇


――ねえ、お兄ちゃん! 戦場で『俺の命をかけて、みんなを守る!』ってセリフはタブーだよ! 本当に命をかけて仲間を守ることになっちゃうからね!


………

……


 二人の仲間が目の前で殺されて、もはや戦意喪失と化したメンバーたち。

 そんな中、主人公のクライヴが言葉を絞り出すように言った。


「もうこうなったら前に進むしかない」


 進むも地獄、引くも地獄、といった感じだな。

 しかし引いた瞬間に殺されちまうんだから、前に進むしかない。

 他のメンバーたちは渋々うなずく。それを見たナタリアが緊迫感たっぷりに号令をかけた。

 

「どこから襲われてもいいように武器を手にしながら進みましょう」


 よくもまあ、白々しく演技ができるものだ。

 もっとも俺も人のことは言えた身ではないが……。

 

「なんだよ! いったい俺たちが何をしたって言うんだよー!!」

「来るな! こっちへ来るな!!」


 既に半狂乱となっている人々もいる。

 しかしこんな時こそ冷静かつ目立たぬように行動することが肝心だ。

 俺はクライヴとナタリアの背中を黙ったまま追いかけた。

 ここから洋館まではおよそ半日の距離だ。

 すでに空は夕焼けに染まっている。

 そこで俺たちは寝泊まりできそうな安全な場所を探すことになった。

 しかしここでアニメとは異なる展開が待ち受けていようとは……。

 それは地面から響く車輪の音から始まった。


「馬車か!? こっちへ近づいてくるぞ」


 メンバーの声に俺たちは音のする方を向いた。

 すると森の奥から聞き覚えのある声が響いてきたのだ。

 

「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 アルメーヌだ。

 なんと馬車に乗って戻ってきたではないか……。

 

「アルメーヌ!」

「アルメーヌちゃん!」


 クライヴとナタリアが大げさな身振りで彼女を迎えた。

 いったい何のために姿を現したのか。

 その疑問を俺の代わりにクライヴがぶつけた。

 

「アルメーヌ! なんで戻ってきたんだ!? 町に残っていれば安全だったのに!」


 だが彼女の答えは俺の期待通りではなかった。


「何を言ってるの!? 私もみんなと同じ仲間でしょ!? 私だけ一人で安全なところに隠れてるなんてできるわけないじゃない!」


 むしろお前が町に残れば、町の人々の安全が脅かされるというものだ。

 ……と、つっこみを入れたいところだが、そうもいかない。

 ここはアニメで言えば感動のシーンだからな。場を乱せば、即死亡フラグに間違いない。

 

「アルメーヌちゃん! あなたのことは私が絶対に守るわ! この命をかけても!」


 ナタリアが宣言したのを皮切りにメンバーたちが続いた。

 

「俺もだ! 命がけで君を守る!」

「俺もこの命にかえてでもアルメーヌを守る!」


 こういうシーンで『命をかける』と軽々しく発言するのはNGだとミカが言ってたな。

 

――戦場で『俺の命をかけて、みんなを守る!』ってセリフはタブーだよ! 本当に命をかけて仲間を守ることになっちゃうからね!


 周囲に流されて俺も口にするところだった。

 危ない、危ない。

 それでも何も言わないわけにもいかない。

 どうしたものか……。

 そう悩んでいるうちに、アルメーヌが真っ赤に腫らした目をこちらに向けてきた。

 

「おじちゃんは……? おじちゃんも命をかけて私を守ってくれる?」


 おいおい。

 弱々しい声からは想像もつかないくらいに、瞳がギロリと光ってるじゃないか。

 まるで獲物をとらえた蛇のようだ。

 その目を見た瞬間に、彼女が戻ってきた理由を確信した。

 

 それは俺、イルッカを確実に死に追い込むためだ。

 きっと俺がクライヴに死亡フラグを立てようとしたことが、彼女の逆鱗に触れたのだろうな。


――これからは容赦しないぞ。


 ……と目で訴えてきている。

 なるほど。面白い。

 ならば俺も本気でかわし続けるだけだ。

 

「ああ、やれるだけやってやるさ」


 アルメーヌが他人には見えないようにニタリと笑みを浮かべる。

 そして止めを刺すように、念を押してきた。

 

「じゃあ、おじちゃんも私を守るためなら命をかけてくれるのね?」


 引っ掛かったな、と言いたいのだろうが……。

 残念だったな。

 俺はてめえの浅はかな策略にはまるほど甘くないんだよ。


「いや……。俺は自分の命を大事にする」


 予想の斜め上をいく言葉に、それまでの感動が嘘のように場が鎮まった。

 アルメーヌですら目を丸くしている。

 しかし、ここがチャンスとばかりに横やりを入れてきたのはナタリアだった。

 

「イルッカ! あんた……!」


 仲間のために必死の想いで戻ってきたアルメーヌちゃんに何て酷いことを言うの?

 とでも言って、俺を孤立させるつもりだろ。

 させるかよ!

 俺は絶対に生き延びるんだ!


「人の話は最後まで聞け!!」


 普段口数の少ないイルッカの一喝にナタリアの口が閉じた。

 俺はぐっと表情を引き締めて続けた。


「俺だけじゃない。ここにいる全員に、自分の命を大事にして欲しいぜ。みんなで化け物を退治して、みんなで生きて帰る。それが俺たちの目標じゃねえのか?」


 メンバーたちは、雷にでも打たれたかのように口を半開きにして俺を見つめている。

 そんな中、クライヴが強い口調で俺に続いた。

 

「イルッカさんの言う通りだ! みんな! 自分の命を大事にしよう! ここにいる全員で生き延びるんだ!」

「おおっ!! そうだ! その通りだ!!」


 いっせいに沸き上がるメンバーたち。

 その一方でアルメーヌとナタリアの二人は、ひくひくと頬を引きつらせている。


『ざまぁみろ』


 俺は声には出さず彼女たちに向けて口を動かしたのだった。

 


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