法則その13 死亡フラグを立てた人の隣にいるだけでも危険
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……
「このメンバーの中には化け物はいないと信じている。もし誰かが化け物だとしたらすぐに襲いかかってこない理由も分からないしね!」
俺に気を使ったクライヴが声高に告げたことで、俺は孤立しないですんだ。
彼には感謝せねばならないが、妹を裏切るようなことをしたらタダじゃすまない。
実際にアニメでは妹を裏切っただけでなく、その命を奪うのだから、完全に敵だ。
だから俺の彼に対する警戒は弱まることはなかった。
何はともあれ、孤立しなければ『冴えないモブ男』の俺が死亡フラグを立てる要素はないからな。
難なく『黒い森』までたどり着いたわけだ。
アルメーヌが「ちっ」と舌打ちしているのが目に入ってくる。
そこで俺は声には出さずに「ざまぁみろ」と口元を動かして彼女にに見せつけてやった。
「むむぅ!」
アルメーヌはスカート姿で地団駄踏んでいる。
足を上げるたびに白いパンツが見えているが、化け物のパンツなぞに興味はない。
そこで俺は森の方へ目を向けた。ずっと先に塔がそびえ立っているのが見える。
とそこに、
「あれが目的の洋館か。なんか高価なもんが仰山ありそうだな」
隣に並んできた中年が声をかけてきた。
実際に見えているのは、目的の洋館の隣に建てられた監獄塔なのだが、ここで細かいことを指摘しても意味がない。
「ああ、そうかもな」
「がはは! お前もそう思うか!」
声からしてがめつそうな男だ。
誰なのかを確かめるために、ちらりと彼の横顔を見た。
確か……彼の名はグレンだったか。
俺は引き続き彼の頭上に目をやった。
「ん? どうした? 俺の頭に何かついているか?」
「いや、なんでもない」
グレンが不思議そうにしている一方で、俺はホッと胸をなでおろした。
なぜならまだ彼の頭上には死亡フラグが立っていなかったからだ。
なにせ背中でパンツを見せながら地団駄を踏むサイコパス少女は、平気な顔してこう言うからな。
――黒い旗を立てた人の隣に立ってるだけで殺す理由になるんだよ。
ってな……。
理不尽にもほどがあるだろ。
ちなみにアニメで次に死亡フラグを立てるのはグレンだ。
そんなことなどつゆとも知らず、グレンはよく肥えた腹を抱えて大笑いした。
「あの洋館には宝がある! 俺の勘は良く当たるから間違いないさ。それを元手にして一緒に商売をやろう! なっ? いいだろ? 俺についてくれば一攫千金は間違いないからさ! がははは!」
ちなみに彼は商売に失敗した上に、身寄りのない従業員たちを養子にした上で、保険金をかけて殺害した鬼畜だ。
性懲りもなくまた同じことを繰り返そうとしているらしい。
せいぜいあの世で商売でもやるんだな。
……と、その前に一つイベントがあったな。
すっかり忘れてた。
ふと前方に注意を向けるとクライヴの悲痛な声が聞こえてきた。
「アルメーヌ! 本当にこんなところで君は町に帰るというのかい?」
「うん。だって誰かが長老様たちに今の状況を伝えなくちゃならないんでしょ?」
「ああ、しかし……」
「だったら私が行ってくる! それに私の役目は『黒い森』までの案内だもの」
そうそう。アルメーヌがここで離脱するのだ。
よくよく考えたら化け物が襲ってきた洞窟を通らなきゃならない道のりを、少女一人で帰すというのは無理があるだろ。
だがそんな真っ当な理屈を考えているほどの余裕がここのメンバーにあるはずもない。
なにせいつ背中から化け物が襲ってくるとも分からないんだからな。
誰かが町に戻って、長老たちへ増援を頼みにいくというのはごく自然な成り行きというものだ。
だが言うまでもないが彼女が町に戻るなんて真っ赤なウソだ。
真実は俺たちの後ろをつけ狙い、死亡フラグを立てた者を容赦なく死へ追いやる。
そのためのカモフラージュにすぎないのだ。
そしてナタリアだけはそれを知っているというわけだ。
しかし、
「アルメーヌちゃん! 危なくなったらすぐにこっちへ戻ってくるのよ!」
ナタリアは涙を流しながらアルメーヌの小さな手を握った。
アルメーヌもまた涙を流している。
「お姉ちゃん! 私……怖い……。でも私頑張るから!」
美女と美少女のやり取りに誰もが目頭を熱くしているが、当然俺は違った。
よくまあ目薬もないのに嘘泣きができるもんだ。呆れを通り越して感心してしまう。
「じゃあね! お兄ちゃん! お姉ちゃん! 助けを呼んだら必ず戻ってくるから! それまでは絶対に死なないでね!」
お前がそれを言うか。
みんなに向かってブンブンと手を振るアルメーヌ。俺も他の人々にならって手を振った。
とにかく不自然な行為は即死亡フラグへつながるからな。
「アルメーヌ! 僕たちのことは心配しないで! イルッカさんもいるし!」
おい、クライヴ。余計なことは言わないでいい。
「そう言われたらそうだったね! でもおじちゃんが化け物かもしれないから気をつけてねー!」
あいつ! なんてこと言いやがる!
みんなが見る目がどことなく冷たくなったじゃないか!
「じゃあ、バイバイ!!」
アルメーヌはくるりと俺たちに背を向けて立ち去っていった。
もしこの手に銃があればヤツの背中をぶち抜いてやりたいが、不死のヴァンパイアだから無駄か。
むしろ化け物に引き金を引いた愚か者として死亡フラグを立てることになるだろうな。
「では僕たちも行こう!」
クライヴの一声で俺たちは視線を森に向けた。
今は俺を含めて生き残っているのは11人。
アニメでは洋館にたどり着けるのはわずか5人だった。
当然俺は生き残ると心に決めている。
たとえどんな手を使ってでも……。