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法則その11 『うまい話』は十中八九フェイク

◇◇


――ねえ、お兄ちゃん! 知ってる!? ホラー映画で『うまい話』は十中八九フェイクで、それを信じちゃった人は死んじゃうんだよ! ほらね!


………

……


 バーゼルが殺された。

 これで俺たちのチームは残り7人だ。

 果たしてこのうち何人が無事に洞窟を出られることやら……。

 しかし今言えることは、現時点でもっとも『死』に近い人物は俺、イルッカだということだ。

 なぜなら俺は背後にいる人物からすさまじい殺気を向けられているのだから……。

 

「ちょっと! こっち見てないでしょうね!! ちょっとでも振り返ったらぶっ殺すわよ!」


 その人物とはナタリアだ。

 俺の背中に彼女の金切り声が突き刺さった。

 

「見るわけねえだろ。俺は命が惜しいんだ」


 今は二回目の休憩時間。

 

――トイレに一人で行くのはやめよう!


 ナタリアの提案でそうなったわけだが、誰も彼女と一緒に行きたがらない。

 そこでなぜか俺が強引に連れ出されたわけだ。

 誰が好き好んで性悪女の恥ずかしい恰好なんて見るものか。

 そんなことをしたら躊躇なく彼女は俺を刺し殺すだろう。

 

「おい、まだ終わんないのかよ?」


「なっ! あんたレディに向かって何てこと言うのよ!! ぶっ殺すわよ!!」


「へいへい、すみませんでした」


 なにがレディだ。

 本物のレディはそんな汚い言葉を使わないっつーの。

 

「お待たせ!」


「じゃあ戻るぞ」


「ちょっと! こういう時は、『全然待ってないさ』って言うのがジェントルマンのたしなみでしょ!」


「へいへい、すみませんでした」


「あと、あれよ! これは内緒だからね!」


「はあ? 誰に何を内緒にしなきゃなんねえんだよ」


「ば、ばか!! クライヴに決まってるでしょ! 私がトイレじゃないところで用を足したっこと!!」


 ああ、めんどくせーな。

 だがそれを顔に出そうものなら逆上しかねないからな。

 あくまで無表情にモブ男を貫くだけだ。

 

「ねえ、そう言えば知ってる? ヴァンパイアの呪いから身を守る方法があるって噂」


 この展開はまさか……。


――ホラー映画で『うまい話』は十中八九フェイクで、それを信じちゃった人は死んじゃうんだよ!

 

 だがナタリアに死亡フラグが立っていない。

 じゃあ、もう少し深く聞いてみるか。

 

「どういう噂だ?」


「ふふふ……」


 ナタリアは右手の親指と人差し指で円を作っている。

 この女……。

 今の状況で情報料をせびるつもりか。

 まあ、いい。

 金なんて必要ないから、いくらでもくれてやる。

 俺はカバンから金貨を取り出した。

 それをひったくったナタリアは声を低くして続けた。

 

「この洞窟でしか取れない『金のリンゴ』をまるまる一つ食べた人は、いかなるヴァンパイアの呪いにも耐えられる、って伝承なの」


「金のリンゴだぁ? リンゴの木が洞窟にあるわけねえだろ」


「ふふふ。信じられないなら信じなきゃいいわ。私だって本当に『金のリンゴ』がこの洞窟にあるなんて、にわかに信じられないもの。あ、でも金貨は返さないわよ」


 ナタリアは計算高い女だから、実際にモノを見ないことには信じないに決まっている。

 だからまだ彼女の頭上には死亡フラグが立っていないということか。

 

「そうだな。俺も信じられん。『金のリンゴ』なんて見たことねえしな」


 そう口では言ったものの、俺は確信していた。

 『金のリンゴ』は絶対に見つかる、と。

 

………

……


 それは俺の推測どおりだった。

 洞窟内で見つけた違和感だらけの小部屋。

 その小部屋にポツンとある机の上に『金のリンゴ』が一つだけ置かれていたのだ。

 アルメーヌを除く全員の目の色が変わった。

 つまり全員が『金のリンゴ』の噂を知ってるってことか。

 そしてその噂の出どころはナタリアだろう。

 

「あれが噂の金のリンゴね。あれをまるまる一個食べた者はヴァンパイアの呪いを受けなくなる……」


 口火を切ったのはナタリアだった。

 次の瞬間、小さな部屋の中に男たちが殺到した。

 あっという間に部屋の外には俺とナタリア、そしてアルメーヌの三人だけになる。

 

――ホラー映画で『うまい話』は十中八九フェイクで、それを信じちゃった人は死んじゃうんだよ!


 ミカの言葉が脳内で何度もリフレインしていた。

 

「離せ! こいつは俺のもんだ!」

「うるせえ!! 俺が最初に見つけたんだ!」

「これは俺が食うんだ!」


 一歩引いて見ている分には実に滑稽な光景だが、本人たちはいたって本気だ。

 ついに彼らは互いに武器を向け始めた。

 

「おい、おい……。てめえら。本気でやるつもりか?」

「や、や、やめろよ! みんな! こんなことして何になるんだよ!」

「そう言うお前こそ武器をおろせよ!」

 

 気づけば部屋の中の全員に死亡フラグが立っている。

 ちらりと横を見ると、ナタリアとアルメーヌがニタニタしながら彼らの様子を眺めていた。

 

 なるほどな……。

 つまりそういうことか。

 

 ナタリアとアルメーヌはつながっている――。

 

「あはは! おじちゃんは行かなくていいの? 金のリンゴだよ!」


 白々しくアルメーヌが声をかけてくる。

 ここで俺に与えられた選択肢は3つだ。

 

(1)金のリンゴの争奪戦に加わる。

(2)アルメーヌとナタリアの仕掛けた罠であることを暴露して仲間割れを止める

(3)そっと部屋の扉を閉める


 ……考えるまでもないな。

 

――バタンッ。


 俺は静かに扉を閉めた。

 次の瞬間から男たちの叫び声と怒声が響きだす。

 つまり『フェイクのリンゴ』を巡って凄惨な殺し合いが始まったということだ。

 仮に最後の一人まで残ったとしても、死亡フラグは消えないだろう。

 そして止めをさすのはアルメーヌってことだ。

 そばに寄ってきたナタリアが耳元でささやいた。

 

「意外と薄情者なのね」


 それをお前が言うな。

 ……と口に出すこともなく、アルメーヌが部屋に入ってから戻ってくるまで、俺は無表情のまま扉の前で立っていたのだった。

 

 これで死者は9人。

 生き残っているのは俺を含めて11人か……。


 それよりも今は自分の心配をしなきゃいけないな。


「さあ、そろそろ行きましょうか?」


「あれぇ? おねえちゃんは金のリンゴはいらないの?」


「ふふ。私は根も葉もない噂を信じるような馬鹿な女ではないの」


「あはは! そっか! じゃあ、先を進もう。……邪魔者はあと一人だしね」


「ふふ。そうね、あと一人ね」


 ああ、すでに生きた心地はしねえな。

 こいつら二人と先を行かなくちゃいけないんだから……。


 



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