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サイコパス男の娘、話を聞く


『神主様、愛澄くん来ませんね』


「そうじゃのう、こりゃぁワシらだけで飯のようじゃ」


『愛澄くん、どこに行ったんでしょうか。心配です……』


「あのチビを心配だなんて、涼子ちゃんは優しいのう」


『愛澄君、もしかして森へ出て迷子になったんじゃ……それでそれで、熊とか、野犬とかに襲われたんじゃ……!?』


「熊もアレの肉は食いとうないと思うがのう」


『もう、神主様は心配じゃないんですか!?』


「心配は心配じゃな。……あやつに巻き込まれた哀れな人間が」


『神主様?』


「まああのガキのことは心配せんでいい! 涼子ちゃん! はようワシと二人っきりで飯を食おう! のう!」


『ほ、本当にいいんでしょうか……?』


               ■ ■ ■


 陽国フォーマルハウト、陰国カダス。


 この2国は正反対で、敵対関係にあるらしい。


「えーっと、簡単に言うと、お日様のほうが幸せの国でー。お月様のほうは貧しくて不幸の国―ってこと?」


「……まあ。いろいろ言いたいこともあるが、そうだ」


 森の奥。


 パチパチとたき火をしながら、ライちゃんにこの世界の話を聞いていた。


「この人はフォーマルハウトの人で、ライちゃんがカダスの人なんだね」


「そうなるが……お前、なんでソイツを連れてきたんだ?」


 ソイツ、というのは魂を握りつぶされた勇者様のことである。僕が背負ってここまで運んできました!


 絶賛失神中です!


「だって! こっちの人も面白そうな駒の匂いがしたんだもんっ!」


「可愛いこぶるなら可愛い内容を言え」


 怒られた。


「それに、いろいろ役に立つと思うし?」


「お前が言うとそいつが哀れに思えてきた……」


「僕が男だってのも知らずに、可哀想だよねえ」


「ああ……って、……はぁああああ!?」


 バサバサッ、と驚いた鳥さんが羽ばたく。


 僕もちょっとびっくりしてしまった。びっくりびっくり。


 一番びっくりしてるのはライちゃんなんだろうけど。


「おま、え、なん、おと、男って、あの、男か!?」


「うん。ついてるよ? ほら――」


「見せなくていい! 見せなくていいぃいい!」


「そう?」


 顔を真っ赤にしている。さっきより若干距離感が広がってしまった。


 うーん?


「安心してよ。僕はおっぱいの大きくない人には興味ないから」


「すがすがしいほど最低だな……」


 神社の涼子ちゃんは好き。巨乳だから。でも。


「ライちゃんみたいなまな板とか、正直、性を感じないから」


「私のコンプレックスをズダズダに言うな!」


 じゃあやめるかあ。


「……私は、フォーマルハウトの人間を受け入れる気はない」


「へえ、じゃあ殺す?」


「っ」


「それはしないんだ。ふうん?」


「お前が極端すぎるんだ……! お前の元いたところじゃそれが普通だったのか……、恐ろしい世界だ

な……」


 誤解を受ける現代日本。


 そういえば。


「さっき村を見て思ったんだけど、カダスって障碍者が多い? なんか刻印とかゆってたし、なんか関係ある?」


「……そうか、お前の世界には刻印はなかったのか」


 ライちゃんは薪をくべて魚を焼く。僕はその辺にあった果物を焼いてみる。


「カダスに生きる人間は、二種類いる。カダスで生まれたものと、フォーマルハウトで生まれながら、その身に悪魔がいるからと、カダスへ追放されたものだ」


「その身に悪魔が、って?」


「色々ある。悪魔を身に宿した者には、罰が与えられるからな」


 パチパチっと弾ける音。芳ばしい香り。


「具体的には?」


「親を持たないのに生まれた子は悪魔の子だ。女神の加護を受けられずに、目や耳が聞こえなかったり体が動かない者も、悪魔が巣食うと言われている。あとは野蛮な行為で法を犯した者は悪魔に取りつかれているし、重い病を患ったものは悪魔に精神を乗っ取られる」


「ほう」


 悪魔ねえ。確実に僕の中にも巣食ってるだろうね。


「アクマさんは、生まれつき刻印が体についてるの?」


「いいや。見つかり次第、焼き鏝で刻まれる」


「……おやおや?」


 なんだか妙な話だなあ。

 だって。


「なんでその場で殺さないの?」


「かつてはその場で処刑されていたらしい。だが、刻印を受けながら国外に逃亡した者たちでできた国

家、今のカダスが建国されてから、協定が結ばれたんだ」


「『焼き鏝じゅわーしたら、こっちが受け入れるから、逃がしてあげて~』協定?」


「ああ。カダスの賢王、ロキ様のおかげで、私たちはこうして暮らせている」


「ふぇ~」


「なんだその返事は」


 なんだかどうも。どうも僕にはなじめないなあ。


 悪魔、悪魔ねえ、うーん。


 その協定は一番妙だなあ。


「カダスの人たちはじゃあ、悪魔なの?」


「……お前は怖いくらい素直に問うな」


 ライちゃんは、目を細めながら、小さくうなずいた。


「だが、だがな! 悪魔にも、心はあるんだ。互いに慈しみ、虐殺に怯え、手を取り合う。それを、

フォーマルハウトに人間は、悪魔だからと、蹂躙する!」


「へえ」


「興味がないんだな、わかった」


「あー怒んないでしょー」


 焼き林檎を齧りながら、うーん、と考えてみる。


 まあ、ゴブリン扱いされてるんだろう。わりとゲームの勇者とか、人型でもすぐ殺して経験値にするか

らなあ。


 魔人は人にあらず、殺してよし、みたいな。そういうこと?


 うーむ。


「協定の中には、カダスに攻め込まないようにとかないの?」


「ああ、ない。揚げ足を取るように連中は我々を殺すのだ。殺人狂どもめ。我々が悪魔だというのなら、連中は鬼だ」


「ほーん」


 うーん。これはどういうことなんだろうなあ。


 そんなんなら、やっぱり焼き鏝じゃなくて首を撥ねればよくない? なんでそんな協定を結んだ?


 ってか、協定結べるような対等な関係じゃなくない? フォーマルハウトに、メリット一切ないじゃん。


 んー。


 いまいち、情報が少なすぎて全容がつかめない。


「なんでフォーマルハウトの人はカダスの人を殺すの?」


「そんなの快楽のために決まっている! 連中は我々をストレス解消の道具としかおもっていないんだ!」


 得られる情報も、なんだか偏った意見なんだよなあ。


「じゃあ、フォーマルな人とカダスな人で、刻印以外の大きな違いはある?」


「ああ、そうだな。悪魔には、魔法が使えない」


「魔法?」


「お前の世界には魔法がなかったのか? 割に小奇麗だが、どうやって暮らしてたんだそれは」


 魔法かあ、なんだかファンタジックな話になってきた。


 もぐもぐ。


 リンゴは痩せていて、あまり味がしなかった。


 まあ、肥料与えて育てたり、品種改良とかないんだから当たり前か。

 ふーむ。


 そもそも、この世界の生態系ってどうなってるんだろう? 魚とかリンゴとかを見る限り、あんまり変わらなそうだよなあ。


 まあ、それはそれとして。


「魔術には3種類あるんだが、火の魔法、水の魔法、鋼の魔法。この3つの魔法を使えるのは人間だけだ」


「じゃあさっきの村って……」


「おそらくはそこの男が火の魔法で燃やしたんだろう。非道で非常な鬼らしい」


 なるほどねえ。たった一人ですごい戦力差だと思ったけど、これは納得。


「私は、フォーマルハウトの人間が、憎い……!」


「まあ村焼かれたら普通そう思うよね」


「お前はもう少し空気を読め」


 むむ。僕の苦手とする分野の話をしたな。


「フォーマルハウトの連中にとっては悪魔の刻印は醜悪なものなのだろうが、我々カダスの人間にとっては、誇りなんだ」


 川魚を食みながら、ライちゃんは静かな熱を込めて語る。


「悪魔をその身に宿す我々だが、フォーマルハウトの鬼どもよりずっと誇り高い。無力かもしれない。だが弱者を虐げる連中を軽蔑する。弱き我々の、結束の証こそ、この刻印なんだ」


 そう言ってライちゃんは、わき腹に刻まれた刻印を見せてくれる。


 へー。結構肌綺麗だなあ。


「ライちゃんは、どっちなの? どっち生まれなの?」


「私は、自ら進んでこの刻印を体に刻んだ人間だ。……元々親はおらず、カダスの村はずれで生きてきた」


 なるほどー悪魔の子だったわけだー。


「ずっと一人だった。私は形に異常はなかったから、……迫害を受けた」


「迫害?」


「ああ。カダスでは、フォーマルハウトの人間に形が似ていると、鬼の匂いがすると言って石を投げられるのさ。私の場合、体は自由に動くし、耳も目も異常なかったからな」


 なるほど。障害の程度が高いか低いかで扱いが変わってくるわけだ。


 醜いけど、人間らしくて納得した。


「なのに子供助けようとしてたの?」


「……それとこれとは、別だ」


「別かなあ。僕のことも助けてくれたんだし、生きてる人間は全員助けようとしてたんじゃないの?」


「……」


「ライちゃんって、ホント面白いね」


 お人よしで、まっすぐで、正しくて、そうあろうとしていて。


 これ以上ないくらい、滑稽で、人間らしい。


「哀れまれることは多かったが、面白がられるのは初めてだ」


「へー、いいなあ。僕哀れまれるの大好きっ!」


「……どういうことだ?」


 胡乱気な顔。『コイツ煽ってんのか』みたいな目で睨んでくるライちゃん。


 そんなことはない。素直な感想だ。



「僕ね、可哀想な子になりたかったから、おとーさんとおかーさんと妹を見殺しにたんだー」



「……は?」


「家族で旅行に行ったとき、交通事故にあってね。僕は軽傷だったんだけど、救急車呼ばずに、三人が死ぬのをじーっと見てたんだ」


「……お前、なんで満面の笑顔で言えるんだ?」


「え、だって自慢話だもん。家族もねー? みんないい人だったし、多分いい家庭だったんだろうけど、僕、もっと不幸な設定がほしかったんだよねー。だから、ここで死んでくれたら丁度いいなって」


 懐かしい。あのころは虐待されてるって設定が欲しくて、自傷痕をつけてたりしたっけ。


 事情聴取とかいろいろ面倒だったけど、あの日以来僕のことをみんなもーっと優遇してくれて、最高だったなあ。


 ……神主のジジイに神社に軟禁されるまでは。


 くそっ。


「おいイズミ、わかるか。私は今ドン引きしているんだぞ」


「ふえぇ」


「性格に見合うノコギリみたいな顔だったらよかったのにな」


 ひどいなあ。


 ってゆーか、僕の話は置いておいて。


「ライちゃんは、フォーマルハウトの人間が憎いんでしょ? 結局どうしたいの?」


「……私は、あの国を……」


 ぱちっ、と舞った火の粉。


 彼女の瞳に映るのは、焼けた故郷の村。


 自分を虐げた人間たちの、焼け焦げた死体。


 首を刎ねられた無残な少年の死体。


 舞った血の、生暖かさ。



「フォーマルハウトを、滅ぼしたい……!」



「いいね」


 震える声で返事をする。


 殺すんじゃない。目の前に転がる仇の青年を見ても、彼女は怒りに任せて殺そうとはしなかった。


 滅亡。


 彼女が望んでいるのは、個人の死ではない。もっと根本の。


 国の死。


「僕が叶えてあげる」


「……異界の悪魔が言うと、説得力があるな」


 ライちゃんは僕を地獄出身だとでも思ってるんだろうか?


 言っておくけど、僕はそんなに万能じゃないんだけどなあ。ただのか弱い少年なのになあ。


 すると突然――



ガサガサッ



「 ! 何者だ!」


 茂みの奥の方から、物音が聞こえた。獣か何かかなあ?


「みゅっ!」


 ライちゃんの大声に驚いたのか、お客さんはぴょいんと跳びはね。


「みゅぴ~!」


「わっぷ」


 ぽいん、と。僕の顔にへばりついた。なんだかつべたい。ゼリーのようなプルプルした感触。


「んむ、んぐむ」


「みゅ~みゅ~!」


 ……。とれない。


 まって。


 これ、い、息が。


 息ができないんだけど……!


「ん~! む~!」


 死ぬ。ヤバい死ぬ。


 この世に僕を殺せる存在が神社のジジイ以外にいるなんて知らなかった。


 別に生に執着はなかったけど今めっちゃ面白くなってきたとこだから、ここで死ぬのはちょっともったいないって言うか。


 今!

 苦しい! のが!


 嫌!


「みゅっ」


「ぷはっ! はぁっ……はー……ぁー……」


 僕の主張にようやく気付いた水色のプルプルは、ぽいん、と顔から離れてくれる。


 ああ……空気うまい……はあ……


「だ、大丈夫か?」


 ライちゃんが笑いをかみ殺しながら語り掛けてくれる。


 む。


「僕、生死を彷徨ったんですけど」


「い、いやっ、だって……! あんなに強気な台詞を言っていた奴が、幼体のスライムに殺されそうになっていたからっ……ふはっ」


「ぐにに」


 なんか恥ずかしいやい。


「もー! きみのせーで恥ずかしかったじゃーん! いーかげんにしてっ!」


「みゅぷぴぃ……」


 もにもにっと持ち上げると、ごめんなさいしてるのか、ひどく落ち込んだ様子だ。とっても大人しい。


 ぷるぷるだ。


「ぷよぷよぷるぷるだ……」


 もにょもにょ。ふわふわ。肌触りもいい。ひんやりしてるけど、吸い付くようなこの感触は。


 知ってる。


「おっぱいだ、これ」


「は?」


 万感の思いを込めた『は?』をいただいたところで。


「これおっぱいだよライちゃん!」


「か、かわいい顔でおっぱいとか言うな!」


 ナチュラルに口説かれた。


「僕知ってる。ガールフレンドにAV女優みたいな巨乳のお姉さんがいるんだけど、」


「織り込まれる犯罪臭がすごい」


 涼子ちゃんのことです。


「その人にパフパフしたときの感触と一緒だよ! ライちゃんは知らないだろうけど、これがおっぱいだよ!」


「いちいちうるさい!」


 怒られた。


「ぴ~……」


「そのスライム、お前に随分なついているな」


「スライムかー。けっこうかわいいなあ」


「ぴ! ぴ!」


「じゃあ、今日からキミ、ソーダね」


「ぴ!」


「名づけるな。捨てるのがつらくなるだけだぞ?」


「ちゃんとお世話するもん! ねえライちゃん、ソーダ飼いたいよ~!」


「スライムなんて雑魚、すぐ死ぬだけだ。やめておけ」


「ぴー!」


 怒ったように跳びはねたソーダは、ライちゃんにとびかかる。


「甘い! 私をそこの間抜けな悪魔と一緒にするな!」


 いらっ。


 ……ライちゃんは軽やかにー、身をひるがえしてー、窒息するなんてことはー、ありませんでしたー。


 ただ、スカートの裾がちょーっとソーダに触れてたみたいで。


「……へ?」


「あ! 服だけ溶けてる!」


 ライちゃんの纏っていた薄い麻布がじわりじわりと溶け出している。綿菓子に水をかけたみたいに。肌などに全く異常はないのに、服の繊維だけ器用に溶けている。


「ちょ、や、やめろおおお! ごめんなさい! 悪かったから!」


 見る見るうちに溶け広がって、最終的にミニスカート丈まで短くなっていた。ライちゃんのスラリとした太ももがあらわになる。内腿のあたりは日焼けしてないからか、白い。


 もともとは肌の白い子だったのかあ。


「ライちゃんも照れてると色気があるねえ」


「う、う、嬉しくないわボケエ!」


 どんなに醜悪な女でも照れると美女に見えるといったのは誰だったか。うむうむ。しかるに恥じらいとは一番の化粧であるね。


「これからよろしくね、ソーダ!」


「ぴ!」


 ソーダは満足そうに返事をする。


 いや、これは結構な戦力になりますね。実際。男女両方無力化できる可能性あるよね。


「んー、じゃあソーダって戦力も増えたし。起こしてあげてもいいかあ」


「は? お前、なにを」


「えーい、おっきろー!」


 泡を吹いて伸びている勇者様のみぞおちに。



ドッ



 深々と蹴りを入れた。


「がっ!」


「おはよー、朝だよー。もー起きてってばー」


ドスッ ドスッ ドスッ


「寝てるフリしてるんでしょ? もーいたずらさんだなー」


ドスッ ズドスッ ズドスッ


「ば、バイオレンスすぎる! 口調と蹴りが一致してない! やめてやれ! なんかもう可哀想すぎる!」


 うえ? そうかあ。


「故郷を村で焼いた仇をかばうとは。ライちゃんはすごいなあ」


「想像以上の残虐な所業をしたお前がすごいんだぞ……」


 蹴りを止めると、呻きながら青年は目を開ける。この人、かなり体力も耐久力もあるなあ。これは結構強い人にみえる。


「こ、こは……?」


「……おはよっ」


 にっぱー、と笑うと。勇者様は顔を赤くする。


「き、君は先ほどの村のっ! 可憐なっ! 少女っ!」


「庭瀬愛澄です。異世界から来ました。よろしくおねがいしまーす」


「い、イズミ!? う、美しい名前だ! イセカイという地名は聞いたことがないけれど! た、旅人ということかな!?」


「そんなかんじでーす。フォーマルハウトとか、カダスのこと全然わかんなくて、大変なんですー」


「お、俺でよければ君の力になるよ! 何でも言ってくれ!」


 はは。ちょっれぇ。


「俺の名前はヴィレ。フォーマルハウト王国の勇者をしてる。まだ駆け出しだけど、いつかは英雄って呼ばれるようになるのが夢なんだ!」


「はぇー」


 なんかこう、ライちゃんとは方向性の違う世界を感じる。


 キラキラ爽やかな笑みを浮かべるこの青年。少年漫画に出てくる熱い主人公、というか。正義のために、みたいな。


 ……なんか、今までまとまりそうだった、『フォーマルハウトが悪で、カダスが善』みたいな方向性がずれちゃいそうだなあ。


「ところでイズミ。さっきの村で出会って……それからの記憶がないんだけど、あの後何があったのか教えてくれないか?」


 っていうか、こいつめっちゃ元気だな。回復力強すぎだろ。


 うーん、単刀直入に言ってねー。



「僕、ヴィレれんの味方するか、そこのライちゃんの味方するか迷ってるんだよねー」



「は!?」


「え……って、グール!?」


「いや待て話が違うだろうが悪魔!」

「黙れグール! 悪魔はお前だろうが!」


「ややこしい! お前は黙ってろ!」

「指図するな悪魔!」


「ヴィレれん、ちょっとお口にチャック、だよ?」


「はいっ!」


「……、まあ、もういい。静かになるならもう、どうでもいいか」


 ふーむ。二人はやっぱり顔を合わせるとこうなるのかあ。


 しかもこう、会話じゃなく、犬猫の吠え合いなんだよね。こんな中身のない時間を過ごす趣味はないんですよ、僕はね?


「大体お前よく考えれば、だ! この男を縛り上げたり武器を取り上げることもせずに、蹴り起こすなんて浅慮すぎると思ったんだ! 今私を殺すつもりだったんだな!」


「いやー、別にそういう意図じゃないんだけどね」


「いいやきっとそうに違いない! お前には騙されん! 許さんぞ!」


「だから――」


「話しができる相手かと思えばお前はやはり信用できない悪魔だ! この裏切者! 尻軽! 腹黒!」


 ぷちーん。


「そんなにソーダ責めされたいんだ?」


「みゅぴ!」


「あっ、ちがっ、ちがうっ、ま、待てやめっ、うわぁっ、服の下に潜り込んでくる!?」


「ソーダ、その女の処女奪っていいよ」


「ぴゅいぴ!」


「バカバカバカ! ごめんなさいごめんなさい! 話を聞きます、聞かせていただきますから、うわぁっ、やっ、そこはっ、……ん、あっ、だ、だめ、だめだめだめっ!」


「……なんか、グールのこんなの見てもキモいだけだから、止めてやってくれないか」


 本気で気分悪そうにしている勇者様。ヴィレれんからすると、オークが触手プレイ受けてるみたいに見えてるんだろうなあ。


「ソーダやめー」


「ぴ!」


「はーっ、はーっ……」


 まさかの人物からの助け舟で、なんとか純潔は守ったらしいライちゃん。


「すい、ません、でした……静かに、しています……」


 うんうん、まあ静かになったね。これでよしと。


「ヴィレれん、お話聞いてもいーい?」


「もう話してもいいのか? うーん。俺としても聞きたいことはあるが、とりあえずそちらの質問に答えよう」


 よしよし。僕には素直に接してくれる。


「フォーマルハウトとカダスについて、ざっくり教えてくれる?」


「ん? ああ。我が国フォーマルハウトは、調和を重んじる愛に溢れた平和の国だ!」


 鬼の国じゃないらしい。


「神に愛され恵みが多い! 草木は生い茂り、太陽は天高く輝き、透き通ったきらめく水を浴び、笑顔で肩をたたき合う! 弱きを助け、お互いを思いやる心優しい国民たちに溢れている素晴らしい国だ!」


 ほうほう。幸福の国っていうのが、より一層明瞭になった。


 やっぱ人づてに聞いてただけのライちゃんより、情報が多くて助かるなあ。


「じゃあカダスは?」


「カダスは、我々フォーマルハウトの罪のない人間たちを襲う人食い鬼が住まう、魔の国だ」


「人食い?」


 新情報だ。


「ああ。そこのグールもだが、連中は俺たちの国に奇襲をかけ、人を攫い、食い散らかしていくんだ……! 同じ人間の姿をしているから惑わされるだろうが、あいつ等はただの獣だ……! 悪魔だ……!」


 おやおや? 話が随分違うねえ。


 それにしても、随分と声音が強くなってきた。これはどうも。


「もしかして、ヴィレれんの知り合いも食べられちゃったり?」


「ああ。……ある日帰ると、家には母さんがいなくて」


 痛みを隠そうともせず、彼は目を細めて呟く。


「王宮の役人につれられるまま、説明を聞かされたよ。家に入ったグールに襲われ、帰らぬ人となったって。……もうすぐ、弟が生まれるって、時期だったのに。俺、楽しみに、してたのに……! なのに!」


 憎しみの視線をライちゃんへ一瞬向けて。


 僕を、まっすぐに見つめる。


「俺はグールに母親も弟も奪われた。……俺は、カダスを支配する魔王ロキを倒し、世界を平和にするんだ。そのために勇者になった」


 その瞳は、燃える炎のようにきらめき、見るものを惹きつける。一度目が合うと、離せなくなってしまうような、そんな強い瞳。


 ライちゃんに、よく似ている。


「イズミ、俺と一緒にフォーマルハウトへ行こう。俺はこれから、君を守るために戦う」


「あ、そういうの大丈夫でーす☆」


 握られた手をふりほどきながら、撃墜。


「ねえねえヴィレれん、魔法使えるんでしょ?」


「ん? ああ。――グア!」


 彼の手をかざした先に、ボウッ! っと赤の火球が現れる。林に燃え広がりかけると、


「ルフ!」


 声に呼応するように、水の柱が吹き上がり、炎を沈下する。


「スタ!」


 まばゆい光に包まれながら、一本の剣が空中に現れた。


「この三種類だ」


「すっごーい!」


 生まれてこの方見たことがなかったから、とってもびっくり! すごい! ほんとに魔法だ!


「ねえねえ、魔法ってゼンブで三種類?」


「ああ、この三つだ」


 うーん、ちょっとそこ引っかかるんだけどね。うん。まあいいか。


「それって、練習すれば出せるようになるの?」


「ああ! 悪魔以外は、使えるぞ! まあ、威力には個人差があるんだけどなー」


「どうやって出すの? 僕もやりたい!」


「うーん、こう、イメージが大切なんだよ。『絶対に出る』って思いこむんだ。信じて信じて、全然疑わなくなったとき、使えるようになるんだ」


「う~ぎゅ~! でろー! でろー! るふ~!」


 出ない。


「ははっ! まあ、俺もこうなるまでずーっと修行だったからなあ。一分二分じゃ無理だろうさ。最低でも十年は鍛錬を積まないとな」


「ひゃー! 大変じゃーん!」


 でも出したい! 使ってみたいよ魔法!


 それに。


 この、魔法っていうものも、僕にとっては、かなり大きな手掛かりになりそうなんだよねえ。


「ね、ね、お水の魔法おねがい! 僕泥水啜りたくなくって、喉乾いてたんだよ~」


「ああ、お安い御用だ」


 ヴィレれんは、呪文を唱えると、スキットルみたいなのに水を操って入れる。器用だなあ。


 ごくごくり。


「んく、んく。おいしい、このお水!」


 なんだか、ただのお水よりほんのり甘いかんじがする!


「そうか? 俺たちは生まれてからこの水しか飲んだことがないからわからないが……」


「なんか、まろやかっていうか、ふんわり香りがあるっていうかっ」


「ハッ毒でも入ってるんだろ」

「グールにやる水にしか混ぜないさ」


「誰がもらうか」

「誰がやるか」


 隙を見たらケンカしてる。もー。


 でも、なんかこのお水はちょーっと気になるかも。僕、結構自分の舌は信じてるんだよね。


「ぴゅいぴっ!」


「あ、ソーダもお水欲しいの?」


「ぴー……」


 嬉しそうにお水を貯えるソーダ。気持ちよさそう。


「お、スライムか。丁度いい、肩慣らしに切り捨ててやろう」


「ぴゅいぴー!?」


「こーらヴィレれん。僕に信じてほしいなら静かにしてなさーい」


「はーいっ」


「ハッ、陽国の勇者サマはちょろいな」


「ライちゃんもソーダプレイが嫌なら静かにー」


「……」


 うーん、と。僕はしばし考える。


 この世界をぐちゃぐちゃにして遊ぼうにも、圧倒的に情報が足りない。


 二人から聞いた話は、私的な意見に歪まされていて、どうにもわかりにくいし。齟齬があるのは気がかりだし。


 話を聞いただけだから確証は持てないけど。もしかしたら、この世界。


「ふふっ」


 ――僕より頭のおかしいことになっているのかもしれない。


「決めましたー!」


「おお! イズミは俺を信じてくれるんだな!」

「私のほうが早かった! 私だろ! おい悪魔!」

「みゅぴ?」

 騒ぎ立てる二人とかわいいソーダに向かって、指をさす。


「カダスの王様とフォーマルハウトの王様、どっちにも会いに行きます☆」



「「は?」」



 この二人、結構似てると思うんだけどなあ。


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