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森の王

作者: 李苑隆之

連載小説の気分転換に、と思って書いてみました。



彼はとある森の王だった。



横柄にふるまう前王に勝ってから王となった彼は森の仲間を集めて鍛錬に励んでいた。



戦争の準備をしていた。



彼らの住処を守るため、命を懸けた戦争の準備をしていた。



王はわかっていた。全てを察していた。



ここがもうすぐ攻められ、森の木々を切られ、自分の命が残り僅かなことも。



同じ親の下で育ち、お互いを高め合い、旅立っていった王の姉弟は『それ』によって殺され、住処を壊され、子を妻を攫われていったのだから。



王は決心している。


何があってもここを全力で命を賭けて守り通す、と。自分が死んでも仲間や家族は生かす、と。


これは生を勝ち取るための闘いだ。



この森よりも姉弟の住んでいた森よりも親が治めていた森よりも大きい領地を治める憎きニンゲンという名の天敵。


王は爪を研ぎ、毛を整え、腕を鍛えてその時を待つ。























そしてついにその時はやってきた。



彼が王となってから作った偵察隊が王の元へ戻ってきてニンゲンがもうこの森の入り口まで来ていることを伝えた。



王は注意を促し、森中のオスに警戒態勢を取らせ、他のメスや子供たちを決めていた場所に避難させた。



どうやら数えただけで10匹程来ているらしい。



パーンッ!


不意にそんな音が聞こえた。ついで伝令が王に入り口で番人をしていた兎がやられたと報告に来た。



ついに犠牲者が出てしまった。



ニンゲンの持つ武器は脅威だ。王にはない遠隔攻撃力を持ち、王にはない知恵を持っている。


王は森中にいるオス1体に番人の保護を頼んだ。また、その番人の保護を護衛させた。


それでも彼らは帰ってこなかった。対抗しようと試みたが、その前にあの長い筒のようなものでやられたのだ。






犠牲者が増え、涙ぐむものも多く、それを見て王は決断した。



咄嗟に次期王を長年彼に仕えていた重臣に任せ、王自ら戦地に赴くことを。



もうこの森の仲間の大半はやられてしまった。



王は行く。


ニンゲンから生を勝ち取り、生を過ごすために。



王は行く。


親や兄弟の仇を討つために。



王は行く。


いつまでもこの森の王で有り続けるために。



王は行く。


歴戦をくぐり抜けてきた1体の熊として。



王は行く。


多大な勇気と頭に浮かぶ希望を持って。





王はニンゲンの前に現れ、敵をその大きな体でもって盛大に声を出し威嚇した。



震え上がるのはニンゲン達。途端にその武器を手に持ち、死んだように倒れる者もいた。


王は知っている。これがニンゲンの、危機に直面したときに逃げる方法だということを。



背を向けて逃げ出す者もいた。王の加勢とばかりに周りのオスが逃げた者を追いかけた。



冷静に今の状況を観察し軽々と動くその手で何かを伝える者もいた。


王は領地を脅かす存在を排除すべくサインを出す男を狙って己の爪を振り下ろす。




しかし、その爪が男の頭に届くことは一度もなかった。



王の願いが、使命が、想いが、叶うことはなかった。



爪が男に当たる前に小さい銃弾が王の胸を貫いたからだ。



男らは安堵し、王は絶望した。





王が倒れ、仲間は混乱し、その仲間をも小さい弾で貫かれた。



王は涙した。守れなかった。仲間を、約束を、森を、自分を。



王は僅かな希望と大量の絶望を抱きながら目をつむった。




自分が死んだことを知らせるために、ニンゲンへの恨みをぶつけるように、王は咆哮し力尽きた。



















王の爪を回避したリーダーは少し気の抜けたような声を出した。



「いやー、今回の任務は本当に危なかったな。この銃を一度試してみたかったがためにこの依頼を受けたが、こんなに危険を冒すものだとは思ってもみなかった。」



もう一人、死んだふりをしていた男はそれに答える。

「まあ、でも犠牲者がなくて良かったじゃないですか。それにまだ終わってませんよ。」


「いや、これで終わりじゃなかったか?」

「この熊、最後に咆哮したじゃないですか。ということはまだ近くに仲間がいるってことでしょ?折角新しい武器もあるんで、この武器の犠牲者となってもらいいましょうよ。」


「それもそうだな。じゃあ、誰かこの熊解体しておいてくれ。俺とあとここにいる3人は俺について来い。それ以外はここに残れ。行くぞ」

「「はい!」」


リーダーらは去っていく。




王が生を終えた場所にとどまる6人は、短剣を持って熊を解体し、銃を持って周りを警戒し始める。



「それにしても、参謀も中々残虐だよなあ。こいつだけじゃ物足りなかったのか他の動物も狩ろうとするなんて、なあ。」


「そうだな。それにしてもこの熊の肉、身が引き締まってて美味そうだな。ジュルッ。涎が出てきちまうぜ。速く焼きてぇな。」


「それはわかるな。食いてぇわ。狩りの後のビールは最高だよな。」


「ああ〜、ビール飲みてぇ〜!ってちょっとこの顔見てみろよっ、泣いてるぜこの熊!」


「え、どれどれ・・・。ホントだ、泣いてやがるっ!はっはっは、おもしれぇな!この顔で涙!!笑えてくるわ!」



王の死体の前で談笑する二人組。









王の無念を笑う彼らは忍び寄る影には全く気づいてはいなかった。






Fin.


ブックマーク・感想お願いします。また、小説「神聖の転生者」「”神になる”を選んだらノルマを課されました。」も読んでみてください。

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