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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
8/71

8話


 パパに頼まれていたレターセットをどれにしようか迷っていたら遅くなってしまったため食事はこれをパパに届けて家に帰ってから、簡単に済ませよう。急いで病院へ戻る。




「ごめんなさい。遅くなっちゃって」


「ナースステーションに誰か居なかったか?」


「今日は河西看護師長が夜勤で、パパについては不思議に何も言わないから平気だった」



「頼まれものね」と言って袋を渡した。

そうしたら汐希パパは


「ありがとうな。これ、代金とお駄賃だ」

「お駄賃はまずいよ。さすがに……」



 汐希パパは財布の中に入っていた5千円札を渡してくれた。患者様から金品を受け取らないのは職員すべてにおいて同じだが、実習生は菓子類なども禁止されている。小児科実習の時などはシール一枚もらうのまで禁止されていた。どう断ろうかと躊躇っていると、汐希パパは


「なかなか新しい服も買えていないんだろう? そのうちに買ってあげられるようになるから、それまでに風邪を引かないように、暖かいものを買う足しにしなさい」


 そう言われた。確かに実習費や看護師国家試験模試代、看護師国家試験問題集などを購入しているから食費を最小限に削り衣料費を諦めて捻出していた。汐希パパが気づかない訳がないでも、もらうわけにはいかない。そんなよつ葉にパパは言葉を続けた。


「これは、担当してくれている看護学生に渡すんじゃない。買い物をしてきてくれた俺の娘に渡すものだ」


「……ありがとう……。大切に使わせてもらうね」


 パパの言葉に心打たれ受け取ってしまった。それをお財布の中に入れ、そしてバックの中に仕舞った。それを見守っていて待っていたかのようにパパに声をかけられた。


「なぁよつ葉?」


「はい?」


「最近元気がないように思える。この部屋の中だけかもしれない。ここだったら少なくとも他の患者さんに聞かれることもない。何か悩みがあるなら話してもらえないか?」


 汐希パパが真剣な表情で話をしてきた。それを目の当たりにして気が緩んだのか


「本当は、こんなことを絶対に病室で話さないって決めていたのに……」


「今はここを病室だと考えるな。自分の部屋だと思って言えばいい」


「そうね……、パパが入院する少し前のことかな。看護師試験の模試を受けたんだけど、その結果があまりよくなくて、それを思い出しちゃってて……」


「そういうことだったのか。変な思い出し方をしちゃったのか?」


「私、昔、実習の途中でいろいろあって、あまり老年看護が得意じゃないから……。そこを指摘されちゃって、もちろん……、何でも出来なくちゃいけないって分かっているんだけど……」


 気がつくと全てを汐希パパに話していた。


「そういうことだったのか。確かにおまえが病棟の中でしないって言っている内容に反してしまうもんな。島さんとか、河西さんは知ってるのか?」


「一応見せなくちゃならないから、知ってはいる。でも、二人ともまだまだ時間あるしって言ってくれたけど……」


「よつ葉、その模試はそのときしか受験できないものなのか? それとも何度でも受験できるものなのか?」


「ううん、別に規定はないけど、そのための勉強もしなくちゃならないから、すぐに出来るってものじゃないし」


 パパは顔をゆっくり横に振った。


「隣においで」


 パパに声をかけられよつ葉が座るとパパはそっと背中に手を当ててくれて話し始める。


「いいか、次に受けられる直近の模試、今のままでいい。受験しなさい。試験費用は出してやるから」


「パパ……?」


「おまえが苦手なものは俺で練習したんだろう。夏休み前のおまえじゃない。今のおまえなら何も準備しなくても出来る。俺を含めて河西さんもみんな合格点を出している。自信をつけるんだ。そのかわり結果がでるまで誰にも、河西さんや島さんにも受けることを話すんじゃない。これは俺とよつ葉の約束だ。いいな? みんなをびっくりさせてやれ。みんなに心配をさせたくなかったら結果を出すしかない。今のおまえなら出来る」


 パパは、個人の貴重品ロッカーを開けて中から封筒を取り出してよつ葉に渡してくれた。


「この中に模試の受験費用が入ってる。確か明日までが締め切りのはずだ。まだ間に合う。これを使いなさい。これは親だから言える話だ。他の人には結果が出るまで内緒だからな」


「うん。分かった。やってみる」


「もう問題も簡単に感じるくらいだろう。老年看護や精神病棟のことが頭の中でよぎったら、俺のことを思い出せ。老年と言われればまだ微妙かもしれないが、俺だって一種の精神病患者だ。俺なら怖くはないだろう?」


「うん。やってみる。ありがとうパパ……」


 病室を出るとき振り返ってパパを見て病室を出た。






「あの、小林さん……」


 夕食の配膳が終わって、パパが食事を始めようとしたときだった。


「どうしたんですか?」


 ドアが全部閉まりきるのを待って、パパの前に立った。


「ありがとう。明日行ってくるね」


「うん、それでいい。今のおまえに怖いものはないはずだ。ここに一番苦手なジャンルの患者を前にしてやってるんだから」


「うん。そう思ったら凄く楽になった。明日、この手紙持って行くね」


 そして、パパの手を握って


「菜須よつ葉、行ってきます。本当にありがとうございました」







【看護師国家試験模試会場】

 この看板をみつけ受け付けに受験票を出す。


「☆☆大学の菜須よつ葉です」


「はい。試験のお部屋へどうぞ。菜須さんのお部屋は右手側の奥のお部屋です」


「ありがとうございます」


 受験者数もかなりいるようだ。みんなも緊張してるはず。と自分に言い聞かせよつ葉にはパパからの手紙もある。頑張れるはずと信じて頑張る。


午前の部 2時間40分

午後の部 2時間40分


必修問題が40/50

一般問題188/250


 とにかく頑張る事が、受験させてくれたパパへの恩返し。今まで勉強してきたことを問われるだけ落ち着いていけばできるはず。心を落ち着かせ待機する。


 試験官が入室され、注意事項が伝えられ問題用紙が配られる。試験官の言葉で一斉にペンが動き始める。


 あっという間に全ての問題を終えていた。後は結果が届くのを待つだけ。手応えはあると思うけど結果が届くまで待つことにする。

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